11)フレデリックの話
ローズは息を呑んだ。
「大丈夫だよ。医者のハロルドさんもこっちにいるから。ロバートは大丈夫。過労と慣れない暑さだろうって」
「無理をして」
ローズは、胸元のロケットを握った。ロバートはいつもそうだ。己の限界まで無理をする。
「ローズ、ここの生活は不便だ。もとからの使用人たちは信用出来ないから、全部自分達でやらないといけない。大変なことがあったあとだから、王都に帰りたいだろうけど、ロバートの側にいてやってくれないか」
「もちろんよ。私もロバートと一緒がいいわ。それに、十二歳までは孤児院育ちよ」
ローズは毎晩サンドラと一緒にいたが、一番、側に居て欲しい人はロバートだ。
「忘れてた。それは頼もしいな。ありがとう。メアリさんも修道院にいたから大丈夫って、駆けつけてくれて、助かってる」
フレデリックは、笑った。
「ローズ、これから話すことは、俺から聞いたってのは、できれば内緒にしてほしい。ロバートは、君がいなくなってから、殆ど眠っていないはずだ。エリックから聞いたけど、影と一緒に君をずっと追いかけていた間、眠れないと言って毎晩、火の番をしていた。移動中に、仮眠するだけだったらしい」
「ロバートが」
ローズもサンドラから聞いてはいた。だが、同行していたエリックから聞いたというフレデリックの話は、より具体的で、ローズはロバートの身を案じた。
「君を取り返して、もう大丈夫だろうって、俺達は思った。甘かったよ。俺もエリックも。俺、聞いちゃって。ロバートが、アレキサンダー様とハロルドに問い詰められてる最中に、近くにいた。『悪夢を見る、ローズが冷たくなって、もう何も言わない』とかなんとか言ってた。アレキサンダー様が、俺を寄越したのは、そのせいだ」
フレデリックが、微笑んだ。
「僕から聞いたって内緒だよ。多分ロバートは、ローズの前では、いつものロバートでいたいだろうから」
「はい」
フレデリックの言葉に、ローズは頷いた。
「ロバートは、体調管理も仕事だといって、アレキサンダー様に謝罪して、すぐに仕事に戻ろうとするから、アレキサンダー様が呆れて、ハロルドが凄い剣幕で怒って、部屋に連れ戻していたけど、エリックが、そんなことをしても意味はないって、ローズに会わせないと無理だって、まぁ、それでサンドラに会いたい俺が迎えに来たと」
フレデリックの話にはまとまりがなかったが、何があったかはよくわかった。
「あら、嬉しいことをいってくれるじゃない」
重苦しい雰囲気を吹き飛ばそうというかのように、サンドラはことさらに明るく笑った。
「なかなかの修羅場だったよ。おかげで、俺はサンドラに会えたから幸せだけどね」
ローズに、気にするなというように、フレデリックはサンドラの手を取り口づけた。
「愛しいサンドラ、明日から俺は君と同室だからね」
それでは、ローズは一人になってしまう。
「ローズはロバートと同室だから。まだ、ロバートは知らないはずだけど」
「えっ」
「大丈夫、寝台は二つ運び込んであるはずだから」
「あら、でも、ローズ、添い寝してもらったほうが安心よね」
「え、あの、そんな」
耳まで真っ赤になったローズをみて、サンドラに続いてフレデリックも笑った。
「あ、なんだ。ローズもわかっているんだ。安心したよ。知らなくっても、俺が教えるわけにも行かないしさぁ」
「フレデリック、あんた何を言ってるの」
フレデリックの頭に、サンドラの拳骨がお見舞いされた。
真っ赤になったはずのローズの顔色が、平静に戻ったところで、目的地に着いた馬車は止まった。




