10)フレデリックの迎え
翌日、迎えに来たフレデリックと一緒に、ローズはサンドラと馬車に乗り、アレキサンダー達がいるという屋敷に向かっていた。
オリー子爵家は、奴隷市場に関わっていた罪で取り潰しが決まっていた。あの競りの日、ローズは知らなかったが、アレキサンダーは手勢を連れて、オリー子爵家に乗り込んでいた。
「あの奴隷市、オリー子爵家の領地だったし、近くの街道を塞いでいたのもオリー子爵家の手勢だった。奴隷市の日に、アレキサンダー様は、王都の近衛騎士団とオリー子爵家の屋敷に乗り込まれた。最初はオリー子爵も奴隷売買を隠匿していたという罪状を否定したよ。そこに、目に矢が突き立ったままの胴元の首が届けられてさ。オリー子爵が観念して口を割ったよ」
その場にいたというフレデリックの話をローズは聞いていた。
「オリー子爵が、自分だけが処罰されるのは不服だといって、西隣のリード伯爵と、南隣の子爵だけど、あれ、名前忘れたな。まぁ、いいや。も、関与しているって証拠を出してくれたおかげで、随分と、効率よく沢山捕まえたよ」
フレデリックの大雑把な説明にローズは苦笑した。
「このあたりは、荒れ地が多くて、あまり作物が取れないから、南のミハダルへの奴隷を売ったり、奴隷商人から税金とったりして、儲けた金で贅沢していたらしい。俺にはよくわからないけれど、アレキサンダー様とロバートとエリックが調度品とか、宝飾品とか、地下のワイン蔵みて呆れていたよ」
「フレデリック、あんただって男爵家のお坊ちゃんじゃない」
サンドラの言葉に、フレデリックは肩をすくめた。
「貧乏男爵だから、そんな贅沢品なんて家にはないよ。高級だなってわかるけど、どれくらいかなんて想像つかない。ロバートが、家具と美術品全部に布をかけて絶対に触るな、傷一つつけるな、って命令していたから、相当だろうなぁって思ったけど」
「相当でしょうね」
フレデリックは暢気に笑うが、サンドラとローズは顔を見合わせた。
「きっと、掃除ついでに傷の一つでもつけたら、大騒ぎになるやつよ」
「王太子宮でも、客間にしかないような家具でしょうね」
アレキサンダーは華美を好まない。民の税金である以上、民のため、国を富ませるために使うべきだというのがアレキサンダーの考え方だ。そのため、王太子宮は、外部の人間の目に触れるところには金をかけるが、それ以外は王族にしては質素だ。
「今から行くのは、元オリー子爵家の屋敷だよ。三家のなかでは、まだ調度品に金をかけていなかったらしい。奥方様の宝飾品はすごかったけど、もう王都に運んだから大丈夫だよ。リード伯爵家の屋敷は、封鎖して、厳重に警備している。ロバートは、時期をみて順に売るらしいよ。あぁ、思い出した。カダツ子爵家だ。そこも、同じだって。俺は見ていないけれど。レオン様が、法を犯して贅沢などして恥ずかしくないのかっておっしゃっていたけど。そういう良心なんて、あるわけないよね。そんなことする連中に」
フレデリックのお喋りは止まらない。未だに馬車が怖く、サンドラに手を握ってもらっているローズの緊張を、解きほぐそうとでもいうかのようだった。
「極刑は確定よね」
「そう。三家とも取り潰しの上、全員極刑。他にもどうせあるだろうけど、まずはわかっているところから、片付けることにしたんだ。ロバートが、王太子領と王領がまた増えるって、悲壮な顔だった」
ロバートの話題にローズは微笑んだ。
「誰かが、ご褒美で叙爵や陞爵はしないの」
ライティーザでは、建国早期から、人身売買は禁止されていた。奴隷商人達とは鼬ごっこが続き、大々的に取り締まることができたのは、今回が初めてのはずだ。建国以来の快挙に貢献したものが、それ相応の褒美を賜ることもあるだろう。
「ロバートが全力で断った時点で、その話は、触れてはいけない話題になったよ」
フレデリックは神妙な顔をして言った。
「アレキサンダー様のお側を離れるわけにはまいりませんって」
最早ロバートの口癖と言ってもおかしくない言葉をローズは口にした。
「言うからね、ロバートは」
フレデリックも苦笑しながらうなずいた。
「アレキサンダー様も懲りない御方というか、ロバート様もその点に関しては頑固な方だから、相当険悪になったでしょうね」
サンドラの言葉に、フレデリックが気まずそうな顔をした。
「それがそうでもなくて。ローズ、あのね。気持をしっかりもって聞いていて欲しいんだけどね」
真剣な様子のフレデリックに、不安になったローズの肩をサンドラが抱いてくれた。
「朝、いつもの鍛錬中に、ロバートが倒れた」




