9)教会の日々
吟遊詩人達の仕事は早かった。
ローズば、一日休んで翌日、慰問を開始した。初日は教会の隣にある孤児院での慰問だった。その日、窓の外から吟遊詩人達の歌が聞こえた。
そこかしこで吟遊詩人たちは歌った。
─聖女ローズが王太子アレキサンダーを導き、不当な人身売買で家族と引き離された民を救った。疫病から東のイサカを救った聖女ローズは、奴隷商人達から人々を救った。聖女ローズは、多くの人々を救い、神の愛を具現した。ライティーザのアレキサンダー王太子を導いた、幸いなるかな、ライティーザの民よ、幸いなるかな─
ローズは、マイルズ達、吟遊詩人達の歌に戸惑った。
「サンドラ、どうしたらいいのかしら。私、導くもなにも、勝手に身代わりになって、攫われてしまっただけなのに。アレキサンダー様とロバートが、追手を放ってくれたのよ。導くなんて、そんな、恐れ多いわ」
夜、サンドラと二人きりになるのを待って、ローズは胸の内を打ち明けた。
「ローズ。受け入れなさい。これは、あなたのためでもあるのよ」
サンドラは、そう言うとローズを抱きしめた。
「ローズ、これはあなたのためでもあるし、アレキサンダー様のためにもなる。大切なことなの。受け入れなさい。ローズ。大切なことだから。詳しいことは、また教えていただけるわ。今は受け入れて、ローズ」
ローズは、すぐに王都に戻ると思っていた。だが、王都からきた近衛兵と近隣の騎士団に警護され、サンドラに連れられ、南の町を教会に泊まりながら、順に慰問していた。
「ローズ、今すぐは、王都に戻らないほうが良さそうだと、アレキサンダー様達は思っておられるの。私もそう思うから、こうして貴女と一緒にいるのよ。可愛いローズ」
ローズにとって、サンドラは、リゼと呼ばれていた頃からの知り合いだ。夜、一人が怖くて眠れないなどと、子供っぽいことを打ち明けられたのも、相手がサンドラだからだ。
「えぇ。明日、アレキサンダー様とロバートがいるところに行くのね」
「そう。だから、今日は早く休みましょう」
「はい」
サンドラの言葉に、ローズは頷いた。
「あの、今日も、一緒に」
「もちろんよ。ローズ」
「ごめんなさい。サンドラはフレデリックの奥さんなのに」
ローズの言葉にサンドラは笑った。
「あなたもそういうことを、気にするようになったのね。すっかり大人になっちゃって。泣き虫で甘えん坊の可愛いローズのままでもいいのに」
ローズは抱きしめてくれたサンドラの腕の中で目を閉じた。開放されてから、ローズは一人で過ごせなくなっていた。特に、暗闇が怖い。昼間、移動していても馬車の窓は板で塞がれ外が見えなかった。夜、おそらくは彼らの仲間のものらしい町外れの家に泊まったが、部屋には灯りはなく、外では時に物音がして本当に怖かった。
「ロバートには、内緒にして欲しいの」
事後処理で忙しいであろうロバートに心配をかけたくなかった。
「もちろんよ。一緒に寝てるなんて、嫉妬されたら怖いもの。言いません」
サンドラは、にっこり笑って片目をつぶった。ローズは声をあげて笑った。明るいサンドラのおかげで、ローズは笑うことが出来るようになっていた。




