表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/210

4)教会

 隣町の中心部にある聖アリア教会に到着したのは、太陽が地平に沈もうとする頃だった。

「お二人共、ご無事で何よりでした」

王太子宮にいるはずの、フレデリックとサンドラの夫婦が出迎えてくれた。


「ローズ」

「サンドラ」

抱き合って再会を喜ぶ二人に、ロバートとフレデリックは温かい眼差しを向けた。


 教会の宿泊施設に泊まるとロバートはローズに告げた。

「アレキサンダー様が視察される場合は、各地の貴族の屋敷や、地元の有力者の屋敷に宿泊されます。今回は私達だけですから、宿泊をお願いすることはできませんでした。大司祭様が、全国の教会に通達を出してくださいました。当面の間は、ローズ、あなたは教会に泊まることになります」

ローズと並んで座っていたロバートは、言葉を切った。

「ローズ、疲れているところを、本当に申し訳ありません。ですが」

「慰問かしら」


 大司祭に、聖女ローズとその一行の宿泊を依頼された地方の教会の司祭達が、何を期待するかくらい、ローズにも想像はできる。


「えぇ。明日は一日休んでください。この教会の司祭様もそうおっしゃって下さっています」

「明日からでも大丈夫よ」

ローズを抱きしめたロバートが、苦しそうな顔をしていた。

「いいえ。ローズどうか、無理をしないでください。本当は、もっとゆっくりあなたを休ませて、本当に、私は、あなたを」

 ローズの頬に、ロバートの涙が落ちてきた。


「捕らえるためとはいえ、私は、すみません、あなたを、(おとり)に、危険にさらした」

ローズはロバートに向けて手を伸ばした。そっと、ロバートの頭を胸元に抱いた。


「ロバート、あなたのせいではないわ。奴隷売買を取り締まるいい機会だと、私でも思ったもの」

「ですが、私は、あなたを、もっと早く助けられたのに」

「奴隷売買を放置することになるわ。私はあなたにそんなことをして欲しくはないもの。私一人を助けても、意味がないでしょう。きっとあなたが来てくれても、私は逃げなかったと思うの。怖かったけど、摘発するいい機会だってわかっていたもの」


 目に涙を溜めたロバートが、何かを言おうとしていたが、言葉にならないらしい。

「マイルズに会ったわ。窓辺に真珠が二つ並べておいてあったわ。きっと気づいてくれていると思っていたの」


 ロバートがわずかに頷いた。片手の無いマイルズに出来る芸当ではない。誰かが、ローズに、真珠に気づいていると、知らせようとしたのだ。


「競りの前の日、来てくれたでしょう」

「気づいて」

ロバートの頬に涙が流れた。

「だって、あなたくらい背の高い人なんて、ほとんどいないもの。ロバート、あなたは私を助けてくれたわ」


 ローズにも確信はなかった。だが、物陰に立つ背の高い人影はロバートとしか思えなかった。

「きっと助けに来てくれる。だから、なんとかして私も逃げなきゃと思って、競りを見ていたわ。矢が飛んできたとき、ロバート、あなただと思ったの。だから伏せたわ。あなたが矢で、狙っている人を討ちやすいように。怖かったわ。怖かったけど、ロバート、私はあなたを信じたわ。あなたを信じて、信じたとおり、あなたは私を助けてくれたわ」


 ローズの頬にも涙が筋を描いた。

「怖かったわ。助けてくれた、助かった、でも、怖かったの」

泣き出したローズを、ロバートが抱きしめてくれた。ただ、互いに抱き合って涙を流した。


 ローズは思い切り泣いた。声を上げて泣いた。グレースの身代わりとなると決めたあの日以来の涙だった。


 ローズを抱きしめてくれているロバートは、涙を流しながらも慰めるようにローズの頭をなで、背をさすってくれていた。


 帰ってきたのだ。この優しい人の腕の中に、ロバートのところに帰ってきたのだ。ローズは、何度目かの思いに身を任せた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ