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【完結】マグノリアの花の咲く頃に 第四部  作者: 海堂 岬
第十三章 それぞれの戦い
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16)提案

 ローズを追跡する日々が続いていた。ロバートは、影を率いるだけでなく、リチャードが連れてきた森の民、サミーが連れてきた森の民も率いた。


 森の民の人数は、影の倍以上だった。


 ロバートは、森の民にも緩やかではあるが規律を求めた。声を荒らげることもなく、ロバートは影だけでなく、リチャードとサミーが率いる森の民も従えた。ロバートには、人を従わせるなにかがあった。


 綻びが現れるのは夜だ。


 ロバートは、夜、眠ろうとしなかった。影たちも、理由を察しているから、無理強いはしない。


 早朝の出発前の僅かな時間、夕刻に野営の用意をする間、日の高い頃合いに、馬を長めに休ませるためにと、様々に理由をつけてロバートに仮眠を勧めた。常に誰かが付添い、(うな)され、ローズの名を呼ぶロバートを起こした。


 眠らなければ体が持たない。

 眠ると心が持たない。


 ロバートの頬が徐々に()け、髪に白いものが目立つようになっていくことを、案じるのは影ばかりではなかった。


「なぁ。どこにいるかわかっているなら、ちょっとくらい顔を見ても良いんじゃねぇのか」

 とうとうサミーまでもが、言い出した。

「私もそう思う。このままでは、たどり着く頃には、戦うどころではなくなるかもしれんぞ」

 騎士団長だったリチャードの懸念は具体的だった。


「我々もそう思うが、本人が行こうとしない」

「彼のことだ。会えば、そのまま連れ出すくらいできてしまう」

「今までの苦労が、全て水の泡だ」

影達の言葉に、サミーは顔をしかめた。

「面倒くせぇなお前ら」


 エリックには、サミーの言うこともわかる。だが、ロバートの性格もよく知っている。

「私達は、まだましなほうだ。(しがらみ)はすくない」

(しがらみ)とはなにかと、エリックが尋ねようとした時だった。

「あぁ、そうか。わかった。思いついた。手はある」

影の一人が、なにかひらめいた。


「我々だけで考える必要はない。足手纏(あしでまとい)をつれていけばいい。彼らも近くにいるはずだ」

 何かを思いついてからの、影の行動は早かった。


 近くまで来ていたという、吟遊詩人の師弟が一行に合流した。

「泣き虫リゼが、頑張っているときいたから、僕も行きたいと、師匠に志願しました」

 吟遊詩人の弟子は、片腕の手首から先がない、マイルズという少年だった。グレース孤児院でローズと一緒に育った孤児の一人だと名乗った。


マイルズに道中の不便がなかったかと気遣う影たちに、マイルズは笑った。

「ずっと、こうなので、僕はこれが普通だから、問題ありません」

マイルズは屈託なく答えた。

「そういうものなのか。私が知るものは、それぞれ便利なように義手を使っていたから、君のようにそのままにしているというのは、不思議だ」

「一度、試したのですけれど、上手く使いこなせなかったんです」

「確かに皆、使いこなすまでには苦労していたな」

「興味があればまた、お前の師匠に相談すると良い」

「はい」


 吟遊詩人の大半が、ライティーザの影だと、囁かれた。影といっても、吟遊詩人達が、エリックが師匠に指示を仰いだような技を持つわけではない。


 各地へ歌で情報を伝え、旅先で噂話に耳を澄ませ、情報を集めることで、彼ら吟遊詩人達は国のために忠義を尽くした。今回も、下手な噂が立つ前に、吟遊詩人が歌で情報を広めるため、各地に広がっていた。


 この先の任務には、少々危険があると、影が伝えても、マイルズの意思は揺らぐことがなかった。

「皆さんがローズと呼ぶ子は、僕にとっては孤児院で一緒に育った“泣き虫リゼ”です。泣き虫で優しいリゼが頑張っている時に、孤児院ではお兄ちゃんだった僕が頑張らないと駄目だから、僕は行きます」


 マイルズの決意を確認し、影達は、ロバートに一つの提案をした。

「あの子はマイルズと一緒に育った。数年顔をみていなくても、マイルズだとわかるだろう。今は一人で心細いだろう。だが、追ってきている者がいると、それとなく、わからせて、安心させてやったらどうだ」


 影の言葉に、ロバートがゆっくりと頷いた。



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