16)提案
ローズを追跡する日々が続いていた。ロバートは、影を率いるだけでなく、リチャードが連れてきた森の民、サミーが連れてきた森の民も率いた。
森の民の人数は、影の倍以上だった。
ロバートは、森の民にも緩やかではあるが規律を求めた。声を荒らげることもなく、ロバートは影だけでなく、リチャードとサミーが率いる森の民も従えた。ロバートには、人を従わせるなにかがあった。
綻びが現れるのは夜だ。
ロバートは、夜、眠ろうとしなかった。影たちも、理由を察しているから、無理強いはしない。
早朝の出発前の僅かな時間、夕刻に野営の用意をする間、日の高い頃合いに、馬を長めに休ませるためにと、様々に理由をつけてロバートに仮眠を勧めた。常に誰かが付添い、魘され、ローズの名を呼ぶロバートを起こした。
眠らなければ体が持たない。
眠ると心が持たない。
ロバートの頬が徐々に痩け、髪に白いものが目立つようになっていくことを、案じるのは影ばかりではなかった。
「なぁ。どこにいるかわかっているなら、ちょっとくらい顔を見ても良いんじゃねぇのか」
とうとうサミーまでもが、言い出した。
「私もそう思う。このままでは、たどり着く頃には、戦うどころではなくなるかもしれんぞ」
騎士団長だったリチャードの懸念は具体的だった。
「我々もそう思うが、本人が行こうとしない」
「彼のことだ。会えば、そのまま連れ出すくらいできてしまう」
「今までの苦労が、全て水の泡だ」
影達の言葉に、サミーは顔をしかめた。
「面倒くせぇなお前ら」
エリックには、サミーの言うこともわかる。だが、ロバートの性格もよく知っている。
「私達は、まだましなほうだ。柵はすくない」
柵とはなにかと、エリックが尋ねようとした時だった。
「あぁ、そうか。わかった。思いついた。手はある」
影の一人が、なにかひらめいた。
「我々だけで考える必要はない。足手纏をつれていけばいい。彼らも近くにいるはずだ」
何かを思いついてからの、影の行動は早かった。
近くまで来ていたという、吟遊詩人の師弟が一行に合流した。
「泣き虫リゼが、頑張っているときいたから、僕も行きたいと、師匠に志願しました」
吟遊詩人の弟子は、片腕の手首から先がない、マイルズという少年だった。グレース孤児院でローズと一緒に育った孤児の一人だと名乗った。
マイルズに道中の不便がなかったかと気遣う影たちに、マイルズは笑った。
「ずっと、こうなので、僕はこれが普通だから、問題ありません」
マイルズは屈託なく答えた。
「そういうものなのか。私が知るものは、それぞれ便利なように義手を使っていたから、君のようにそのままにしているというのは、不思議だ」
「一度、試したのですけれど、上手く使いこなせなかったんです」
「確かに皆、使いこなすまでには苦労していたな」
「興味があればまた、お前の師匠に相談すると良い」
「はい」
吟遊詩人の大半が、ライティーザの影だと、囁かれた。影といっても、吟遊詩人達が、エリックが師匠に指示を仰いだような技を持つわけではない。
各地へ歌で情報を伝え、旅先で噂話に耳を澄ませ、情報を集めることで、彼ら吟遊詩人達は国のために忠義を尽くした。今回も、下手な噂が立つ前に、吟遊詩人が歌で情報を広めるため、各地に広がっていた。
この先の任務には、少々危険があると、影が伝えても、マイルズの意思は揺らぐことがなかった。
「皆さんがローズと呼ぶ子は、僕にとっては孤児院で一緒に育った“泣き虫リゼ”です。泣き虫で優しいリゼが頑張っている時に、孤児院ではお兄ちゃんだった僕が頑張らないと駄目だから、僕は行きます」
マイルズの決意を確認し、影達は、ロバートに一つの提案をした。
「あの子はマイルズと一緒に育った。数年顔をみていなくても、マイルズだとわかるだろう。今は一人で心細いだろう。だが、追ってきている者がいると、それとなく、わからせて、安心させてやったらどうだ」
影の言葉に、ロバートがゆっくりと頷いた。




