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【完結】マグノリアの花の咲く頃に 第四部  作者: 海堂 岬
第十三章 それぞれの戦い
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14)エリックの決意

 エリックは、人の不幸を望むほどに、自らが堕ちていないことに安堵した。


 ローズは、ライティーザ王国のため、自らの身を守ることもできないのに、王太子妃グレースの身代わりとなった。ローズは敏い。どんな危険が待ち構えているか、想像できたはずだ。


 今もたった一人で恐怖と戦っているローズを案じることが出来ることが、エリックにとっては救いでもあった。ロバートのために、ローズを取り戻すと思えた。あの日、自らの立てた誓いが、己の心のとおりであったと、エリックは、ようやく確信が持てた。


 ローズは奇妙な子供だった。


 王太子宮に突然現れた、小さな、痩せっぽちの、琥珀色の気の強そうな目をした子供。長い髪がなければ少年のようだった。その髪も、売るために伸ばしていたと聞いて唖然とした。


 アレキサンダーが王太子であると、わかっていながら、一切の遠慮なく持論を展開した。

ローズは、無謀で賢く愚かな子供だった。


 アレキサンダーを相手に、語気を荒らげ真っ赤になって怒鳴ったかと思ったら、小さな菓子一つに本当に嬉しそうに笑う。重鎮達の議論に一人前に参加するが、大人用の椅子に一人で座れずよじ登ろうとする。椅子をよじ登ろうと、重臣たちに尻を向けたローズを、ロバートが慌てて抱き上げ、座らせていた。人形のように持ち上げられたまま、きょとんとしながら礼を言うローズに、多くの近習が笑わずにいるのに苦労した。


 ローズは、気が強く素直でお転婆で行儀の良い子供だった。


 アルフレッドは、椅子にわざわざ嵩高(かさだか)なクッションを重ねるように命じた。小さかったローズが絶対に一人で座れないようにしたのだ。足が床に届かないローズは、椅子から降りることもできなくなってしまった。無論、クッションを道連れに、椅子から滑り落ちればいいだけだが、礼儀作法としては問題だ。


 ローズは、椅子に座る時も降りる時も、傍らに立つロバートに両手を伸ばして、抱き上げてくれとせがむようになった。ロバートは嫌な顔ひとつせず、ローズを毎回抱き上げてやっていた。


 ローズが議論に夢中になり、椅子から落ちそうになる度に、ロバートは支えてやっていた。ローズは、議論を中断し、ロバートに礼を言っていた。


 ローズは勝ち気で図々しく礼儀正しい子供だった。


 奇妙な子供だった。ロバートは、矛盾だらけの子供、ローズを可愛がった。


 長身のロバートが、小さなローズの手を引いて歩く様子に、雛の面倒を見る親鳥のようだと、最初に言ったのはアルフレッドだ。ロバートの、いつもの子供好きの延長だと、エリックも考えていた。


 ロバート自身、ずっと妹がほしかったと言い、甲斐甲斐しくローズの面倒を見ていた。


 違うと気づいたのは何故だろうか。

ロバートが、ローズは妹代わりだと自らを偽っていると、エリックが気付いたのはいつだったろうか。


 同時に、エリックは自分の偽りに気づかされた。エリックはロバートを尊敬しているはずだった。


 ロバートは、ずっと誰も愛さなかった。王太子であるアレキサンダーへの忠誠第一だった。仲間だと認めた者達には、ロバートは平等に優しかった。誰かを特別に愛することなどなかった。


 エリックは、ロバートの背を預けられる程の信頼を得ているだけで、十分なはずだった。


 ロバートが、平等な優しさ以上のものを捧げる相手が現れたことで、エリックは自らへの嘘に気付かされた。エリックは、ロバートから信頼以上のものを、得たかったのだ。


 エリックが己の欲していたものに気付いた時は、それが決して手に入らないと知った時でもあった。ロバートの心は、小さなローズに捧げられていた。


 ローズは妹だと頑なに言うロバートに、周囲と一緒になって呆れながら、エリックが二人の幸せを願うことが出来るようになるまで、随分かかった。その間、二人の関係は全く進まなかった。押し倒せと繰り返すエドガーを窘めている間に、エリック自身も同じように()れるようになった。

 

 一度だけ、アレキサンダーに良いのかと問われた。アレキサンダーが、何をどこまで察していたのかは、わからない。


 無論ですと答えたエリックには、迷いも嘘偽りもなかった。


 並び立つと改めて決意したのだ。


 ロバートが、守りたいものを守れるように、彼の背を守ると決めたのだ。その決意が、己の心を偽るものではないことに、エリックは安堵した。


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― 新着の感想 ―
[一言] 海堂様 丁寧なご回答、ありがとうございました! 作者様はちゃんとプロットをお持ちですよね。 チャチャを入れてしまってごめんなさい。 今、ローズが助かったところです。 これからも楽しみに読み…
[一言] 完結を待ち、満を持して読み始めました。 予想通りの面白さに、次々と読んでいます。 出てくるキャラクター皆がたっていて、混乱せずに読めます。 余談ですが、この25部分に「男性同士でも結婚でき…
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