13)未来の提案
サミーが、奇異なものを見る目でロバートを見ていた。
「お前は、怖えな。俺、これがすんだら東へ行こうか。あっちじゃあ、俺達みたいなのが、街道の警備隊をやっていると聞いた」
エリックは首を傾げた。どこかで聞いたことがあるような話だ。
「あぁ、それであれば、いずれこちら、南でも組織する予定です」
ロバートには、心当たりがあったらしい。
「はぁ?」
「イサカの町で、少々腕に覚えのある方々に警備隊になっていただきました」
エリックにも、その話であれば覚えがあった。
「何の話だ」
「おそらく今回の件で、相当数の貴族が廃嫡され、領地の没収になります。領地や街道の警備には、不正に関わっていた者達に雇われていた者達では使いにくい。新たな人手を確保する必要があります」
「だから、何の話だ」
「この件が一段落したら、雇われてみませんか」
ロバートの話に、サミーは目を白黒させていた。
「長、全く話が通じていない」
年嵩の影が、ロバートの話を遮った。
ロバートが首をかしげる。ロバートの“詳しい”説明は、何年も執務を手伝い、事情もよく知る敏いローズが基準だ。万人に分かりやすい説明ではない。
「私が代わりに話をしよう。東にある、イサカという町では、破落戸、失礼、血気盛んだった者達が、今、警備隊として町の警備に当たっている。法律に関しては学んでもらった。街道沿いの警備を担う者もいる。君たちが、ライティーザ王国の法律に従うというのであれば、同じように街道の警備を担う事もできる。盗賊を捕らえる側に回る。法律に従う以上は、盗賊を取り締まって得た金は、国との折半になる」
「なんでぇ。結局、俺達のものにならねぇのか」
サミーがつまらないというように手を振った。
「警備隊の宿舎を整え、食事を用意し、装備や馬を確保する金が必要だ。警備隊の賃金も払わねばならない。その分の金が必要だ。盗賊が、金が必要な時に都合良く現れるとはかぎらない」
「東で街道の警備をしている、お前達のような者達と、同じ条件であれば、十分検討できる」
「今までの犯罪に関しては、働きで返せば不問だ。ただし、あまりに悪質な犯罪は別だが」
「守ってもらわねばならない決まり事がいくつかある。だが、今と良く似たことをしても、警備隊や騎士に追われることもなく、給金が手に入るとなれば、良い話だと思わないか」
影達が次々と、畳み掛けていく。
「お前ら、なんでそんなに詳しいんだ」
事情を知らないサミーが不審がるのも無理はない。
「東の町、イサカで、最初に曰くある人を雇って警備隊にしたのは、彼です」
エリックは、ロバートを示した。ロバートは、影たちに説明を任せ、手元の何かを見つめ、一切関心がない様子だった。
「まじかよ」
「はぁぁああ」
「本当なのか」
「なんだって」
リチャードやサミーだけではない。森の民の騒ぎに、ロバートが顔を上げた。
「何か」
ロバートは、見つめていたものを、胸元に落とし込んだ。
「なぜ、雇った」
リチャードが、ロバートとの間を詰めていた。
「何のことですか」
「東だ。お前はなぜ、俺達と同じ破落戸を雇った」
「人手が必要でした。私を裏切らない者を雇う必要がありました」
破落戸や森の民は、各地で鼻つまみ者だ。蔑む者も多い。リチャードが、疑問に思うのも無理はない。
「お前は、何故、破落戸を雇った」
「少々血気盛んな方々でしたが。私を裏切らず、ある程度は腕が立ち、邪魔者を排除できる者が必要でしたから、雇いました」
リチャードの再三の質問に、ロバートは律儀に答えていた。
ロバートには、リチャードが戸惑っている理由はわからないだろう。ロバートは、貴族とは考え方が違う。アレキサンダーも同じだ。忠義に厚く、能力がある者を重用する。
ロバートの一族は、王家についで古い一族だ。王太子であるアレキサンダーも、古い家柄のロバートも、身近に置く者を、忠誠心と能力の有無だけで選ぶ。大半の貴族が重んじる、見目の良さや、家柄を考慮に入れない。
子供の頃に手を火傷したフレデリックや、学者の息子で、強いて言えば愛嬌ある顔立ちと言えなくもないトビアスを近習にすることなどないだろう。
ライティーザの貴族は、王族から少々離れすぎているのかもしれない。
「食べていくことが出来る仕事があれば、人は悪事に手を染めないはずだ。もとから悪い人など居ないと言われました」
ロバートの手は胸元を握っていた。ローズを追跡するようになってから、ロバートが見せるようになった仕草だ。
エリックの目の前では、リチャードが唖然としていた。森の民達は皆、似たような反応だった。
「人手が足りなくなることは目に見えております。ご検討下さい。王家を裏切らず、忠誠を尽くしてくださる人物が必要です。警備兵としての務めを果たしてくだされば、その分の対価は払います」
ロバートは周囲の当惑を無視して続けた。
「もし、裏切ったら」
誰かが言った。
「無論、その首貰い受けます。ひとり残らず」
ロバートが淡々と答えた。何度目かわからない沈黙が周囲を包んだ。少し寒くなったのは、日が落ちたからではないだろう。
「つまり、全員ぶっ殺すと言っている」
影が、沈黙を破った。
「言われなくても、それくらいわからぁ」
顔を真っ赤にして怒鳴ったサミーに、周囲が笑い、凍りつくかのような雰囲気が、ようやく溶けた。
ロバートは、そんな集団から少し離れ、胸元から、握っていた何かを取り出し見つめた。焚き火に照らされロバートの手の中で、それは小さく輝いた。ロケットだ。ロバートは、小さなロケットに描かれた微笑むローズの肖像を見つめているのだろう。
エリックは、なれた痛み以外に、ローズの無事を願う気持ちが己のうちにあることに安堵した。




