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【完結】マグノリアの花の咲く頃に 第四部  作者: 海堂 岬
第十三章 それぞれの戦い
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12)過去と現在

「なぁ、きんりのじょーげんって何だ」

エリックの近くにいた森の民が聞いてきた。会話の最初から理解出来ずにいたらしい。

「お金を借りたら、利息が必要です。その比率です」

「りそく」

男は、まだわからないようだった。これではローズがいうように、騙されかねない。


「元と同じ金額よりも、少し多めに払う必要があります。その割合です。金貸しも商売ですから。銀貨十枚を借りたら、翌月に銀貨十一枚を返却するという契約の場合、銀貨一枚は利息であり、利率は1ヶ月で一割です」

エリックの説明にも周囲の反応は、芳しくはなかった。

「わからねぇ」

男は悲しげに首を振り、エリックも困り果てた。


「つまり、お前が金を借りたら、相手が悪けりゃ騙されるってことだ。騙されないには、読み書き計算が必要だ」

助け舟を出してきたのはリチャードだった。

「つまり、俺は騙されるってことか」

男は顔をしかめた。


「国が金貸しに、月一割までの利率だと決めたとしよう。その場合は、お前は、金貸しに銀貨十枚を借りたら、翌月に銀貨十一枚返せばいい。それだけだ。でも、お前のように知らないと、銀貨二十枚返さないと駄目だと騙されるかもしれない。返せないなら、人買いに子供を売れと言われるかも知れないということだ」


 リチャードの説明に、納得したかのように頷く者達が居た。読み書き計算を身につけている孤児院の子供たちのほうが、よほど理解が早い。


 ローズの夢物語が現実になるには、気の遠くなるような時間が必要なようだ。 


「冗談じゃねぇ。それじゃあ、嘘ってことだろう」

サミーが叫んだ。

「だが、お前が、利息も利率も知らず、計算出来なければ、騙されたことにも一生気づかない」

 リチャードの言葉に、サミーが呻いた。


「俺の親父は、姉貴を売った。あの男が、嘘をついて、親父を騙していたかもしれない」

「証文はありますか。借金の書類です」

ロバートは尋ねたが、良い答えなど期待できない。読み書きの出来ない平民が借りた金だ。

「知らねぇ。俺がガキの頃だ」

サミーが首を振った。


 沈黙が降りた。


「お姉さまの居場所はわかりますか」

ロバートが沈黙を破った。

「わかるわけねぇだろ。わかればなんとかなるのか」

「不当な借金での人身売買とわかれば、いえ、借金で騙されて売られたとわかれば、対応できる可能性もあります。お父様が誰から金を借りたかや、誰にお姉さまを売られたのかはわかりますか」

サミーは唇を噛み、首を振った。


 違法な高利貸しを突き止め、実家の財産を、一部とはいえ取り戻したサンドラは幸運だった。


「残念ですが、あなたのお姉さまに関しては、今となっては出来ることがないでしょう」

ロバートが口にしたのは、残酷な現実だ。下手な気休めを言わないのは、ロバートなりの誠実さだ。だが、聞く相手によっては、反発を招きかねない。サミーは、この一帯を縄張りにしている森の民を束ねている男だ。


 エリックを含め、影の間に緊張が走った。


「私達に出来るのは、あなたのお父様を騙したかも知れない連中や、あなたのお姉さまを売り買いした者達の仲間を捕らえ、裁くことです。今後、あなたのお姉さまのような目に会う方が、できるだけ無いようにすることです」

自嘲するような笑みをロバートが浮かべた。


「残念ながら、根絶やしには出来ないでしょう。人の心には闇があります。欲には限りがありません。法の抜け道を探す者は後を絶ちません。聖アリア教会が、いくら説いたところで、人の道を踏み外すものはいます」


 ライティーザ王国のため、そういった者達を始末するのが影だ。ライティーザ王国には、影が必要で、影は影であり続けなければならない。


 エリックが影になりたいと訴えたとき、ロバートが師匠と呼ぶ男に、その覚悟はあるかときかれた。


 あると答えたから、エリックは、今、ここにいる。


「私達に出来るのは、次々と悪事を働く者達を、順次捕らえていくだけです。次に、あなたのご家族のような不幸にあわれる方は減るでしょう」

ロバートは淡々と言葉を続けていた。


「つまりは、今回は、捕まっているやつらを、姉貴みたいに売られないようにするってことか」

 サミーの言葉に、ロバートが頷いた。

「はい。あなたのお父様を騙した方と、同じことをしている一味を捕らえます」

ロバートは酷薄な笑みを浮かべていた。捕らえるだけで済ますつもりがないことは、エリックだけでなく、サミーにも伝わったらしい。


「親父は、姉貴を売ったことを後悔していた。そんな借金をした自分を責めていた。俺は親父と姉貴の敵を討つ。俺は、心からあんたに協力すると約束する」

サミーが胸をたたいた。


「そうおっしゃっていただけますと幸いです。そのためにも、出来るだけ、生け捕りでお願いします」


「あぁ、なんでだ」

不躾な疑問を口にしたサミーの顔が引きつった。


 ロバートが浮かべる、怜悧な笑みを見たのだろう。

「取り締まりのためです。今までの悪事を、出来るだけ吐いてもらわねばなりません。少々の怪我はかまいませんが。口がきける程度にしておいてください」


 ロバートの雰囲気か、手荒な訊問を(ほのめ)めかしたことか、いずれを恐れたのかわからないが、息を呑んだものもいた。


「俺、お前にだけは、捕まりたくねぇ」

サミーが肩を竦ませた。リチャードと、リチャードの部下達も頷いている。影たちは寡黙な態度に戻っていた。


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