表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】マグノリアの花の咲く頃に 第四部  作者: 海堂 岬
第十三章 それぞれの戦い
18/210

7)追跡

 野宿が続いていた。


 ヴィクターと指導係の影が、ローズを連れた連中を、常に見張っていた。その後ろから、ロバートが率いる影の一団が続いていた。エリックは影の新人として、その一団にいた。


 あの程度の破落戸(ごろつき)の集団であれば、影の敵ではない。皆殺しにしてローズ一人救出するくらい容易だ。だが、それは出来なかった。


 破落戸(ごろつき)は、奴隷商人だった。ローズは、彼らの商品だった。


 デヴィッドの報告を聞いたロバートは、影の長として決断をした。

「このまま追います。王宮と王太子宮に知らせを。奴隷市場を取り締まるため、騎士団を動かす権限がある者の派遣を要請します。あるいは、権限を要請します」

ロバートの言葉に、影が二人、追跡から離れた。


 ローズを救出せず、ローズを売るために奴隷市場にいこうとする者達を追えば、奴隷市場の位置がわかる。


 ローズを(おとり)に使うのだ。


 その決断をしたロバートはどんな思いだったろうか。表情を消したロバートの顔をエリックは見つめたが、何も読み取れなかった。


 王家の揺り籠本家の当主、影の長も人の子だ。最愛の婚約者が、破落戸(ごろつき)(とら)われているのだ。無表情に平静を装っていても、相当な心労にさらされているはずだ。


 影を率い、馬を駆るロバートは、日中はその心中を周囲に語ることはなかった。綻びは夜に現れる。


 毎晩ロバートは(うな)され、ローズの名を呼び飛び起きた。多い時には、一晩に二度三度と続いた。とうとうロバートは夜、火の番をして過ごすようになった。


「眠れませんから、同じです」

そう言うロバートに、何人もの影が、せめて横になるだけでもと説得を試みた。ロバートは頑として譲らなかった。


 火の番をしながら、ロバートは時々、胸元からロケットを取り出して眺めていた。


 夜が明け、出発までの僅かな間に、ロバートは倒れるように眠った。そんな僅かな時間すら、飛び起きることが多かった。


 精鋭揃いの影達は、新人のエリックに素顔を見せない。目元以外を黒い布で隠した影達の表情などわからない。影達は、鋭い目に隈が濃くなり、頬が()けていくロバートを案じ、影としての経験の浅いエリックが、無理をしてないか気遣ってくれた。


「あのままでは持たない」

「君のほうが、彼とは親しく付き合っているはずだ。何か意見はないか」

影達に何度問われても、エリックの持っている答えは一つしか無かった。


「ローズ様がいらっしゃれば、王太子宮では全て解決しますから」

エリックの言葉に、影達はため息をついた。


「確かに、そうだな」

「始祖様からして、奥方様一筋だったと聞く。それにしても、同じ目に遭うなど」

「あの時も、救出できたと言うし、今回も、最悪の事態を避けるよう手は打ってあるが」 

 影達は、時にエリックの知らない話をした。影の歴史は長い。この国の歴史と、ほぼ等しいと教えられた。


「こちらの話をして済まないね。君もいずれ覚えていくことになるよ」

影は普段、二、三人で行動する。ロバートとエリックを合わせて十二人という今の編成は異例だ。エリック以外は皆、精鋭だ。


「足手まといとならぬよう、努めてまいります」

影になったばかりのエリックでは、時に彼らの足手まといになりがちだった。

「いや、君がいて助かっている。今の長には、気心の知れた君がいるほうがいい」

精鋭たちは、エリックにそう言ってくれた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ