7)追跡
野宿が続いていた。
ヴィクターと指導係の影が、ローズを連れた連中を、常に見張っていた。その後ろから、ロバートが率いる影の一団が続いていた。エリックは影の新人として、その一団にいた。
あの程度の破落戸の集団であれば、影の敵ではない。皆殺しにしてローズ一人救出するくらい容易だ。だが、それは出来なかった。
破落戸は、奴隷商人だった。ローズは、彼らの商品だった。
デヴィッドの報告を聞いたロバートは、影の長として決断をした。
「このまま追います。王宮と王太子宮に知らせを。奴隷市場を取り締まるため、騎士団を動かす権限がある者の派遣を要請します。あるいは、権限を要請します」
ロバートの言葉に、影が二人、追跡から離れた。
ローズを救出せず、ローズを売るために奴隷市場にいこうとする者達を追えば、奴隷市場の位置がわかる。
ローズを囮に使うのだ。
その決断をしたロバートはどんな思いだったろうか。表情を消したロバートの顔をエリックは見つめたが、何も読み取れなかった。
王家の揺り籠本家の当主、影の長も人の子だ。最愛の婚約者が、破落戸に囚われているのだ。無表情に平静を装っていても、相当な心労にさらされているはずだ。
影を率い、馬を駆るロバートは、日中はその心中を周囲に語ることはなかった。綻びは夜に現れる。
毎晩ロバートは魘され、ローズの名を呼び飛び起きた。多い時には、一晩に二度三度と続いた。とうとうロバートは夜、火の番をして過ごすようになった。
「眠れませんから、同じです」
そう言うロバートに、何人もの影が、せめて横になるだけでもと説得を試みた。ロバートは頑として譲らなかった。
火の番をしながら、ロバートは時々、胸元からロケットを取り出して眺めていた。
夜が明け、出発までの僅かな間に、ロバートは倒れるように眠った。そんな僅かな時間すら、飛び起きることが多かった。
精鋭揃いの影達は、新人のエリックに素顔を見せない。目元以外を黒い布で隠した影達の表情などわからない。影達は、鋭い目に隈が濃くなり、頬が痩けていくロバートを案じ、影としての経験の浅いエリックが、無理をしてないか気遣ってくれた。
「あのままでは持たない」
「君のほうが、彼とは親しく付き合っているはずだ。何か意見はないか」
影達に何度問われても、エリックの持っている答えは一つしか無かった。
「ローズ様がいらっしゃれば、王太子宮では全て解決しますから」
エリックの言葉に、影達はため息をついた。
「確かに、そうだな」
「始祖様からして、奥方様一筋だったと聞く。それにしても、同じ目に遭うなど」
「あの時も、救出できたと言うし、今回も、最悪の事態を避けるよう手は打ってあるが」
影達は、時にエリックの知らない話をした。影の歴史は長い。この国の歴史と、ほぼ等しいと教えられた。
「こちらの話をして済まないね。君もいずれ覚えていくことになるよ」
影は普段、二、三人で行動する。ロバートとエリックを合わせて十二人という今の編成は異例だ。エリック以外は皆、精鋭だ。
「足手まといとならぬよう、努めてまいります」
影になったばかりのエリックでは、時に彼らの足手まといになりがちだった。
「いや、君がいて助かっている。今の長には、気心の知れた君がいるほうがいい」
精鋭たちは、エリックにそう言ってくれた。




