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【完結】マグノリアの花の咲く頃に 第四部  作者: 海堂 岬
第十三章 それぞれの戦い
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4)報告

「申し上げます。グレース様御一行が、正体不明の馬車に乗った連中に襲われ、ローズが連れ去られました」


 近衛騎士の奏上に、空気が凍った。

「グレース様、ソフィア様はご無事で、今、こちらに向かっておられます。襲った馬車は、止める事が出来ませんでした。数名が取り付いておりましたが、詳細は不明です」

近衛騎士が続けた。


「今、何といいましたか」

最初に口を開いたのはロバートだった。

「正体不明の馬車にローズが連れ去られました」

「王都の城門はすべて閉鎖だ。誰も外に出すな」

アレキサンダーが叫んだ。


 王太子宮は騒然となった。ローズの追跡、グレースとソフィアの保護のため、騎士達が出発し、各所へ使いが走った。


 騎士達に保護され、無事に戻ってきたグレースに、アレキサンダーは安堵した。

「あぁ、アレックス」

「グレース」

グレースを抱きしめたアレキサンダーが、何があったのかと、尋ねようとした時だった。

「いちばんよ!」

ソフィアが叫んだ。喜んで、飛び跳ねている。


「ソフィア様」

ブレンダがソフィアを抱き上げた。

「いちばんよ。ローズが、おとうしゃまにおあいしゅるまで、だまっているの。いちばんよ。ローズはどこ」

無邪気にはしゃぐソフィアに、ロバートは何も言えなかった。


「ローズ様が、アレキサンダー様にお会いするまで黙っている遊びだと、ソフィア様におっしゃったのです」


 ブレンダの目が潤んだ。

「ローズ様が、拉致されました。グレース様のティアラを、身に着けて身代わりになられました。首飾りを渡しました。ローズ様は、言い伝えをご存知のはずです」


 ロバートは立ち尽くすしかなかった。今にでも取り返しに行きたい。だが、今、どこにいるかわからないローズを、どう追えばいいのか。追跡しているという者達の報告を待つしか無い。


「ロバート、あなたへの伝言があるの。ローズから。約束を破ってごめんなさいと、伝えて欲しいと言っていたわ」

 

 ロバートは、息を呑んだ。何も言えなかった。


 そんなことを気にするならば、ローズに、逃げてほしかった。だが、敏いローズが、身勝手なことをするわけがない。


 グレースを守るため、己を身代わりにしたローズの判断は正しい。


「グレース様、ソフィア様がご無事で何よりでございました」

ロバートは、そう言うのが精一杯だった。守られねばならぬ二人を、守るため、ローズは正しい行動をしたのだ。


 今すぐにでもローズを探しに行きたいが、有事には司令塔でもあるロバートが、王太子宮をあけるわけには行かない。そもそも、むやみに探したところで、人など見つからないのだ。

 

 次の報告は、荷馬車に乗せられて戻ってきたティモシーがもたらした。

「東門です。素通りで、突っ切っていきました」

ティモシーは歯噛みした。

「明らかに怪しい馬車なのに、僕以外にもデヴィッドと、他に二人も馬車にしがみついていたのに。周囲の騒ぎに乗じて素通りでした。僕は、デヴィッドに落とされました」


 たまたま通り掛かった荷馬車の男が、馬車から落ちたティモシーに同情し、王太子宮殿まで連れてきてくれたという。


「アレキサンダー様、どうか、お暇をください。ローズを追う許可を」

ロバートは跪いた。

「だが、お前一人でどうやって追う」

ロバートは答えられなかった。アレキサンダーの言うことは、正しい。闇雲に追ったところで見つけることは困難だ。


「聖女の拉致だ。影を使う」

王宮からかけつけたアルフレッドが、決断した。

「一大事だと聞いて、来てみたら驚いた。影を使う。聖女ローズを連れ戻す。ロバート、影はお前が束ねなさい」

「しかし、ローズは」

ロバートは逡巡した。影はライティーザのため、王族のために存在するものだ。ローズは王族でも何でもない。孤児だ。


「大司祭様が認める聖女だ。この国のために救わねばならない」

アルフレッドが微笑んだ。

「行って来い。馬も好きに使え。ソフィアとグレースを救ったローズだ。今度は、我々が救わねばならん」

アレキサンダーが言った。


「ありがとうございます」

ロバートは、一礼すると部屋を出た。続いて出てきたエリックに、ロバートは顔をしかめた。

「アルフレッド様のご命令です」

ロバートよりも、エリックのほうが早かった。

「私は兄の名を使えます」

ティズエリー伯爵家の当主はエリックの異母兄だ。


 貴族出身でありながら、表向きに死ぬこと無く影となったエリックであれば、伯爵という権威が使える。

「“屋敷”に向かい、出立の用意を。師匠にここは預けると伝えて下さい」

「かしこまりました」

ロバートの言葉に、エリックが答えた。


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