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【完結】マグノリアの花の咲く頃に 第四部  作者: 海堂 岬
第十三章 それぞれの戦い
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3)見舞い

 夏が訪れようとしていた。

「ソフィアを祖母に会わせてやりたいのです」

ある日、グレースがアレキサンダーに願い出た。数日前、アスティングス家から書状が届いたばかりだった。書状には、グレースの祖母の病状が綴られていた。

「可愛がってくれた祖母です。曾孫ソフィアの顔を見せてやりたいのです」

グレースの願いを、アレキサンダーは快く了承した。


「ローズも、ひいおばあさまに、おあいしゅるの」

ローズも一緒がいいというソフィアの願いを、禁止する理由もなかった。グレースとソフィア、ブレンダとローズは馬車に乗り、近衛兵達に警護され出発した。


 病床にあるグレースの祖母の負担にならないよう、外出は一日の予定だった。 


 ソフィアと手遊びしていたローズの耳に、怒号が聞こえた。

「何かしら」


 グレースの言葉の直後、馬車が右へと曲がり始めた。ローズは、車輪の音の合間に聞こえる怒号に耳を澄ませた。


「ソフィア様、誰が一番長く黙っていられるか、競争ですよ」

ローズは、ニッコリと笑ってみせた。

「アレキサンダー様にお会いするまで、誰が一番黙っていられるか、競争です。ソフィア様、できますか」

「でちるわ」

新しい遊びにソフィアは笑顔で答えた。

「ソフィア様はグレース様のスカートの中に隠れんぼしましょう。後で、ブレンダ様が見つけてくださいます」


 その間にも、外の怒号が大きくなってくる。

「ローズ、いったい」

ローズはグレースの言葉には答えなかった。

「お借りします」


 グレースのティアラを取ると、ローズは自ら被った。ブレンダが、ソフィアを床に座らせ、グレースのスカートの中に隠した。

「ローズ、あなた、まさか」

「ロバートに、約束を破ってごめんなさいと言っていたと、伝言をお願いします」

ローズがそういった瞬間、馬車の扉が開いた。


 ブレンダが、ローズを庇うように抱きついた。

「退け、女」

乗り込んできた男は、ブレンダを突き飛ばすと、ローズを馬車から担ぎ出した。ローズの頭から落ちたティアラが床に転がり、硬質な音を立てた。


「邪魔だ、退け。この女がどうなってもいいのか」 

男達はローズに剣を突きつけ、近衛兵達を牽制しつつ、王太子宮の馬車に横付けされた、真っ黒な馬車に乗って走り去っていった。


 一瞬の出来事だった。


 その日、王太子妃を乗せた馬車は、誰とも知らぬ者たちに襲われ、近衛兵達が警護していたにもかかわらず、ティアラを身につけていたローズを攫っていったのだ。


 王太子妃グレースを狙った拉致は、聖女ローズの拉致事件となった。


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