11)遺品
夜、アルフレッドの寝室を、二人の人物が訪れていた。
「これがその箱か」
「はい」
アルフレッドの質問を、ロバートは肯定した。
「確かめたのか」
「鎧に、一節がありました」
「そうか」
ロバートの言葉に、黒尽くめの男性は嘆息した。
「他は確かめたのか」
「いいえ。一人で細部まで見る気になれませんでした。アルフレッド様や師匠が、おっしゃっておられるものを、私は見たことがありません。一人では確かめようもありません」
ロバートに師匠と呼ばれた黒尽くめの男は、白い布を広げた。
「亡くなったのは知っていたけれど、こうやって兄さんの持ち物だけが帰ってくると、辛いね。もしかしたらとすら、思えなくなる」
「あぁ。どこかで、それこそ、ティタイトの地でもいいから、生きていてくれないかと思ったりしたからね」
師匠とアルフレッドの言葉を聞きながら、ロバートは箱の蓋を開けた。
「あぁ、たしかに、兄さんの鎧だ」
鎧に小さく刻まれた一文を確かめた師匠が、両手で顔を覆った。ロバートは黙って、箱の中身を順に取り出し、白い布の上に並べていった。
「大切にしてくれていたのだね」
「そのようです」
傷はそのままだが、手入れしてくれていたのだろう。鎧には、血の跡も、錆もなかった。箱の中には、刺繍が施された布の袋があった。
「本当に、きちんと保管していてくれたのだね」
袋の中には、少ない装身具がまとめられていた。
「あぁ、兄さん」
涙を流す師匠を、ロバートはそっと胸に抱いた。
「確かに、兄さんのものだ。ありがとう、ロバート、大丈夫だ、泣いてばかりもいられない。探すものがあるのだから」
師匠は涙を拭うと、袋の中身を一つ一つ確かめ始めた。
「あぁ、これだ。間違いなくこれだ。あった。本当にあった。よかった、見つかった」
「そうか。それは、本当に良かった。良かった」
アルフレッドが師匠を失われた名で呼び、師匠がそれに答え、お互いに抱き合って喜ぶ様子をロバートは黙ってみていた。
ティタイトとの戦争で、二人とも兄を失った。その後の混乱期を、共闘して越えた二人の強い絆に、声をかけることは憚られた。
「一の王子“風に舞う鷹”に、心から感謝する。いつか、礼を伝えてくれ、ロバート。一族の手に帰ってきた。なんと喜ばしい。ロバート、これはお前が持つべきだ」
「はい」
師匠に渡された指輪を、ロバートは手で包んだ。古く飾り気のない指輪は、一族にとって大切なものだ。小さな指輪だが、一族の枷の象徴であり、重い意味を持つものだ。
ロバートは大きく深呼吸をすると、それを始祖と同じ右手の薬指に嵌めた。
「これで、一族が証を取り戻した。意味を伝えているものが、どこまでいるかは不明だが、たしかに証を取り戻した」
「はい」
アルフレッドの言葉に、師匠とロバートの返事が続いた。
第四部 第十二章 終了です
レオン・アーライルは約束を果たすため、(第一部第一章23で登場した)角材を手にしていた男(今は戦斧を使用)と仲間達は、恩義を果たすため、頑張りました。ちょっと”お片付け”中で、今回は、イサカでの再会はかないませんでした。
感想をくださったかた、ありがとうございました。大変励みになっています。
誤字脱字報告もありがとうございます。自分では気づかないもので、本当に助かっています。
評価、ブックマークくださっている方々、アクセスくださっている方々ありがとうございます。
この後も、まだまだ続きますので(予約投稿すみ)、お楽しみいただけましたら幸いです。