6)嘘つきは誰か
「ロバート」
王太子宮に戻るなり、ローズは出迎えに来たロバートに抱きついた。
「ローズ」
報告を聞いていたらしいロバートは、ローズを咎めることもなく抱きしめてくれた。
「こちらへ」
フレデリックに促され、一行は執務室の隣の部屋に集まった。ロバートはローズを抱き上げて運んでくれた。
「何が有ったか、騎士から報告は受けている。順に一人ずつ、見たものを報告して欲しい」
アレキサンダーに促され、最初に大司祭が口を開いた。
各自の報告に、大きな差はない。
「リヴァルー伯爵が根拠としている証言をする人物が誰なのかが問題だ」
アレキサンダーの言葉に、ロバートは頷いた。
「はい。リヴァルー伯爵は騙されておられるのか、リヴァルー伯爵がこちらを騙そうとしておられるのか。今のままでは判然としません」
ローズは、ロバートの膝の上に座り、抱きついたまま離れられずにいた。
「大司祭という立場で、こういうことを申し上げるのは何ですが。リヴァルー伯爵は、寄付や慰問にさほど熱心な方ではありません。ご本人の訪問先の記録は、先日のとおりです。家臣の方となりますと難しいですが、今、出来る範囲でと命じて、調べさせています」
「お手間をかけるが、お願いする」
「お任せください。他ならぬ、聖女ローズ様のためです」
アレキサンダーの言葉に、大司祭は、快く答えてくれた。
「あとは、かの教会の司祭です。何か知っている様子ですから、大聖堂に呼び出しました。私が戻る頃には、着いているでしょう」
「道中気をつけて戻られよ。こちらから警護は出そう。今、大司祭であるあなたの身に何か有っては困る」
アレキサンダーと大司祭の間で、次々と物事が決まっていく。
ローズはロバートの膝の上に座ったまま、そっとロバートを見上げた。
「どうしましたか、ローズ」
ローズは黙ったまま、左手で、ロバートの左手首に触れた。袖に隠れた腕輪にふれる。
「よその子にはならないわ」
私は、あなたの妻だ。ローズが腕輪に触れた意味がわかったのだろう。ロバートが微笑んだ。
「えぇ。もちろんです」
ロバートの返事には、迷いはなかった。
大司祭が部屋を見渡した。
「何か」
「皆様、ご存知なのでしょうか」
大司祭は自らの左手首を叩いてみせた。ロバートとローズの結婚のことだ。
部屋にいるのは、アレキサンダーと、大司祭、ロバートとローズ、ヴィクターとアレクサンドラだけだった。人払いをした後だ。
「今この部屋にいるものは、みな知っているが」
アレキサンダーの言葉に、大司祭は椅子から身を乗り出した。
「では、お二人の御子がお生まれになったら、ぜひ、私を名付け親に」
「父上が先約だ」
アレキサンダーは、即座に断った。ローズには初耳だ。ロバートも知らなかったのか驚いていた。
「では、二人目、いや、三人目の御子でもかまいません。どうか」
前のめりになって子供のように目を輝かせる大司祭に、ロバートとローズは戸惑った。
「大司祭様、お気持ちはお察ししますが、それではロバート兄様はいつまでたっても、ご自身の子供にご自分で考えた名前をつけることができませんわ。私達親族が先約ですもの」
アレクサンドラが微笑む。
「そこをなんとか」
大司祭は諦めようとしない。まだローズの腹に宿ってすら居ない子供の名付けで、ロバートとローズの知らないところで、何やら決め事がされていたらしい。
突然、ロバートが身を折り曲げ、ローズの肩口に頭をのせた。
「ロバート。どうしたの」
何も答えずに、ロバートはローズの髪の毛に顔を埋めてしまった。
「ロバート」
ローズが問いかけるが、ロバートからは、返事もなにもない。
「ローズ、ロバートの好きにさせてやれ」
アレキサンダーが苦笑していた。
「恥ずかしがっているだけだ」
アレキサンダーの言葉に、小さくロバートが頷いた。それを聞いたローズの頬も真っ赤に染まってしまった。
「いやはや、お若くていらっしゃる」
大司祭が大口を開けて豪快に笑った。
ロバートとローズは結婚したが、白い結婚、つまりは清い関係だ。婚姻を公にする春より前にローズが身ごもっては、妙な憶測を呼ぶことになる。
大司祭は、散々笑ってから、司祭らしい重々しい真面目な顔になった。
「お二人に、神の祝福がありますよう、心から願っております」
「ありがとうございます」
二人とも、そう答えるだけで精一杯だった。




