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1)到着
広場には歓声が溢れていた。広場だけではない。一行が通って来た町の街道では、歓声は一瞬たりとも途切れなかった。
瀟洒な馬車から長身の男性が降り立った。その手に引かれて小柄な女性の姿が現れた時、一層歓声が大きくなった。小柄な女性が驚いたように長身の男性に身を寄せると、男性は身をかがめその女性の耳に何事かを囁いた。男性が自分に身を寄せる女性に手を回したまま、差し伸べたもう片方の手をとり、同じく長身の一人の男性が降り立つ。
広場は一層歓声が鳴り響いた。
ライティーザ王国アレキサンダー王太子が、国境貿易の町、イサカに降り立った瞬間だった。
ライティーザ王国始まって以来、戦争以外で王族が町に足を踏み入れた記念すべき日だった。