09 幕間:その頃勇者パーティにて
アダムスは焦っていた。パーティの軍資金がもうほとんどないのである。
アダムスのパーティはリーダーである自身、侯爵令嬢で許婚のオリヴィア、雇われ傭兵のルーシー、斥候のエヴァ、そして兎人のウーシャの5人。それぞれが勇者、回復術師、戦士、従魔師、魔法使いの編成だ。つい先日まではもう1人魔法使いがいたが、アダムスの命令に従わないことが多く目障りだったので追い出した。
従魔師には従魔がいないと話にならないが、エヴァの連れている従魔は大型小型合わせて10頭にもなる。大型のキマイラは口が3つ有るので他の大型従魔の3倍は食べるうえ、機嫌が悪いとエヴァにも従わない。
そして、そういったものがいるということは当然、維持のために食費がかかるのだ。
「これより第12回経営会議を始める」
とにもかくにも、金がないのだ。
食うにも休むにも戦うにも金はいる。ダンジョンで入手できる武器は今装備しているものより格下のことがほとんどで頼りにならない。そして、
「……」
魔法使いをひとり追い出してからというものの、ウーシャとの連携が全く取れなくなった。話しかけても身振り手振りと動物の鳴き声、そして床を足で叩くだけ。エヴァ曰くこれはヨツクサ語という言語のようだが、ウーシャがいままでヨツクサ語を話していた記憶はない。
エヴァの指摘があるまでに、うるさいからと床を叩かないようアダムスが命じたためウーシャはかけらも喋らなくなった。代わりに、自分にかかる金は自分で出すようになったのでパーティ経営としては助かっている。
「エヴァ、従魔を減らすことはできないのか」
「減らす理由がない。それなら適当な手柄を立てて城に戻った方が得策だろう」
コウモリ型の従魔に餌を与えながら、、エヴァは顔色ひとつ変えずに言う。
「わたくしも同意見です。殿下が冒険者として国内外をめぐりたいと仰いましたから、わたくしたちはパーティを組んでいるのです」
オリヴィアもアダムスの意見には反対のようだった。回復術を使えるものはそう多くない、立場をわきまえずに声をかけてくるものが多く疲弊しているようでもあった。
「ルーはどうだ」
「アタシは雇われだからね、勇者様の意に沿うけど?」
エヴァに話を振られ、ルーシーは面倒くさそうに答える。
今日も会議はまとまらず、明日は宿代のためにもダンジョンに行くことだけが決まった。
そもそも、あの魔法使いを追い出す前は金に困るなんてありえなかった。ウーシャだってアダムスに笑いかけてくれた。
いったい、どうして。そうアダムスは頭を抱えるしかなかった。