08 探し物を引き当てろ
天井が開いている場所じゃないと空間転移は危ないので、適当に廊下をひとり歩く。そういえば前回から何年か過ぎたのかと思って知り合いの研究室にお邪魔する。
「元気にやってるー?」
特にお土産は持ってないけど気にせず、目当ての研究室にお邪魔する。こちらの研究室は占いを研究をしている同級生・エイベルさんのお部屋となっておりま~す。
「元気も元気、あんたみたいな立派な検体が来てくれると生き返るくらい元気さ」
「私もあなたが元気だと嬉しいよ。占いを頼んでも?」
「あたしはいいけど、そんなに頻繁に占っても結果変わらないと思うんだよねぇ」
「いいから占えってんだよ」
エイベルはくちゃくちゃでシミだらけの白衣をひっかけたケット・シー雑じりで猫耳猫尻尾のある女の子だ。と言っても私の倍の年齢ある。それでも女の子だ。
彼女の座っている椅子の足を蹴っ飛ばし、水晶の置かれたテーブルをはさんだ位置の椅子にどっかり座る。エイベルはハーブティー占いやらの方が好きらしいが、私は狙いの結果のためにいくらでもお茶を飲むタイプなので、それ以外で占ってくれるだろう。
「今日はいい占いが入っているよ。文字を書いた石を投げてする占い」
「精度は?」
「読み手によるらしいけど、あたしなら7割ってところじゃないか?」
エイベルはテーブルの上をいそいそと片付けて、テーブルクロスにしては模様の多い布を広げる。布の上に両手の指じゃ足りないくらいの石を転がして、エイベルは「あんたはどれだ?」と聞いてきた。
言われている意味は分からないけれど、それっぽいのを選ぶ。髪色と同じまだらな黒の石で、エイベルは「それだと思った」と言いながら選ばれた石をつついた。
「じゃ、はじめるよ」
石をひと通り混ぜて、はじくようにして占いをする。
なんどかの手順のあとに「結果が出たよ」と言われた。
「えーと、恋愛運は微増」「次」
「金運は……わかんない。正にして負、流転するさま」「次」
「健康運」「次」
「なんだい、最後まで言わせておくれよ」
「いいから」
観察すると、選んだ石と布の模様、他の石の位置で結果を読み取っているらしいことがわかってきた。人差し指と中指で円を描くように数を数えているから、それも占いの要素なのかもしれない。
「探し物」
「!」
「100年以内に近い。でも、もしかしたら足が出る」
「探し物を手に入れられる可能性は?」
「ちょっと厳しいな。いつ占ってもあんたの探し物はお高いようで、国家予算のひとつふたつはあった方がよさそうだ」
結果にいくらか落ち込みつつ、しかし国家予算でということはお金があればなんとかなるのだろうと前向きになる。
「お礼の希望は?」
「いつものやつをひとつ貰いたいね」
「あー、この間売っちゃったから手持ちにない。代わりにこれ置いてくから、今度送るでも?」
「これだけでもいいんだけどね、くれるならありがたく貰うよ」
エイベルご希望の品はポーションの類のため、丁度売り切れている。代わりとして未加工の竜鱗を何枚かテーブルに出して対価とさせてもらった。
私の作るポーションは何種類もあるけど、最も人気なのは『月光のささやき』という体力回復薬だ。飲むとしばらくの間時間経過で体力が回復し、服用直後の状態までなら身体欠損部分も治療される。作ってすぐのテストでダンジョンの魔物に飲ませたときは、肉片から完全復活をされたので危険な薬でもある。
エイベルが欲しいと言っているのはこれの薄めていないもので、彼女が学院内にあるダンジョンを探索する時に使うと聞いている。学院内のダンジョン、難易度的にはぼんくら勇者のパーティでも行ったことないくらいの難しさで、基本的には2パーティ以上で組まないと入れてもらえないから、そこを1人で行って素材を拾うために必要なんだろう。
ちなみに発案・殿下、開発・私、レシピの権利者・私、命名・殿下と実質的には私たちの子だ。レシピの使用料をギルド経由で支払ってもらえれば誰だって作れるが、市販のものはエイベルからすると効果が薄いらしい。
「これ、どこの竜なんだい?」
「知らない。くれた」
「……おーけー、あたしは何も聞かなかった。いくらか髪をむしっても?」
「目立たない程度にどーぞ」
エイベルに聞かなかったことにされてしまった。嘘を吐いたわけじゃないのに。
華奢な鋏で毛先を切られ、かきあつめて白いラベルの貼られた瓶に封入される。ラベルには今日の日付と私の名前が入れられて、日の当たらないところにある薬品棚に瓶は並んだ。
「いつも思うんだけど、私の髪の毛なんて何に使うのさ」
「そんなの占いに決まっているだろ? 天気を占うのにちょうどいい素材なんだよ」
天気を占うとは。今日の天気なら、外を見れば分かる通りいい感じの曇りなのに。
お互いの用事が住んだので、たまには歩けとせっついてエイベルに建物の外まで送ってもらう。
「次はいつこっちに来る気なんだい?」
「来年?」
「じゃ、それまで死ねないね」
私が空模様を見ている間に煙草をくわえたエイベルは、火を付けようとした手を下げて煙草を白衣のポケットに突っ込む。
ここで手を振ってくれるわけじゃない辺りが彼女らしい、代わりに私はエイベルに手を振った。
「またな、アルヴィ」
「また来年」