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06 金銭感覚のないアルヴィ

 夕方、宣言通り殿下がやってきた。

 馬車で。


「帰れ!」

「別にどこかに連れて行くとは言っていないだろう」

「カエレ!!!」


 アトリエに上げてやる気はないので玄関先で問答を続ける。と、敷地内にまた別の人がやってきた。この辺には多い犬人(ハウンド)の男性だ。


「おぅい、庭のテーブルセットを整えとけって聞いたからやっておいたぜ」

「? ありがとう」

「いいってことよ」


 頼んだ覚えはないが、やってもらえたならなんでもいいか。

 建物の中に入れる気はなくても庭にはもう来ているので、テーブルセットに案内する。薬草畑の真ん中にガーデンチェアとテーブルがあるだけなので、遮音の魔道具を使うことにした。


「それで、今日買い取らせてもらえるものというのは?」

 

 茶も出さずに相手をするのはどうかと思ったが、勝手に来たのだから用意しなくていいだろうという判断でテーブルの上に売りたいものを出す。


「ファーストポーション5本と、マジックバッグ2つ、あと在庫も色々。在庫のリストは……と」


 私の下げているマジックバッグをごそごそとあさり、書いた日がバラバラなメモがいくつか出てきた。最も新しいのは帰ってくる直前に書いたやつなので、それに今言った2種を書き足しておく。勇者パーティにいたころは従魔の食費がべらぼうにかかったので、ちょこちょこ売って軍資金を補給していたのだ。


「マジックバッグの容量はどの程度だ?」

「設計上は金級。ただ、今後は銀級を作ることになりそう」


 道具や物の評価は、たいてい冒険者の階級と同じ表現をする。具体的には下から順に木、鉄、銅、鋼、銀、金。金級冒険者の目安は「1人で魔物の大量発生を処理できる」なので、冒険者の最上位は銀級と言っても差し支えない。

 マジックバッグの金級というと、だいたいの感覚として「1人暮らしの家がまるっと3つ入る」位だ。


「それと、施錠機能と持ち主登録無料を付けて、ひとつ80万トーカくらいでどう?」

「……」

「じゃあふたつで150万トーカ!」


 今私の使っているマジックバッグを売ろうとしたとき、冒険者ギルドで100万トーカと言われたのでそれくらいを目安に値段を決める。

 高すぎたのか、殿下はしばらく考えてファーストポーションを見たいと申し出てくる。


「はい、どーぞ。統一規格で作ってあるから、1本500トーカね」


 昨日作ったファーストポーションは、久々のアトリエ作業ということでそんなに数を作っていない。1度に20本くらい作れるのだけど、手持ちの瓶や薬草の数も考えるとこれぐらいがちょうどいいと思ったから。

 殿下は瓶を手に取って、夕焼けの日にかざす。劣化しにくいようにちょっと色のついたガラス瓶を使っているから、何だったら1本開けてみればいいのに、と私は特大の美人画と化した彼を見ていた。


「アルヴィ。あまりこういうことは言いたくないのだが、お前の作るものはそもそも規格外なのだから値段にゼロをふたつみっつ足した方が妥当だろう」

「何言ってるのよ、ゼロなんだからいくつ足しても値段は変わらないでしょ」


 目いっぱいの溜息を吐かれて、こちらも文句を言いたくなる。

 と、さっきの犬人(ハウンド)の男性がティーセットを運んできてくれた。オーナーの心遣いだろう。


「なら、こっちでゼロを足した額で買い取らせてもらう。それと、在庫にあるポーション類も出してくれ」

「持ち帰りはどうする? 自分のマジックバッグとか持ってきた?」

「買ったものにあるのだから、それに入れる」


 マジックバッグに買ったものを収納して、支払は口座振り込みをしておくと殿下は言う。私の財布の心配をされたので、まだ余裕があると伝えておいた。

 殿下が帰ったので、私はティーセットを手にアトリエに戻る。カップを洗うくらいはできるので、今日は片付けてから夕食としよう。



 翌日。私は材料を勘案するために書き物をする。

 最終的に造るものは魔導人形。人造で人型のやつ。ホムンクルスとかオートボットとかロボットとかオートマタとかゴーレムとか色んな呼び方があるけど、それはそれ。

 魔導人形を作って何をするかというと、アトリエの建築のお手伝いをしてもらおうというわけだ。


 アトリエを作成するためには、魔術的な制約とポーラ王国連邦の法律の2つを守らないといけない。

 法律としては、土地の魔術的利用の許可書を役所で発行してもらうとか、新しい建築物の設計図と材料を報告するとか、そういうの。

 魔術的な制約は、アトリエの作成は魔女・魔術師自らが行わねばならぬということ。ただし、魔導人形1体なら問題はない。

 アトリエの作成までまだ時間がかかるとしても、材料をそろえて組み立てるだけにしておけば、現地で作業を開始できる。出来ればアトリエの場所が確定してから、その地域の材料で作成した方が有能にはなるのだけど。

 さておき、いかに高性能な魔導人形を作成するかも魔女としての腕の見せ所だ。この間集落で見たゴーレムは人間と見紛うばかりだったけど、私が欲しいのは力仕事向きのずんぐりむっくりサイズだ。


『最終目標 魔導人形

材料 銀等級以上の知恵の石(思考回路)素体(入れ物)魔術書(行動内容)自我方針設計(行動基準)そしてこれらを魔術的に接続できる糸ないし紐』


 ……何かしらの干渉を受けて文字がぐねった。気にしないことにする。

 この中で入手難易度が高いのは知恵の石。すべてのダンジョンでまれに入手できるというもので、大きさ、傷で等級が違う。そもそもがダンジョンに100回行って1回入手できるかどうかのうえ、質のいいものが入手できるかなんて分からない。


『銀等級の知恵の石の代わり 木等級の知恵の石2キロ』


 とりあえずの代替案は大切だ。さて次。

 素体はぶっちゃけそこらの木箱でもいいが、そうなると今度は手足が必要になる。なのでここは素直に人形とかを用意した方がいい。壊れにくい人形であれば何でもいいので、代替案はなし。

 魔術書は自分で書かないといけない。はい次。


『自我方針設計の代わり      』


 自我方針設計は難関で、魔導書が2冊でもいいけれどポンコツになると聞くし、その辺のいきものから自我を引っこ抜いてきて使うのはたいていの国で違法。

 悩んだ末、私は先人に質問をすることにした。先日の集落にいたゴーレムや、各種警備用のゴーレムを製作して学院中に設置できるような資金力とコネを持つ存在、私の先生である。

 さくさくっと質問事項を紙にまとめ、アトリエの窓から先生へ向けて飛ばすことにした。


「ヘオース学院のアウローラ先生へ、小物輸送(飛んでけ)


 省略した詠唱で手紙を送り出す。手紙は空中で小鳥に化け、ゆっくりだけど確実に先生に向かって空に上っていった。

 代替案は考えたものの。どうせ王都にいるなら依頼で探してもらってもいいかな、とグリューネ教会(冒険者ギルド)で知恵の石を納品してほしいという依頼を出す。持ち込まれたものはすべて買い取ることにして、買い取り額と個数の上限を伝えて多めにお金を渡しておく。

 明日からは魔導書の作成をするので、市場やお店に寄りながら食料品を大量に買っていく。こういう時に大容量のマジックバッグを持っているのは楽だなーと思いつつ、ちょっとしたほつれが気になるので帰ったら修繕しておこうと思った。


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