51 さまざまな人種ずかん
『さまざまな人種ずかん 魔人族
著:ヴィオレタ・ド・ルパギンティニア
この世界には、さまざまなかたちのヒトがいます。
そのなかでも、魔人族について、いろいろなことを調べてまとめてみました。
近くに魔人族がいてもいなくても、知りたいとおもったときが知るべきときだとおもって、だれでもわかるように書いたつもりです。
●魔人族ってどんなヒト?
だいたいの人種は、「只人種」「洞人種」のように、極東文字と高祖洞人語で書くことができます。
でも、魔人族は種ではなく族がおわりについています。なんでなの?
それは、魔人族という書きかたが、正しい書きかたではなくあだ名だからです。
魔人族は正しい書きかたをすると外軟骨格流体種と書きます。
ほかの人種と比べると書きづらいから、あだ名で書いたり呼んだりしましょうね、といういろんなヒトがお約束をしたので、あだ名だとわかるように種ではなく族がおわりについています。なので、この本でも、魔人族と書いています。
では、魔人族ってどんななのかな。くわしく調べてみよう。
生まれてすぐの魔人族はどんなかな。
実は見だけだと、魔物のスライムにそっくりなんだ!
でも、魔物のスライムとちがうところもいっぱいあるよ。くらべてみよう。
魔物のスライムはお水みたいにねばりけのない体をしているよ。
でも、魔人族はやわらかくてもお水みたいにはならないね。どうしてかな?
それは、魔人族は体の外側が厚みのあるやわらかい骨、いわゆる軟骨で包まれているからです。魔人族正しい書きかたにある「外軟骨格」はこの軟骨からきているんだよ。
魔人族のむかしばなしでは、魔人族はずっとずっとむかしは魔物のスライムとおなじでお水みたいでした。
そのころの魔人族は魔物のスライムとかんちがいされることがいっぱいあったので、神様にお祈りをして軟骨で包んでもらいました、というおはなしもあるんだ。
今も魔人族はそのときのお礼として、神様にお祈りをしているんだって。
●魔人族が気にしていることはなに?
魔人族が気にしていることといえば、番のこと。魔人族にとって番というのは、この星のどこかにいるたった一人のだいじなヒトのことなんだ。
動物ににているヒトも番を気にしているけれど、魔人族にとってはもっと気にしていることなんだ。なんでも、魔人族は番がいなければ5年ほどで死んでしまうんだって。
だから魔人族の親は子どもの番を見つけるための旅をすることもあるんだ。
ほかにも魔人族はむかしから神様にお祈りをしているから、神様の色をした服をきたり、神様の色をしたことばを使ったりしないようにしているんだって。もしも魔人族のヒトとおはなしすることがあったら、もしかしてと観察してみよう。
……
●魔人族がとくいなことは?
魔人族は体のほとんどが魔力でできているから、魔術がとってもとくいだよ。
いちばんとくいな魔術は魔力をおくること! どんな魔人族にきいてもこれはとくいみたいだよ。
……
』
*
「で、これ読んでどうしろっていうのよ」
ガラガラと車輪が転がる音がする。
今はとっくに会都を出発し、馬車もとい竜車に私たち4人がまとまって乗っている。
なんでもポーラ王国連邦内は殿下の護衛を強化しておきたいとかで、今乗っている車の前に2台後ろに3台の馬車が走っている。王国連邦外に出るときは、この竜車とすぐ後ろの馬車を残して他の馬車を戻しちゃうんだとか。
「今のヒトの子って難しい字よめるンだー。えらーい」
「殴っていい?」
「やめてくれないか、これでも私の親なので……」
「これって言った? ねえこれって言ったよナ親のこと」
車の中で退屈を紛らわせるために、いろいろなボードゲームで遊び、大体依頼人さんが勝った。いや、依頼人さんは大抵手札がお粗末だけど、それはそれとして頭がいいからか戦術面で負けるのだ。たまに勝つのはオーガスタで、稀に勝つのが殿下で、私は今のところ依頼人さんに勝てていない。
あまりにも負けっぱなしなのでふて寝しようかなと思っていたら、ボードゲームに飽きたらしいオーガスタも別の娯楽が欲しいと言い出して、ならと依頼人さんが取り出したのがさっきの本。今はオーガスタが放り投げたもんだから、私の手元に来ている。
「これの著者“統計屋”なのね、道理で詳しいはずだわ」
「エ“統計屋”なのそれ。ヴィオレタ・ド・ルパギンティニアって言ったらルパギンティニア現王の姉で魔術に長じた賢者って……いやめちゃめちゃ本人だわ」
ちなみにこの本、シリーズでいろんな人種版があるみたいだ。長生きとは聞いていたけどだいぶ暇人の側面も大きいんじゃないかしら。
「それで、読ませた理由だっけ? 三親の神位について書かせたはずだから説明代わりに」
「あった?」
「読んでない」
仕方なしに、それっぽいページを探す。子供向けに書くのをあきらめている、襲歩みたいなページを見つけてしまった。
『●魔人族の特徴はなに?
……
魔人族は基本、親が3人います。ほかの人種でもみられる父親、母親、そして生まれた子供に外軟骨格を与える神親です。まとめて三親と表し、三親のどれなのかを表すときは三親の父位、母位、神位と言うそうです。
……』
つまり、殿下がとっておきのもちもち存在であるのは依頼人さんのおかげらしい。




