50 要相談
テオじゃないテオの護衛をするために必要なこと。
それは、私のグリューネ教会登録だった。
「殿下はグリューネ教会に登録してあるんだー、ふーん」
「業務上護衛の冒険者とパーティを組まねばならないときもあってだな」
「私は登録してないのになー」
「……悪かった」
“ミス・クイーン”も連れて、殿下の案内で会議城内を歩いていく。
会議城には大体何でもあるからグリューネ教会の施設もあるとのことで、辿り着いたのは会議城の3階にある中庭だ。
廊下の途中で個室の壁がなくなり現れたその中庭は、4階までの吹き抜けになっている。壁には蔦が這っていて、天井からは混ざった魔力を感じることから人口の光が注いでいるのだろう。
足元は廊下から少し下がった高さにベージュのアーチタイルが敷かれており、廊下と平行に並んだいくつもの花壇は背の高い植物を中心に植えられていて、花壇の合間合間には距離を話してベンチが置かれている。
「普段は職員の休憩場所として使用されているのだが、奥には各ギルドの最低限のことができる支所がある」
「この季節にひまわりが咲いているなんて、温度管理がしっかりしているのね」
「オーガスタ、それ噛むから手出さないでね」
「ハイ」
オーガスタが手を伸ばしていたのはカジリヒマワリ。見かけは普通のひまわりと同じだけど、中心の筒状花及び種に擬態している歯で小動物くらいならかじってしまう、ダンジョン原産の植物だ。薬効があるのは外周に生えている舌状花が主で、便秘及び付随する肌荒れに効果がある。
花壇の奥へと進むと、子供の秘密基地のような大きさの小屋が見えた。ある程度近づくまでは見えないような仕掛けがしてあるようで、屋根には真っ青な旗が立てられていた。
思わず扉をノックして、中から「どうぞ」と聞こえたので、体を丸めて扉をくぐる。
中は私の部屋位の広さで、ヒトが4人寝転がれば足の踏み場もないくらいだった。壁も柱も天井も床も椅子も、目にはいるものはすべてタイル張りの小部屋で、奥には2人も並べないような幅のカウンターがある。
「ノックをして入ってくるお客さんは久々だね。どのギルドの仕事が必要かな」
ちゃぽり、と音がして受付にヒトが現れる。鱗があり耳の代わりにヒレがあるところから、魚人のヒトがここの担当らしい。
「グリューネ教会の登録をしたいのだけど、何をすればいいかしら」
「はいはい。そうしたらえーと、他のギルドか互助会に登録は?」
「ルーナ教会と、魔女魔術師の互助会に登録があるわよ」
「それらと情報連携をすると入力がいくらか省略できるけど、どうします?」
「したいわ、よろしく」
担当さんの差し出した石みたいな板で必要な内容を書いていく。書いている途中で連携先の身分証明をと言われたので、魔女魔術師の互助会員であることを示す紫水晶のブローチを差し出したら、撫るように手をかざして「もう仕舞っていただいてかまいませんよ」と言われた。
ちなみに、ルーナ教会のカードはいったん回収された。このカードに追加情報を書き加えて、グリューネ教会のカードにもするそうだ。
「記載内容に不備はありませんね。では、登録をしてまいりますのでここでお待ち下さい」
私の目柄の前で担当さんが床──もとい水路に沈む。タイル張りの理由はこれか、と勝手に思いながら椅子に座ってぼんやりと待つ。
待つ。
……待つ。
…………そろそろ外の殿下たちのところに行ってもいいかもしれない。私が待っているということは、殿下たちは倍近く待っているということだから。
「お待たせしましたー」
椅子から立ったところで、またもちゃぽりと音がして担当さんが戻ってくる。
「こちらギルドカードです。今まではルーナ教会のみでしたが、グリューネ教会の情報を追加していますのでご確認ください」
「新しいカードになったのかしら、なんか違うわ」
ルーナ教会だけの時は、白地に紫と銀の模様が入ったカードだった。返されたのには青緑の模様が増えていて、他の内容がきれいに書き直されている。
「ここの模様が入信している教会や互助会を示していますんで、今は魔女魔術師の互助会、グリューネ教会、ルーナ教会の3種が該当するわけです。それと、カードそのものが古くなっていたので、新しいものに変えさせていただきました。古いカードは無効になっているんで、持って帰りたければお持ちしますがどうします?」
「グリューネ教会は青緑なのね。なら、魔女魔術師の互助会が紫でルーナ教会は銀?」
魔女魔術師の互助会は紫水晶のブローチが配付されるから紫っぽいし、消去法でルーナ教会が銀なのかしら。
「いーえ、魔女魔術師の互助会は本来“月光の銀”色が指定色なんで、略式でも単なる銀です。ルーナ神は紫の魔神の別側面と言われていますので、それで紫ですね」
ふーん、と聞き流しつつカードの内容を確認し、前のカードは持ち帰らないと答えて手続きがひと段落。
入ったとき同様に体を丸めて扉をくぐり、いったんギルドの支所を出る。中庭の開放感がなんとなくさわやかさを感じさせてくれた。
「うわー!!」
……オーガスタが叫ぶ声がする。今度は何に触ろうとしたのやら。
さておき。殿下とオーガスタと共に無理やり小屋に入り、パーティメンバーとして登録する。パーティ名はひとまず無名とした。
さて、私も詳しい依頼内容を聞けるようになったので、元の応接間に戻る。
まずは殿下とオーガスタだけを護衛にしようとしたところをね、問い詰めないといけない。行先とかは……まあ後ででもいいか。
応接間に戻ると、テオじゃないテオはへそくらいから下を大蛇に戻し、ゆったりとお茶を楽しんでいた。
「戻ったか、おかえり」
「ただいま」
私たちもお茶を淹れてもらい、ひとまずお茶の時間とする。オーガスタはさっきと同じ席にそそくさと行ったので、私は殿下の膝の上に座った。
「えーと、テオじゃないテオはなんて呼べばいいの」
「ン? んー、なんて呼んでもらおうかなァ」
からかい交じりとも困っているともとれる返しに、オーガスタは「依頼人さんでいいんじゃないの」と助け船を出す。
「うん……うん。それでいこう。理由あって本名は使えないシ、他に使えそうなのは青っていう通称くらいしかないンでな」
「改めて、パーティで依頼を受けるよう手続きをしてきたから、詳細を教えてほしいのだけど」
オーガスタがそう切り出すと、依頼人さんは茶器の並んだテーブルの上で腕を振り、水でできた会都以西の立体地図を用意した。
「依頼の概要としては、指定地点を通リながら目的地に向かい、できれば封印をして、帰ってくるまでの護衛だ。具体的な経路の設計はオレの息子に頼んだからいいとして、通ってほしいのはクロスランド王都にあるグリューネ教会とヘオース学院。目的地はクロスランド西部にある森。今はミンターの森と言われているンだっけ?」
地図の中で3か所、クロスランドの王都だろうところと、懐かしき(というほどではない)学び舎、そしてつい先日依頼に行ったばかりの場所に色が付く。
「ンで“ミス・クイーン”に依頼をした理由は、オレや息子と相性の補完ができて、知らない奴からは弱そうに見られるヒトを御者に置きたくてナ。ポーラ王国連邦内の道中はわざと治安の悪いところを通り、見るからに捕まえるとうまそうなオレたちの馬車を狙わせて、オレの息子の引っ張っていく兵が捕まえる。掃除をするわけだ」
「ほどほどの治安の場所しか選んでいないからな? そもそも、連邦に野盗や魔物が頻繁に出没する地域はない……はずだ」
「つまらないけどナ」
依頼人さんの脚を踏んでおく。ロングブーツのせいで効果はあまりなさそうだ。
「グリューネ教会はお使いの受け取り、ヘオース学院はお使いの納品。アルヴィは知ってるだろうけど、ヘオース学院の学院長が外に出ると歩けなくなるだろうからナ」
「えげつない人込みになる」「わかるな」「目立つもんねえ」
「全員顔見知リかよ!」
「私たちヘオース学院の卒業生ですし」「ね」
老先生で出歩くことを想像しているけれど、それでもヒトが集まりそうだ。先生背が高いし、待ち合わせ場所に便利だろう。
「……まあイい、ミンターの森は近くで泊まる。封印するものハこの森の中にいるンだが、」
「あ、負けるんでパス」
ミンターの森にいるものその1、取引先の妖精さん。これを封印するって言われたら仕事にならないのでパス。
ミンターの森にいるものその2、謎の洞人男性。これと戦えって言われたらどう考えても負けるのでパス。
「早いナ?!」
「アルヴィがパスするなら私も無理」
「も~!!」
あーあ、依頼人さん駄々こね始めちゃった。
でもすぐお茶を飲み干してカップをテーブルにたたきつけるように置いてのけぞって、
「封印は延期! でもミンターの森には行くカらな!」
殿下の深い溜息が聞こえる。これくらいの駄々はいつものことのようだ。




