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05 客を選ぶ部屋

 アトリエに泊まり、翌朝。

 オーナーにお昼くらいまで出かけるつもりと断りを入れてグリューネ教会(冒険者ギルド)へ行き、買取カウンターへ。


「おはようございまーす。買取をお願いしたいんですけれども」

「はーいです……にゃ」


 背の低い猫人(ケット・シー)の受付嬢に癒されながら、私はカウンターにファーストポーションを置く。

 ファーストポーションはダンジョンの近い場所ほど消費量が多く、遠い場所ほど(相対的に)少なくなる。たいていは町ごとに買取価格が決まっているが、ここはどれくらいだっただろうか。


「お名前をお願いします……にゃ」

「アルヴィよ」

「アルヴィさま……おめめの色をよく見せていただいても?」

「? いいわよ」


 しゃがみ込んでカウンターに頭を乗せる。頬を押さえる肉球(にきゅきゅう)と毛皮のデュオはもふもふもふもふもふもふ


「アルヴィさま、おめめをひらいていただかないと困ります……にゃ」

「ご、ごめんなさい」


 もふに癒されつつ、目の色を検分される。ああー、猫人独特のきらきらしたおめめがばっちり見える! かわいい。

 ……さて、検分が終わったところで、受付嬢からお詫びの言葉をいただいた。


「たいへん申し訳ありません。アルヴィさまが買い取りを希望された時は担当をお呼びすることになっています……にゃ。担当が来るまで時間がかかりますので、別室にてお待ちください……にゃ」

「いつの間にそんなルールができたのかしら。ま、いいわ。案内していただいても?」

「もちろんですにゃ! ……あ」


 受付嬢はどうやら口調を気にしているようだけど、個人的には可愛いのでそのままでいてほしい。

 別室に案内され、ベッドにできそうなほどふかふかのソファに座りながら、テーブルにあったメニューで朝食代わりにティーセットを注文する。

 運ばれてきた紅茶を飲み、軽食を摘み、待つ。


 待つ。


 待つ。


「……来ないな」


 部屋に置かれた柱時計も、3回音を立てている。待っている間にティーセットはきれいになってしまったし、ソファで泳ぐマネをしたし、3点倒立をしてみたりと時間をつぶしてみたものの、時刻はもう昼時でおなかも空いて、担当とやらにたいしての余所行きの顔は売り切れてしまった。

 忘れられたのだろう、と適当に当たりをつけて退室すべく扉を押す。開かない。引く。開かない。

 こいつは困った、閉じ込められたようだ。


「これは言い訳が立つわ!」


 蹴ってみても横にずらそうとしても開かない扉であれば、トイレに急いでいるのに出られなかったと言えばいい。修繕費は来なかった担当にお願いしよう。

 扉からいくらか離れ、詠唱をする。


渦巻け(グロウ)ひらけ(フロウ)ブチ抜け(クロウ)!」


 想像するのは風の槍。ひとつの攻撃ではなく、複数で扉を撃ち抜くことを。

 風でできた、8本の槍が空中で円を描くように回転する。詠唱が終わり槍は扉の中央目掛けて打ち出されて。


「あ」


 扉が外から開けられて、開けたヒト――殿下に全部激突した。


「あー!!」


 証拠隠滅、逃走、いやなんで殿下がここにいるの?!

 とにかく最初にやるべきは手元のファーストポーションをかける!

 卓上に並べていたファーストポーションの瓶を取っていざ投石の構えを取って、


「まてアルヴィ! 私は無事だ!」

「え」


 と殿下に止められてしまったのでやめました。まだ開封してない、ぶつけて割ってかける気だったので。

 足早に近づいてきた殿下にファーストポーションを取り上げられ、熱はないかを手で測られる。私は近づいてきた殿下にけがや傷がないこと、やけに豪奢な服を着ていること調べて、ちょっとだけ頬に埃が付いていたのを指でこすり落とした。


「待たせて悪かった。何を買い取ればいいか……いや、その前に調子はどうだ?」

「おなかすいた。買い取りは殿下がするの?」

「お前の相手をするのが私というだけだ。ここで食べられる食事もいいが、待たせたことだしどこか別の店に行くか」


 殿下はそう言って私を抱き上げる。必要はないと思うけれど、歩かなくてもいいのは楽だ。

 抱き上げられたまま部屋の外に出ると死屍累々(?)で、魔力欠乏らしいヒトで床が見えなくなっていた。殿下は面倒くさそうにヒトを蹴って退かしながら廊下を進む。


「あの部屋はごくわずかな冒険者ギルドにのみ設置されている“客を選ぶ部屋”だ。部屋にいるものを除いて、専用の鍵を持っているものか自我を持たないモノ、もしくは部屋にいるものより魔力が多いヒト以外は扉を開けることが出来ない」

「……殿下、よく開けられるね」

「鍵を借りた」


 買い取りカウンター近くまで来たので、殿下の腕から降りて自分で歩く。

 このまま殿下についていけば昼食をおごってもらえるだろうけど、殿下が会都で食事をする以上その辺の庶民向け食堂には行ってくれない。地位がある人が食事をするならきちんとした場所でないと、という文句を垂れるヒトは多いからだ。


「じゃ、私お昼食べに帰るわ。オーナーにもそう伝えてあるし」

「なら、夕方以降に会いに行く、どこで仕事を?」

「会都東の貸しアトリエ」


 殿下はむ、と口を曲げてしまったので放って冒険者ギルドを出る。

 アトリエへ向けて歩きながら、今日は肉類を買い込みながら帰る。食べきれない分についてはオーナーに預けて保存食にしてもらおう。

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