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49 招かれざるもの

 会議城は、その名の通り会議をするための城である。レムリウス王国の歴史書では神々により与えられし英知の砦と書かれているが、実情は手入れの行き届いた骨董品(こっとうひん)中の骨董品だ。かけられた様々な魔()により維持されている城の設備は、建て替えたくとも建て替えられないというのもあるとか。

 代表的な魔法は、『知性朽ちぬ限り変わらず在る』『()術はこれを禁ずる』『星々は等しく輝く』ということば。それぞれ「この城は知性の概念が存在する限り存在し続ける」「城内は魔術ほか魔法以外は使えない」「城内ではすべての言葉が意図の通り翻訳される」だそうだ。殿下曰く、ちょっと物を引き寄せる魔術すら使えないので侍従が手放せない環境だとか。

 いちばん近い出入口は混雑しているから、と別の出入口に馬車を付けてもらい、なぜだか怯える“ミス・クイーン”(オーガスタ)の手を引いて歩いていく。案内をしてくれる侍従のヒトは慣れていないのか、私の想像とは異なる方へとどんどん進んでいった。


「ね、アルヴィ。さすがにこんなずかずか入って行ったらまずいんじゃないの」

「殿下からはどこに行っても合法にするから大丈夫って言われてるわよ」

「わ、わぁ~……」


 案内されたのは会議城でも外側、いわゆる観光客向けのエリア。なんだかバタバタしている雰囲気があるのはここより中心より南側の大ホールやら応接間やらの応接エリア。わざわざ応接エリアではなく観光客向けのエリアに連れてこられたってことは、殿下ではないヒトが私たちに会いたいようだ。

 やがて案内された休憩室のひとつ。入るよう促されるのを無視すると、腕を掴まれて無理やり部屋に放り込まれる。待っていたのは部屋の質素さに釣り合わない、これからパーティー会場に行きますと言わんばかりの豪奢なドレスを纏う小柄な……おそらくは齧人(ロードード)と思われる丸い耳が頭頂部近くに生えた少女だった。


「あなた、ガルヴィニアのアルヴィさんでよろしくて」

「用向きは?」


 名乗りもしない相手に名前を教える義理はない。内密にしてほしい依頼にしては、呼び出した場所が開けた公共の(ヒトが来るともしれぬ)場所で今ひとつ。昔はよくあった殿下を狙ったお嬢さんがただろうとあたりを付けて、わざとつっけんどんに言う。


「わたくし、フロー様をお慕いしておりますの。あなた、パーティーにも呼ばれない庶民の出なのでしょう?」

「用はないって。オーガスタ、行こう」

「おまえたち」


 お嬢さんは華奢で、か弱く、守りたくなるような声で私たち、いや部屋に控えている私兵たちに指示を出す。剣やら槍やら突きつけられて少女の向かいのソファへ座るよう促された。

 ソファに座っても剣は向けられたまま。身動きが取れなくなって、私はともかく隣に座った“ミス・クイーン”(オーガスタ)を巻き込んだことを若干反省した。


「……天地がひっくり返っても許嫁は私のままだよ」

「あなたがお亡くなりになれば別ですわ。ロードード公国の公女であるわたくしであれば、フロー様のお隣に立つに足りましてよ」

「……」


 ごくり、と“ミス・クイーン”(オーガスタ)の喉が飲み込むような音を立てた。これは彼女が必要ないことを黙るためにする癖だと聞いている。

 “ミス・クイーン”(オーガスタ)の言いたいことはわかる。魔人族の変なところのひとつ、運命のたったひとりが見つからなければ5歳の誕生日を迎えられない……つがいを見つけられないなら5年で死ね、という神々の呪いがかかっているところだ。温情なのかどうなのか、年齢はプラスマイナス3歳の範囲でつがいは生まれるとか。

 ロードード公国の公女だという少女は見た感じ私の5つは下だ。そうなると、殿下のつがいではない。


「で、どうやって殺すって? さすがに殺人犯や殺人教唆で殿下の伴侶は無理でしょう」

「ダンジョンであれば、外の法令は適用されませんわ」

「おっと」


 ダンジョンを無法地帯だと思っているお嬢さんだ、頭のつくりが私とは全く違うらしい。

 正しく言うなら、ダンジョンに外の法令は通用しない。ただしシレーネシア(白の魔神の国の)法を除く、だ。シレーネシアではダンジョンで起きたことも()()()記録しているというし、例え殿下の伴侶になったとして国際的な場に出る以上、シレーネシアと全くかかわらないというのは無理だろう。

 “ミス・クイーン”(オーガスタ)だけでも逃がせないかなと思ってみるも、この部屋の出入口は入ってきた扉だけだ。魔術使用禁止の環境でできることと言えば、ヒトニミセルナを取り出すくらいしかない。……取り出したところで、制御は魔術でやっている以上何も撃てないかわいい(?)リボンになってしまうのだけど。

 と、意識を向けていたからか扉がノックされた。ロードード公国のお嬢様は私の背後にいる私兵たちに視線を向けるが、いずれもヒトを呼ぶようなことはしていないらしい。

 再びノックされる扉。んん、いやにノックされる位置が低い。もしかすると、いやそんなわけはないか。

 考えていることがにじんだのか、ロードード公国のお嬢様は私に「何がおかしいの」と問うてきた。そうか、顔に出ていたか。


「いやね、私この城に通っていたことがあるのだけど。その時もこうしてノックしてくる仔がいたなあと」

「走馬灯でも見ておられるのかしら」


 ノックの音がしなくなった。私はとっさに“ミス・クイーン”(オーガスタ)をかばう形でソファに伏せる。

 ドガン、バキバキと言う音と共に扉は破られた。突きつけられていたはずの剣は持ち主ごと消えており、私兵たちは逃げたくとも逃げられないのを悟って固まっているのが大半、ロードード公国のお嬢様をかばうように立っているのがひとり。

 私が止めるかどうかを悩んでいるうちに、彼はロードード公国のお嬢様ともうひとりを口に含み飲み込む。あ、お嬢様の方のしっぽが口の先から舌のようにはみ出している。

 ばたばたと走ってくる音。誰かがこの惨事を察して悲鳴を上げる。


「“ポーラいち有名な”アルヴィだけど、偉いヒト出してもらえるー?!」


 また悲鳴が聞こえた。大変だなあ。



 扉の壊れた休憩室から、応接エリアの応接間に移動させてもらい、先ほどのより座り心地のいいソファに座らせてもらってひと息つく。窓側に座る“ミス・クイーン”(オーガスタ)はまだ顔が青いが、それはまた別の理由だろう。


「にしても、殿下が来るまで待つように、ねえ」

「ね、さっきの大きい蛇は……そういう護衛? 違うよね?」

「殿下のペットらしいよ。テオっていうんだって」


 テオは数年見ない間に大きく成長して、かつては小さな青大将だったはずなのに今や見上げるほど大きい青大将になっていた。鱗は海辺で拾えるガラス石のようにくすんでなお美しい青で、模様はより濃い青で描かれていた。涼し気な目の後ろにひと筋水色の模様があったから、おしゃれさんだなあと思った。

 そういえば青大将の異名にはネズミトリというのがあったなあ。齧人(ロードード)はネズミやリスの特徴を持っているヒトのことだから、大きめのネズミと勘違いしてぱくっといったのかもしれない。


「待たせたな」

「偉いヒトの方が後から入ってくるものでしょ。昨日ぶり、殿下」


 パーティー用の盛装に身を包んだ殿下がやってきた。黒を基調に所々暗い青が指し色として入ったジュストコールにロングパンツを合わせていて、角をつなぐような金鎖のサークレットにはレムリウス王国の国章をあしらったメダルや、褐色なり深い赤なりの小粒の宝石がいくつも下げられている。

 殿下は私たちとローテーブルを挟んで向かいにあるソファに座り、そっと差し出された紅茶を口に含む。


「紹介しておくわね。こっち私の許嫁の殿下。こっち私の数少ない友人のオーガスタ」

「ああ。よろしく、オーガスタ。私のことはフローと呼んでくれて構わない」

「よ、よろしくおねがいしましゅ」


 内心泣いていそうな“ミス・クイーン”(オーガスタ)は、それでも平然とした顔で殿下と握手をする。私の好き(Love)なヒトと好き(Like)なヒトが仲良くしてくれるといいのだけど。


「簡単な聞き取りはさせてもらったが、改めて話を聞いても?」

「ええ。何なら文書に残してもいいわよ」


 ざっくりとかいつまんで、魔女集会の帰りに殿下に会おうと思ってここにきて、うっかり殿下狙いのご令嬢に絡まれたと説明をする。それと、“ミス・クイーン”(オーガスタ)は巻き込まれただけだと。


「ふむ……。であれば、ロードード公王にはご令嬢のことを掛け合っておこう」

「ホントよろしくね。なんで変なご令嬢減らないのかしら」

「貴族向けの学習機関が設置されていないというのも大きいな。大抵の者はヘオース学院を受検すれば用が足りる」

「作っちゃう?」

「……検討はしておこう」


 殿下にも会えたことだし帰るかな、“ミス・クイーン”(オーガスタ)の方の用件もあるし。

 そうしていると、窓の外が暗くなった。飲み込んだヒトを吐き出したせいか、若干機嫌の悪そうなテオだ。

 殿下をちらりと見る。お茶をこぼしている。予定外だったのかしら、と窓に近づいて開いてみれば、口先がちょんと指に触れた。


「テオも入れば? お茶くらいは出せるよ」

「口直しの果物が欲しいな。服をきれいにしてやる対価だ」

「あ、ああ」


 しゃべった。

 すぐさま用意される、ボウルに山盛りのつやつやした苺。かぱ、と開いた口にざらざらと流し込むと、うれしそうに飲み込んだ。

 窓からテオが入り込む。蛇の頭だったものは白波のようにうねる銀髪をたたえたヒトの頭に、鱗は同じ色のだぼついたフロックコートになり、窓を越えて着地した足元はロングブーツを履いている。


「テオ……じゃないの?」

「テオはそこにいるオレの息子のペットだが、正しくはうまそうなでっけえ魚だナ。お招きありがとうよ、お嬢さんがた」


 テオじゃないテオが指を振る。魔()がきらめいて、殿下のこぼしたお茶のシミがきれいになった。


「“ミス・クイーン”、依頼主の青はオレだ。アルヴィ、オレはフローの三親の神位だ。フロー、椅子空けろ」

「ちょっと待って、依頼主ってことは明日会都集合の、」


 はーやれやれと椅子を空けない殿下の後ろに立ち、テオじゃないテオはにひひーと笑う。


「三人共、明日っから移動の護衛よろしくナ」


2025/8/24 国名の誤り修正

2026/1/2 キャラクター名の修正、足りない濁点を追加

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