48 気楽な友達
すごすごと連れていかれる、ダンジョンを作った魔女。なんとコメントしたものか、と見送っていると、“ミス・クイーン”は「毎度毎度よくいるわね」と呆れた様子で言った。
「そんなに毎回逮捕者出てるっけ?」
「ほぼ毎回出てるわよ。“統計屋”の店には間違いなく情報があるわね」
『逮捕者が出たら帰るって約束してるくらい毎回かしら』
というわけで、ゴフはくたりと力を失い、“姫巫女”はお迎えを呼んで帰ることになった。次に“姫巫女”がこっちに来た時はアトリエを案内することを約束して、私は必要最低限の出席は満たしているし帰ろうかと思案する。
と、ぷに、とほっぺをつつかれた。“ミス・クイーン”の仕業である。
「“ポーラいち有名な”。私明日から会都集合の長期依頼受けてるんだけど、よければ会都まで相乗りしない?」
「いいの?」
「この辺りでどこか移動するって言ったら、基本会都経由じゃん。“ポーラいち有名な”はここから会都まで歩いて帰れなさそうだし」
そんなことはない。会議城が見えさえすれば、会都の方角は間違いなくわかるから。問題は会都まで歩く体力がないので、何日かかけるってこと。
そういう点では“ミス・クイーン”の話は渡りに船だ。会都まで行けば家の方角というか、座標で空間転移もできるし。
「お言葉に甘えてもいいかしら。あ、街を出る前に連絡を、って言われているから出発に時間かかるかも」
「誰に連絡するのよ」
「通行税を管轄しているところ? おつりがどうとか、って言ってた」
「あー……。“ポーラいち有名な”もやったのか。いいよ、まとめて手続きしてくる」
「サインとかはできるから、何かあったら呼んでよね」
どうやら“ミス・クイーン”も同じことをしたらしい。おつり、大変そうだ。
“ミス・クイーン”が移動手段の用意と通行税を管轄しているところへ手続きに行く間に、中庭の様子を窺っている中から“エコーレフト”を見つけて手を振った。
逮捕者が出たことで注目を浴びている中庭に、“エコーレフト”は嫌そうに顔を出す。中庭に降りないのは下足置き場に靴を置いているからだろう。ちなみに、“ミス・クイーン”は予備の靴を履いていた。
「どうしたの、“ポーラいち有名な”」
「用事が済んだから、今回はもう退席するよ、と連絡したくって」
「あなたって気が使えたのね。警備の関係もあるし、助かるわ」
「来るときの歓迎ぶりを思えば、帰りだって教えておいた方がいいでしょ。“ミス・クイーン”が手続きに行ってるけど、出発準備ができたらとっとと出発するし。あ、“ザ・スカーレット”によろしく」
当然と言えば当然だけど、“エコーレフト”たちは私の父方のいとこなのだからアルマちゃんは祖母にあたる。つまりは顔が利くってことだから、アルマちゃんへの伝言くらいは受け持ってもらえるのだ。
“銭洗い”で両替したメダルをあげるあげないの論争をしていると、いつだか“ミス・クイーン”が従えていた記憶のある鈍色のフクロウゴーレムが降りてきた。
メダルの入った革袋を“エコーレフト”へ投げ渡し、フクロウゴーレムに腕を差し出せば、体色と同じ鈍色の脚に腕を掴まれる。ずしりとした重量に支えきれないからと抱き抱えたら、きょろきょろと顔を回転させて私を探すものだから、面白くてつい笑ってしまった。
やがて私の顔が見えたのか、ぱかと音を立ててクチバシが開くと、きゅるきゅるきゃるきゃるという変な音の後に“ミス・クイーン”の声で喋りだす。
『いたいた。おつりの返金は面倒くさいからグリューネ教会経由で振り込みにしておいたわ。ついでに巡回便の話を出したら、ちょうど空荷で会都まで移動する馬車があるんで乗って行っていいって』
「ありがとう! 手間賃くらい取ればいいのに」
『やぁね、私の分もやるのに手間賃なんか取れるわけないでしょ。っていうか口座聞きそびれたけど“ポーラいち有名な”宛てです、って言ったら手続き済んだわよ』
「そりゃまあ、ポーラいち有名ですから?」
虚勢だけど。なんでそれで手続きできちゃうのよ。私ルーナ教会とポーラ国営銀行にしか口座持ってないんだけど。
“ミス・クイーン”からはフクロウゴーレム(ハテナちゃんというらしい)を連れて、靴を回収して正面入り口から出てくるように言われた。
仕方なく建物に、魔術で水を出して足を洗ってから戻る。廊下を歩きながらハテナちゃんを抱えなおすこと数回、何とか靴を履きなおして外に出ることができた。
「おっそい!」
「ハテナちゃん重いんだもん~」
ハテナちゃんのおよそ5、6キロほどのずっしりとした重量が腕にかかる。正直、背負えるなら背負ってもいいくらいに。
怒ったような口ぶりだけど、どこか楽しそうな“ミス・クイーン”が手を振ってきた。反対の手には小さいハテナちゃんみたいな、フクロウの柄が入った楕円の石を持っている。
「マジックバッグ入れればいいじゃない、私もそうしてるし」
「あ」
「忘れ物ないね? よーし会都へいこー!」
ハテナちゃんと楕円の石はさっと片付けられて、仲良く手をつないで馬車へと向かう。馬車は空荷で運ぶにはもったいない位しっかりした造りの箱馬車で、要人警護にでも使うために動かすのかなと思った。
馬車の中はめちゃめちゃ広かった。天井までは私より背の高い“ミス・クイーン”(本人曰く180センチに届かないくらい)でも立てるくらい余裕で、椅子だって女性2人が片側の椅子に並んで座ってもう2人は座れそうな幅。ばたばたと足を振っても反対側の椅子まで届かないくらいだ。
ヴァルトユーデル出発分の通行税に関する手続きはもう終わっているから、緩やかに走り出した馬車はそう早くはないものの止まることなく進んでいく。
「ね、“ミス・クイーン”。長期依頼ってどういうの受けたの」
グリューネ教会での登録はしていないので、依頼を出したことはあれど受けたことはない。移動の間に聞いてみるのはありかな、と思って振ってみる。
「どこまで言ってよかったかしら。護衛任務だから、守秘義務があるのよね。“ポーラいち”……もう面倒くさいし、アルヴィも受けてくれるなら別なんだけど」
「グリューネ教会の登録してないのよ、私。うちの近所にあったところ、気が付いたらつぶれてたし」
「グリューネ教会が廃業になるほど平和ってこと?」
いや、ある日突然ぺしゃんこになったのだ。殿下曰く、そういう星の巡りだったそうだけど。
にこっと微笑んでごまかして、私も“ミス・クイーン”を名前で呼ぶ。
「それにほら、私は“ミス・クイーン”ほど戦闘能力が高くないし」
「嘘じゃん! あの弓とか、水の魔術とか!」
「高くないつもり!」
水の魔術、たぶん濁流を思いっきりぶつけるのことだろう。ヘオース学院在学中に、ダンジョン実習で使ったことがある。実はあれ私の実力っていうより殿下からの信頼だから、私がすごいというより殿下がすごいのだ。
「んー、そっかあ。いい加減グリューネ教会もパーティを組めってうるさいし、これを機にアルヴィが冒険者になってくれればと思ったんだけど」
「ちょっと前まで勇者のパーティにいたけど、なんか面倒くさかったのよね。しばらくは私の好きなようにしたいわ」
「たぶん私が断ったからアルヴィに声がかかったのよね、今の王子に、出奔していた公爵令嬢、王子の婚約者の伯爵令嬢、あとそれなりにしっかりした血筋の傭兵だっけ」
「知らない知らない知らない、何それ」
なんか全員揃えたように金髪で、食事のマナーやら服装やらうるさいと思ったらそういうことだったの?!
「いくら何でも王子の名前くらいは知っていた方がよくないかしら、ガルヴィニアと国境を接してる国よ?」
「ポーラ王国連邦加盟国の王侯貴族だけで手いっぱいよ、何人いると思ってるの」
「それはそう」
そうして喋っているうちに、馬車は会都の道に入る。まだしばらく小麦畑が広がっているが、そう時間がかからず市街地に入るだろう。
「アルヴィはこの後どうするの? 宿は?」
「どうしようかな、(趣味で)許嫁(している相手)がいるはずだから会えるか聞いちゃおうかな」
「なんだっけ、顔が好みで声が好みで幼馴染の」
「最初に性格と角が好みで、も入れておいて」
「はいはい」
いつでも会いに来ていいと言われているので、いつでも突撃していいはずだ。
“ミス・クイーン”は馬車の屋根を風の魔術で軽く叩いて合図を送り、私は会議城に、グリューネ教会の支部に連れて行ってほしいと声をかけた。
「わかりました。先ぶれを出しますので護衛が減りますがよろしいでしょうか?」
「? はーい」
護衛……護衛? “ミス・クイーン”が同乗しているからかしら。
馬車の車輪が回る音であまりわからなかったが、並走していたらしい別の騎馬が先行していく。左右にある窓から見えない位置にいたのかしら。
「ね、アルヴィの許嫁って名前聞いても平気? 半分になったりしない?」
「ヒトニミセルナじゃないんだから……ならないわよ」
そうこうしている間に、だんだん会議城のある方へと馬車は近づいていき、なんでだか知らないけど比例して“ミス・クイーン”が青くなっていく。
「でもなんて紹介したらいいかしら。長いのよね」
「個人名だけでも……」
「フローよ、私は普段殿下って呼んでるけど」
“ミス・クイーン”は尻尾を踏まれた猫人みたいな悲鳴を上げる。
会議城はもう目前だ。




