47 ゆるゆる魔女集会3
あとがきで大変遊んでいます きゃっきゃ
3人で出店を覗きながら、目的もなく歩く。
貸し本屋にちょっとした菓子屋、それに観光ガイドとして使い魔を貸し出す店。いくつか魔術触媒を販売する出店もあるけど、出店の大体が接客対応中でお邪魔になりそうだからと通り過ぎることに。
「触媒見たいのはやまやまなんだけど、見たいだけなんだよねぇ」
「わかる。“ミス・クイーン”は杖とか持たなさそうだもんね」
『私も護符を使うことが殆どですから、既製品は見るだけかもしれません』
そう、この3人で行っても冷やかしだけになる。
私は魔導書とか弓とかを魔術触媒にしているし、基本的に手作り。“ミス・クイーン”は手首から肘くらいの音楽用指揮棒みたいな杖と照準機だという手持ちの大筒(小さいから小筒?)をいくつか持っていて、“姫巫女”はゴフもそうだけど筆を使うこともある。
ここまで眺めた範囲だと、魔導書と“ミス・クイーン”の持つ杖は並んでいるけれど、弓もゴフも並んでいない。いいとこ見ても、他の魔女魔術師の技術をあーだこーだ言うくらいしかないわけで。
『あ、2人とも。あの出店、迷宮橙がありますって。懐かしい~』
「「迷宮橙?」」
変な言葉に“ミス・クイーン”と声がそろう。
迷宮はまあわかる。極東出身ないしはそちらとかかわりのあるヒトがよく使う、ダンジョンの別名だ。でも橙っていうと……魔神のなかにそんな色があるわね。
『もしかして……2人の地元だと迷宮橙は育てて、ない?』
「ない」「ないない」
育てる? と思って聞き返す。どうやら迷宮橙と言うのは植物の名前なんだとか。
立ち話もなんだから、と喫茶店を模した出店に入る。外見は砂漠の民族が建てるようなテントだけど、中に入ると空間拡張魔術で広々として見渡せないほどだ。
給仕に案内されて、4人席に案内してもらう。椅子は余ってしまうけど、“姫巫女”用の席が取れる空いたテーブルはそこだけだったから。
今日のおすすめティーセットとやらを人数分頼み、すぐに配膳されたカップをそれぞれの前に置いてポットからお茶を注ぐ。マリアベルおばさま渾身の修行の甲斐あって、ひとまず紅茶だろうことはわかった。
『ええと、迷宮橙っていうのは植物の橙に似ているのだけど、葉や種を植えるとダンジョンが作られる不思議な植物なの』
「あ、あれか。メイズフルーツか。名前が違うけどそういうのはあるよ」
『じゃあ、似たような植物かな? ダンジョンに直接植えない限り増えないけど、品種改良されたものもあるし』
「全然知らない」
なんでも、原種である迷宮橙(広大なダンジョンを生成する葉と凶悪なボス部屋を生成する実が成る)のほか、摩天橙(いいとこ5部屋までのダンジョンを生成する葉とそこそこ強いボス部屋を生成する実が成る)、神手橙(宝箱から宝石や魔石が取れるダンジョンを生成する手みたいな形の実が付く、ただしめったに実が成らない)、迷宮文旦(ワンフロアダンジョンを生成する大きな実が成る、ただし複数人で突入するとまず間違いなく分散させられる)、といろいろな品種があるんだとか。共通点はオレンジやグレープフルーツといった果樹によく似ていることと、生成されるダンジョンやボス部屋はすべて植物ないし虫に似た魔物ばかりということ。
なお、極東でよく育てられている理由として、シキガミ、いわゆる使い魔の魔物に与える食べ物として重宝されているからだそうだ。“姫巫女”の家にも植えてあるし、“ミス・クイーン”は親戚の家に木があったとか。
『それで、迷宮橙の他の用途としては、これから冒険者になるヒト向けの腕試しに使うこともありますの』
「ダンジョンが作られるんじゃあ、そうよね」
「どこぞの貴族の間じゃ、あの手の植物で作ったダンジョンでご子息を鍛えるなんてこともあるからねえ。そうすると、メイズフルーツの木は実質利権の塊だし」
「んー、市街地で植えてるヒトとかいたら危なくないの?」
『ダンジョンの土じゃないと育たないから、ダンジョンが近いか相応に権力者でもないと育てられないの。……クロスランドだと盛んに栽培しているっていうけど、ね』
そういいながら、“姫巫女”の前にあるカップから紅茶が減っていく。どうやって飲んでいるんだろう。
「で、行ってみる?」
「いいよー」
『いいの?!』
そして、どうせだったらこの3人(?)で迷宮橙のダンジョンに行ってみよう、と言うことになった。
「私たちはそのまま行くとして、“姫巫女”はシキガミのままついてくるで平気?」
『ど、どうしようかな……』
「いったん戻って私の空間魔術に入れて連れていくとか」
「できるの?」
「……無理かも。近隣の男性全員目つぶしするとかどう?」
『話のスケールが急に小さく』
ちなみに、ヒトを空間魔術に入れて運搬することは大抵の国で合法である。そもそもヒトが入るほどの──入れられる広さがあるのは当然、そのまま取り出すことができるほど精密な──空間魔術が使えるようなヒトが珍しいので、入れたり出したりが自在ならやってみろ、みたいな話なのだ。
『私はこのまま付いて行くよ。見てるだけでも勉強になるし』
「じゃ、このビスケットで最後だし食べ終わったら行こー」
「おー!」
というわけで、迷宮橙を陳列(?)している出店にやってきた。難易度が小人、大人、巨人の3段階。ここは元気いっぱいに宣誓するに限る。
「大人3人で!」
入場に関する誓約書──ダンジョン内で起きるすべての責任は入場者が取る、火の魔術は緊急脱出以外で使用禁止、と言うもの──にサインをして、摩天橙の葉を中庭に刺しに行くところを見つめる。既にいくつかダンジョンの入口ができているということは、まあまあに盛況らしい。
*
私たちにと言われたダンジョンに入ると、どこか湿った空気の満ちた薄暗い洞穴のような場所が広がっていた。ちょっとした音も反響して帰ってくる辺り、暗さでよく見えないもののそこまで広いわけではなさそうだ。
『正面から、結構いっぱい来るみたい。8……いや、9体』
奥からわらわらとやってきたのは、鎧のような装甲を持ち群れる習性の強い鍍金蟻が8体。奥には鍍金蟻を取り巻きに連れた、硬質化した蜜の尾を持つ渦蟻巻が鎮座している。
早速の歓迎に鳥肌を立てていると、“ミス・クイーン”が前に出てくれる。
「それくらいの数なら私がやるか」
“ミス・クイーン”が腰から下げた杖を取る。まるで楽団の前に立ったかの用に構え、呪文と共に強く振る。
「すべて切り裂け!」
風が強く巻き上がり、狭い部屋の中を無数の竜巻が魔物たちへ向けて走る。竜巻は鍍金蟻の金属めいた装甲に、渦蟻巻の蜜の尾に襲い掛かり、だれもがごうごうと唸る風に踏ん張っている間に粉みじんに切り刻んて通り過ぎた。
きれいに魔物たちの命は削り取られたのか、竜巻の後に残ったのはドロップアイテムの摩天橙の種のみ。風の魔術で集めて“ミス・クイーン”に渡した。落ちていた床は埃っぽいものの、集めるときの風で多少マシになっているはずだ。
私の埃っぽくなったあちこちをはたき、口に入ったゴミをぺっぺと吐き出す。目にもゴミが入ったのかちょっとごろごろして痛い。
「まだまだ柔らかいわねー」
「うぇー、埃っぽい。“姫巫女”来てなくて正解ね」
『今のは、風の魔術? まとめて攻撃できるなんてすごい』
「“ポーラいち有名な”が後輩になるまでは私も学院いちだったからねっ、これくらいはできないと」
「先輩、息切れしているわよ」
というかフレンドリーファイアが過ぎるのよ。“姫巫女”のシキガミなんて、吹き飛ばされないようにしっかり捕まってくれたからくしゃくしゃになってる。
“ミス・クイーン”が摩天橙の種を空間魔術に入れる。すると部屋の奥から軽い音が聞こえて、どうやら次の部屋への扉が開いたらしいと“姫巫女”が教えてくれた。
『ちょっと休んでから行く?』
「うーん、“ポーラいち有名な”いける?」
「平気平気。久々に弓も使いたいし」
と言っても、この間買ったフェイルノート君6号はローグに紐づけてあるので使えない。別の弓を持っているので、それに何とかしてもらうつもりだ。
扉からちょっと離れたところで向こう側の様子を伺い、扉を開けてすぐの強襲はなさそうだなと思いつつマジックバッグの口を開けたままに固定する。ひと息深呼吸をして、扉からもう半歩離れた。
「渦巻け、ひらけ、ブチ抜け!」
想像するのは風の槍。ひとつの攻撃ではなく、複数で壁ごと扉を撃ち抜くことを。
風でできた、8本の槍が空中で円を描くように回転する。詠唱が終わり槍は扉の中央目掛けて打ち出されて、爆発音にも似た音で壁に大穴を開けた。
ブチ抜いた壁の下敷きになる鍍金蟻。ざっと数えることも難しい数の鍍金蟻は、どうやら女王蟻にあたる錫裂蟻を守るために部屋じゅう、壁にも天井にもひしめいている。
『ええと、現在20体! 錫裂蟻を放置すると厄介だよ!』
「でも、射線は通る」
狙いをつけるなり、魔力の矢が錫裂蟻の脳天に生える。“姫巫女”の残り19なんて声がして、そういえばこの弓は1体ずつしか当たらないのを思い出した。
踵を軸にくるりと振り返り、まだ息切れしている“ミス・クイーン”と心配そうな“姫巫女”に旅のガイドじみた言い回しで前に出ないようにと案内する。
「皆様、この先危険地帯ですので、お手を伸ばされないようご注意ください」
ニッと笑って回転の勢いのまま元の向きに戻り、飛び掛かってきた鍍金蟻に狙いを付ける。矢の突き刺さった衝撃で鍍金蟻は来た方向へ戻されて、私はどんどん他の個体に狙いを合わせて吹き飛ばす。
ちょっとばかし蟻酸を飛ばされたものの水の魔術で横に受け流し、最後の1体が後ずさりするのを見逃さずに打ち抜く。
『敵、残りゼロ。え、今のって弓なの?』
「弓だよ!」
自分でも改めて魔物が残っていないことを見回して、この部屋の分の摩天橙の種をマジックバッグに放り込んで、脱出用らしい魔方陣が起動しているのを確認して。まあ2人になら見せてもいいかと考える。
「言いふらさないでくれるよね?」
うんうん、と頷く“ミス・クイーン”。“姫巫女”は『もちろん』と言ってくれた。
それならば、とマジックバッグから弓──銘、ヒトニミセルナを出す。
例えるなら、両端に石を結び付けた幅広リボンのような弓がこれである。リボンは石を結び付けた状態でも私2人分と少しの長さがあって、制御に必要な呪文が延々と刻み込まれている。両端の石は白くどちらもレモンに似た形で、短い毛が生えているためふわふわしていてなんだか温かい。
「“ポーラいち有名な”、鑑定魔術を使ってもいい?」
「いいよ、後輩が1人それで半分になってるけど」
「やめとく」
鑑定魔術を使われると誤作動で矢が出るのだ。制御の呪文に書いてないけど、出るものは仕方ない。
この弓はたまたま持っていた物を組み合わせたら弓になっただけで、正直弓に見えないのは仕方ない。ただし、銘のとおり、人に見せていると威力が格段に落ちるけれど。
『ね、そろそろ脱出しない? なんだか中庭の方が騒がしいし』
「そうね。“ポーラいち有名な”、見せてくれてありがと」
「自慢したい気持ちもあるからね、見てくれてありがとう」
よくわからない挨拶を交わし、ヒトニミセルナをマジックバッグへしまい込む。
3人そろって脱出用らしい魔方陣に乗って、魔力を流して起動する。中庭に放り出された私たちが見たのは、
「14時02分、迷宮橙の違法所持及び違法にダンジョンを生成した容疑の現行犯で確保します」
ダンジョンを嬉々として作った魔女が検挙されるところだった。
ヒトニミセルナ:制御の呪文を刻んでいる際、最後の銘を刻むタイミングで殿下が「それはっ、人に見せるな!」と声をかけたためその銘となった。?神の?????に当たるものの両端に、??神と呼ばれる??の神の???を1?ずつ括り付けてある。
”ミス・クイーン”:クロスランドの王位継承権1位。足りないものは、覚悟だけ。
”姫巫女”:極東の一豪族の次期当主。親戚が筑紫文芸翻訳公社の副社長。




