46 ゆるゆる魔女集会2
ぺらり、とわざとらしい音でステージ中央に立つ司会の台本がめくられる。合わせてステージの端にある、題目が書かれた看板みたいな板もからんとめくられる。
「ではまず全体発表としてぇ。前回から今回までの間に、魔女魔術師として名簿に載った皆さんおめでとうございますぅ。代表からの宣誓を読み上げますねぇ。
『本互助会は魔術の研鑽と相互協力をぼんやりと目標にし、いい感じに研究や技術交換をするための会です。あまりにもヤバいことをした時はお呼び立てしますが、そうでない限りは古く新しい技術としての魔術を頑張ってくれると嬉しいです。よき魔女魔術師であらんことを』
ほか、名簿に載った人数についてぇ。前回から今回まででは名誉記載、新規記載及び予備記載の合計が669名、死亡違反その他を理由とした記載抹消が704名で若干減です。今回注目の抹消理由はクロスランドで起きた互助会員弾圧で、互助会脱退か国外追放かを選ばされたという報告がありましたぁ」
「つっても大半の会員は国外に出たって話なので、クロスランドにおける向こう100年の魔術はほぼ衰退と見ていい! じゃ次、新特許関連」
全体発表と言っても、司会の面々が内容を読むだけなので面白くはない。適当に聞き流し、また適当に真剣に聞いておくだけだ。
新特許では、殿下の言っていた空間魔術の応用に関する話も出ていた。パンフレットには何々……色街で開発。医療方面への発展を期待。なるほどね、殿下が濁した訳がわかった気がする。
なんでだか知らないけど、殿下は私の耳にちょっとでも性的な情報が入るのをすごく嫌がるのだ。私は惚れ薬の調薬もできる魔女なんだけどな。忘れてないかな。
「というか互助会員弾圧って。クロスランド相変わらずとんでもないね」
コソコソ話くらいの声量で、両隣━━“ミス・クイーン”と“姫巫女”に振る。こくこく、とやや青い顔で頷くあたり、弾圧関連で何かあったのだろう。
「“姫巫女”の方はどう?」
「私はそもそもほとんど国を出ないから……」
「というか、私がパーティ追放されたのもこの関係かしら」
しばらくの業務連絡があって、全体会はひと段落。各々軽食を楽しむなり、出店をしにいくなり、講演会に駆け込むなりと好き勝手に動いていく。
「ね、“ポーラいち有名な”はこの後どうするの?」
「んー、出店は気になるけど今日売るもの持ってきてないし。もっと2人と喋ってたいわね」
“ミス・クイーン”に聞かれ、私は正直に答える。
最近話した相手は、仕事でなければ殿下、お姉ちゃん、マリアベルおばさま。歳の近い身内じゃないヒトと話す機会が少ないから、この機を逃すわけにはいかないわ。
……3人共通だろう話題はないけど。
「そうなの? “姫巫女”は?」
「わ、私、できれば講演会と出店の様子を知りたいなぁって。よければ連絡用の式神をお渡ししますから、代わりに行っていただければ嬉しいのだけど……使い走りにするみたいだし、やっぱりその、」
“ミス・クイーン”が話をふると、籠の中で“姫巫女”が何かを握りしめた。おそらくはシキガミの素材で、潰れる音が寂しそうに聞こえた。
「私はアリだと思うけど。“ポーラいち有名な”は、彼女のシキガミ? で連絡とったことある?」
「ない! やってみたい!」
「という訳だから、“姫巫女”はそんなに落ち込まなくてもいいんじゃないかしら」
そうと決まれば“姫巫女”からは顔の書かれたシキガミが渡されたので、少し離れたところで試してみる。
「あー」
『聞こえてるよー』
「これ何本?」
『3本!』
「すご、どうやってるのよ」
『ひ、秘密?』
シキガミを試したところで、講演会は各催しの開始時間までに入場してないとだから、とまずは出店に向かう。
途中にあった講演会の会場をちらりと覗くと、アルマちゃんが言うことを聞かない火の精霊の端末をぷきゅっと握りつぶしているところだった。え、と思ってアルマちゃんを見るとひとつウインクが飛んでくる。
『ここは……“ザ・スカーレット”の火属性の魔術基礎講座なんだ』
「受けるなら次の回だって。席だけ予約しておく?」
『いっ、いいよ。2人とゆっくり出店見たいし!』
ぷきゅっとされていた火の精霊は、アルマちゃんがよく連れている個体だ。とんでもない大ぼら吹きで、シュックローファ侯爵とは仲良しだとか、あの辺の温室維持は俺の仕事だーとか、わかりやすい嘘ばっかり言うんだから。
他の講演会もちらっと覗いて冷かしながら、出店をやっているという部屋の前にたどり着く。入ってすぐの壁際にあるのは貨幣集めの趣味を持つという美老女“銭洗い”の両替屋で、両替レートそのものは良心的だけど手数料を別途取られるようになっている。
そして私は“銭洗い”に目を付けられているので、
「“ポーラいち有名な”、アンタの持っているお金はここじゃ使えないから両替するんだよ」
なんて声をかけられるわけだ。
「今日って物々交換はだめなの?」
「できなくはないけど、うちで会場限定貨幣にしていくヒトが多いよ。で、今日はいくら両替していく?」
それならばと2万トーカを渡し、じゃらじゃらとメダルが入った革袋を受け取る。手数料はメダル2枚と言われたので革袋から出して渡し、ざっと見た限り30枚は入っていそうなので大体何でも買えそうだ。
出店はにぎわっているのもあれば閑散としているのもある。 “姫巫女”が興味を示したのは閑散としているうちのひとつで、悪名高き“統計屋”の出店だった。
“統計屋”互助会の運営をよくしている魔女で、今互助会に参加している中では高齢の部類に入る。ただ、本人が言いふらしている通り吸血鬼であり、日光は克服済みで、趣味は統計。特技はずっと喋ることであり、1回話相手になると納得するまで帰してもらえない位には喋る。本人曰く、最長記録は3年だそうだ。
それと、互助会側が通り名の変更を連絡した稀有な例であるというのも“ミス・クイーン”に伝えておく。前のは覚えていないけど、魔術より統計の方が得意なら、と変更されたそうだ。
「よォこそいらっしゃい“統計屋”統計情報販売所へ~。お客さん3人? 誰もいないから好きだけ見てってよ~!」
ぐえー、と踏まれたアヒルみたいな間抜けな音。ローブやドレスの向こう、白く細い首にはお喋りしすぎを防止するという銀色のチョーカーが付けられていて、それが正常に稼働したようだ。
「2人とも、“統計屋”に声をかけるときは時間指定しなさいってお母さんが言ってたから。気を付けてね」
「そういうなよ若いの! 私はいつだって秘密のない魔女を心掛けているんだよ?! そうしたら(ぐえー)若いのとお喋りする時間くらいいいじゃないか! ね、“姫巫女”!」
『え、ええっと……』
なんて忠告を出すも時すでに遅し。“姫巫女”のシキガミががっつり捕まっていた。
仕方がないので“統計屋”は“姫巫女”に任せ、売り物である本を手に取る。何々、『過去現在における魔術触媒の種類と類型』ねえ。
情報はシレーネシアから買っているのと、互助会の有料情報──個人が特定されない程度の性別や人種と言った属性等についてをもとに統計をしているそうで、立ち読みご自由に、だそうで開いて読んでみる。
ページをめくる。魔女魔術師が初めて使う触媒──魔術を発動するために必要な、魔力をまとめ上げるために使うもの──は声(母国語)が最多で、その次が図形(落書き等文字・図として判読できない・しないもの)。
互助会登録後に使用される触媒は杖(木製)が多く、杖(金属製)、声(母国語以外)もある。複数使うことは当然で、術の内容が特定されにくいならと自分で言語を作った会員もいたようだ。
珍しい触媒はページを割いて特集がされていて、吸血鬼や吸血能力を持つヒトは血を触媒にするとか、稀に生まれつき身体から魔力がはみ出しているヒトなら第3の腕のように魔力を触媒に魔力を振るうとか、魔人族の場合は伴侶を触媒にすることもあるとか、夢に侵入できる種族は夢を触媒とした魔術を使うと定義していいのかとか。
ふーん、じっくり読みたいな。買うか。
「“ポーラいち有名な”、これも面白いよ」
「へー、『魔女魔術師統計第53版』ねえ。それも買いましょ」
“ミス・クイーン”が見せてきたページだけでも面白い。なにその、魔女魔術師の貴族籍とその階級って。“エコーレフト”“エコーライト”は確実に掲載対象じゃない。
なんだかんだ興味をそそるような本ばかりなので、予算に不足はないしと全部1冊ずつ買うことにした。あまり厚みがないとはいえ紙の本なのに、1冊1メダルで価格がそろえられているからね。
「お会計お願いしますー」
「なァんだいいいところだってのに! 極東のことは情報が少ないから “姫巫女”くらい素晴らしい(ぐえー)乙女にはきっちりがっつり取材をさせていただきたいんだよ~?! もちろん(ぐえー)“ミス・クイーン”や“ポーラいち有名な”でも、何なら“ザ・スカーレット”でもいい!」
“統計屋”は統計以外に興味がなさそうだが、取材対象になるのはごめんこうむりたい。
「節操なしじゃん」
『そんな、私だけって言ってくださったのに!』
「言ってないよォ?!」
“姫巫女”が“統計屋”強めのボケで驚かせたところで、“ミス・クイーン”がシキガミを奪い取る。
お会計を求めると再度絡まれそうだったので、冊数に対しいくらか多くメダルを置いて対価とするのだった。




