44 ローグの修理
本文中のドイツ語はGoogle翻訳及びChatGPTを利用して書いています。
案内された作業場は、ゴーレム用の診察台らしきベッドと作業台が部屋の中央に鎮座しており、無数の縄みたいなものが天井へ向けて走っている。
壁際には厚みのあるガラス棚が置けるだけ目いっぱい置かれていて、棚の中には中身入りの瓶やらチューブやらが種類別に入っている。
どうしても棚を置けない隅っこの方は棚同士の上に棒を渡してカーテンが下げられていて、どうやらそこにこのヒトの寝床があるのか、寄せられたカーテンの向こうには丸まった毛布が置かれているのが見えた。
「ゴーレムはいったん停止させて診断するから、何か実行中の処理があったら終了させること。じゃ、ここにゴーレムを出して」
ベッドの上に、マジックバッグからずるりとローグを取り出す。強制終了の15分はとっく過ぎているから、目は見開かれたまま真っ暗になっている。
ただ待っているだけなのも暇なので、近くに行って作業を見る。こういう、誰かが作業しているのってつい見ちゃうのよね。
「状況は?」
「少なくとも、首のところを斬りつけられてるわ。体温調節用の液体がこぼれたって」
「ふーん」
光る道具を咥えて、ヴェスパーはローグの首の辺りを検分する。外皮をめくるとそこには鱗みたいに並んだ黒い板があって、そのうち何枚かが砕けているのが見えた。さらに奥、首の中では切断されたチューブが見えて、この黒い板を外してチューブを取り換える必要がありそうだ。
ヴェスパーは作業台にあった工具でもう割れている黒い板を砕いて丁寧に取り外し、首の奥を覗いてつぶれたカエルみたいな悲鳴を上げた。
「おい、これ修理っていうより新しいの調達した方が早いぞ」
「なんで?」
「修理要点としては2つ、外骨格……この鱗の取り換え。これはすぐ修理できる。もうひとつ、この管の再配線」
「なんで再配線?」
ヴェスパーは光る道具を咥えるのをやめて、天井から垂れている縄のいくつかをローグの首に入っているチューブに例えて、身振り手振りを交えて説明してくれた。
「単に切断されただけなら、この管は全体で1本ではなく何本かに分割できるよう接合部があるから、切られた前後の接合部から取り換えればいい。今回のこれは切断前にこう……差し込んだものをひねっているせいで、別の場所で管が抜けている可能性が高いし、掃除も要る」
「それで再配線なの。どれくらいかかりそう?」
「あー……ひと月? 掃除前に乾燥させて、循環液が乾いてから作業しないと記憶領域に不調が出ることがまれにある。新しいのを買うならさっきの失礼な奴に言いな」
そうすると、ローグは預けておかないとまずそうだ。
「修理で」
「あっそ」
ローグの修理に関する書類を何枚か書いて、預かり票を受け取る。このところ留守番も買い物もローグに頼んでいたから、これを機に頼りすぎないよう気を付けないと。
「あーと……ん、“ポーラいち有名な”だったか」
「ええ」
「あのいけ好かないやつのところに集会の案内来てたな。魔女集会だっけか」
「魔女集会の?!」
魔女集会。文字通り魔女を名乗るヒトと、魔術師を名乗るヒトの互助会……正式名称は集まるたびに長くなるから忘れたけど……まあ、互助会が開催する集会。
そういえばここしばらく参加してなかったわね。もしかすると、
「魔術師の集会は欠席が続くと赤い封筒が来るが、魔女の方もそうなんだな」
「や、やばい! 6年くらい参加してない!」
そうだ、最後に参加したのはヘオース学院に入学した頃だから、もしかしたら7年以上かもだ。
少なくとも赤い封筒が届いているのは間違いなさそう。そして、赤い封筒の内容は『いい加減参加しないと資格停止』である。
大体の魔女魔術師は生きている間に1回もらうかどうかのそれを、ついに2通目をもらったってことじゃない!
「じゃ、じゃあローグは任せたから! また来るから!」
「代金は受け取りの時に持って来いよー」
バタバタと作業場を飛び出し、建物の外に出てさっきと同じ執務室の窓まで空間転移で飛んでいく。勢いをつけたまま飛び込んだせいで、整頓された書類が風にあおられてはためいた。
「先生集会の私宛の奴ちょうだい!」
「え?」
「魔女集会の! 先生に届いたんでしょ!?」
「どっかその辺にあると思いますよ」
「探すの?! この中を!?」
先生の執務室には今、通常業務の書類に加えて出願書類がもさもさしているのである。こんな中から1枚っきりの封筒なんて探していられない。
「あなたそれでも魔女ですか。失せ物探しもできずに」
「そういうのは専攻してないのよ!」
魔女の資格が停止されるとどうなるか。せっかく準備しているアトリエは違法になるので営業停止だし、なんなら今実家でやっていることだって停止になる。そして再開には指定講座──教員が確保できれば2か月くらい、確保できなければ順番待ちによって1年はかかる講座──の受講修了証明が必要になる。
今から覚える失せ物探しなんてやってらんないし、ここは先生を脅して仕事を片づけてもらうか……そうだ、失せ物探しではないけど似たような術でいいじゃない。
先生を待っている間に座らせてもらったソファのそばで、マジックバッグに手をいれてぐるっと探す。1つ目、いつもの元気なミイラの手。これではないのでしまう。2つ目、もっかいミイラの手。もっかいしまう。3つ目、端の方がさびている手鏡。これよこれ。
手鏡の中を覗き込んで、ンンと喉の調子を確認。書類を持ってきた金柑頭先生と目が合って、散らかさないでほしいとげんなりしているところに目線で詫びる。
「鏡よ、鏡よ、この部屋のどこに私あての手紙があるかしら」
魔女であれば大体使えるようになる、鏡に向かって問いかける魔術だ。ヘオース学院では魔術を使える入学生の大半が受講する人気授業で、習得難易度もそうだけど、3コマだけ授業を受ければ4単位もらえるというのも人気の理由だとか。
鏡は答える。探している封筒は、どうやら決裁済みの書類の山に埋没しているらしい。どんどん書類をその辺に除けて、目的の封筒を回収することができた。
「封筒見つかったから帰るね! じゃっ」
「待て! 片づけていきなさい!」
止めようとした金柑頭先生を振り切り、窓から退散して私の部屋まで空間転移。ちょっとベッドから浮いた位置だったので、そのままベッドに座れるように落ちる。
執務室からもらってきた封筒を開封して、日程と会場を確認。
「現地時間3月13日、ポーラ王国連邦レムリウス王国トルヴィル領ヴァルトユーデル、いちばん大きい宿……って明日じゃん」
知らない地名だな。
それに若干の時差があるけれど、私の実家と会都なら大体日付は同じ。そして今日は3月12日なので、明日である。いざとなったら会都のグリューネ教会で道案内を頼めば大丈夫なはずだ。
すきっ腹のままで眠る趣味はないけれど、しばらくはローグに準備をしてもらうこともできない。私は仕方なしに、適当なビスケットをかじっておいた。
翌朝。会都のグリューネ教会前まで空間転移で移動して、道案内の依頼を出すために窓口へ向かう。
「依頼を出したいのだけど」
依頼を出すためにはそれなりに身分証明が必要なので、魔女魔術師の互助会員であることを示す紫水晶のブローチを提示する。窓口のギルド職員は即座に、「今お貸しできるアトリエはありません」と返してきた。
「御互助会の皆様がこぞってアトリエを借り上げていますので、向こう2週まで予約が入っています」
「道案内を頼みたいのよ。ヴァルトユーデルまで」
「そうでしたか」
どうやら、みな同じようにブローチを提示してアトリエを借りたらしい。いつも閑古鳥の鳴いているあのアトリエも、借り手がいたのか持ち主が帰ってきたのか。
窓口に差し出されるトレーに、よくわからないままに夕食の残りのビスケットを置く。トレーが引っ込んだと思ったら、代わりに依頼発注のための紙面が渡された。
目的地はヴァルトユーデルでいちばん大きい宿。可能なら女性の冒険者に案内を頼みたいと書き込む。依頼の手数料と達成報酬は口座から引き落としてと頼めば、ちょっと面倒臭そうに窓口のギルド職員は奥に引っ込んでいった。
しばらくして依頼を受けた下半身が蛇の冒険者と引き合わせてもらい、グリューネ教会の隣から出発するヴァルトユーデルとの巡回便に乗り込む。
馬の下半身を持つヒトが荷台を牽引する、かっぽかっぽという和やかな音が穏やかな眠気を誘う。会話をしていないと寝落ちてしまいそうだ。
「すぐ隣から車が出てるのに道案内を頼むなんて、世間知らずかい?」
「ここ最近はゴーレムに雑事を頼んでいるから、場所を調べるのもおっくうになっちゃったのよ」
「そのゴーレムは?」
「修理中」
会都の外周側、今は放牧地として活用されている小麦畑を眺めながらヴァルトユーデルへと進む。いいんだけど、こっちってでっかい沼地じゃなかったかしら。
というのも、昔殿下とこの辺りに来た時に殿下が転んじゃって、もうちょっと無邪気だった私は泥遊びだと思って沼に飛び込んだのよね。その時に何かあった気がしないでもないけど……風邪をひいたことくらいしかわからないわ。
「通行税の支払いをお願いします」
「つうこうぜい」
「ヴァルトユーデルは特区だから、出入りに金がかかるんだよ。手持ちは?」
「あ、あるわよ。はい」
ヴァルトユーデルの役人だろうヒトに通行税の支払いを求められ、適当な金額を渡す。役人は怪訝そうな顔をして、1年分と書かれた滞在許可書を2つ持ってきた。
「大変申し訳ないのですが、おつりの用意がありませんので、街を出る前にご連絡ください」
「言い直すよ、アンタ間違いなく世間知らずだよ」
「あらそう」
知ってるわよ、そんなこと。




