40 タスクの整頓をしよう!
ひとまずは設計──建物の設計でもあるし、土地のデザインとしての設計でもある──の見積もり依頼だけ済ませ、グリフォン馬車で来た4人を見送る。
先生はお昼前に出現した誰だかに関して方々に連絡をするそうで、私やローグとともにグリフォン馬車を見送ってから会都に飛ぶ手筈となった。
(魔術で飛ぶというのは置いといて、)先生もヒトの姿の時は当然羽根は生えていないけど、翼がある形に変身できる。そう、グリフォンである。それもなんと、馬車を引いていた個体とは数倍の大きさで、頭と翼はぴょこと兎の耳みたいな羽根のあるフクロウに、体は黒色の豹に似た姿だ。グリフォンて、なんなんだろう。
私は先生に、近日中にスペアボディの設計書を送る約束をする。グリフォン姿なので魔術で羽を震わせて言葉を発する先生は、普段の早口に比べていくらか喋りにくそうだ。
『この姿だと、言葉を交わしにくいので嫌いなんですけどね』
「私はカスタネット語にも対応してますよ」
『あれは、クチバシが傷むので、嫌いです。まだ四足歩行草食動物語の方が』
「それがですね、フタハシ語って踏み鳴らしでも使えるのでヨツクサ語との関連もあって、いくつかのフタハシ語の単語がヨツクサ語にも借用語として入っているんです。そのあたりの論文は学院の図書室の言語棚にあるんですけど」
『あ、聞きたいわけではないので。その辺で』
伸びをするようにあちこちを動かして、首をぐるぐると回す先生。私とローグが見つめているばっかりに「信仰は、大歓迎です」と言いつつ翼を広げた。
翼が風を捕まえて、吹き飛ばされそうなほどの勢いで動く。いくらか浮いたところで億劫そうに魔術が使われ、軽量化がなったなと思ってすぐに先生は空高く舞い上がっていった。
何度か大型の生き物が飛ぶのを見た私と違い、踏ん張りが足らなかったローグがひっくり返っている。たとい力が足りないとしても、と礼儀として手を差し伸べれば、ローグは心底助かったように手を取って立ち上がった。
「ローグ、やらないといけないことの整理をお願いしてもいい? できれば、紙にまとめてもらえると助かるのだけど」
「口頭で確認ののち紙に起こしましょう」
庭を片づけて、ローグの手を取ったまま家に戻る。キッチンは散らかったままだけど、それは何なら晩御飯の後に片づけてもらおう。
我が実家に戻り、私はいったん本を取りに部屋に戻る。ちょっとだけある窓のほかは全部の壁を本棚にしているから、そして何ならベッドと衣装ダンス以外の全部が本の置き場所になっているから、目当ての本を探してからリビングに戻るとキッチンはきれいに片付いていた。結構時間がかかっちゃったかも。
テーブルにつくなり、ローグがお茶を出してくれる。放っておくと給仕を優先しそうだったので、座るように促してやらないといけないことを口頭で上げていく。
「まず、先生の依頼が2件。先生に言われた契約を殿下に相談したいし、神殿大工団との話はどうなったんだっけ」
「設計のみ見積もりの依頼をして、本契約はこれからです。見積もりは設計の下書きと併せてお送りいただけるとのことで、お2人共本契約は見積もり後にと」
「そっかー」
あとは水を流す手続きを殿下に頼むでしょ、できれば近日中に論文を書いておきたいし、なじみの相手から糸を買いに出かけたいし、このアトリエ宛てに要望書が来ていれば対応しないといけないし、そろそろ税金の支払い時期になるから経理仕事もある。
「では、アウロラ様の依頼1、アウロラ様の依頼2、アウロラ様との契約に関する相談、建築に関する見積書が届き次第の契約、建築関連で頭金の準備、河川に関する手続き、糸の調達、要望書の確認及び対応、税金の支払い。私からは魔石の競売をお願いしたく。それと、論文は……」
「ローグが見た中で急ぎ出しておいた方がいいのがあれば全部上げて。すぐできるやつと基礎理論の論文から書かないといけないやつに分けて順序を決めるから」
「では、まずは北の地での弓の制御に関する魔術、スープを兎型にして跳ばす魔術、布に刺繍されていた文字に関してから選んでいただけると」
「あと商品に縫い付ける用のタグ作んないと。アレ革をなめすところからだから結構大変なのよね」
自分で仕留めた魔物でなくてもいいのは幸いだけど、枚数がないと仕事にならないうえになめしからやった方が裁断を考えられていい。
「優先順位としては……まずは要望書の対応、ついで税金に関してかと」
「それもそうね。じゃあ、要望書持ってくるから、ローグは殿下あてのアポイント準備しておいて」
「かしこまりました」
殿下にアポイントを取るのは、私が処々相談する先が現在殿下しかいないことが理由。おねーちゃんは全体的に暴力で解決するタイプだし、お父さんお母さんおじいちゃんアルマちゃんは相談しても活用できないことが多いからだ。
要望書の入った箱を抱えて戻り、兄弟経由で予定伺い中だというローグと共に要望書を仕分ける。いつものお客さんからのばっかりだったので、明日それぞれに返答をして店に来るよう案内しないと。
晩御飯はありもので適当に対応してもらい、ローグを店に送ってから私は自分の部屋のベッドへ。サイドテーブルには取ってきたものの読んでいる暇がなかった本が置いてあるので、光を増幅する魔術──これも論文を書かないといけないかもしれない──で月光を頼りに寝ながら読む。
読んでいるのは『超解説・ゴーレムのつくり方』といううさん臭い本だ。自分で作ろうとしていた時にもこれを参考にしていたのよね。
「えーと、ヌンキの革に魔人族の細胞、巨人系魔物の骨、はまあいいか。極東で捧げられた植物……ってなんだろ」
くあー、とあくびが出る。ベッドに転がる前に、シャワーを浴びておけばよかった……。
ぱち、と目が覚める。朝だ、気持ちのいい朝。
読みかけだった本はしわくちゃになってしまった。何とかしわを伸ばし、閉じておく。階下のローグを見に行くとしよう。
店は開店準備が終わっていて、あとは営業状況の表示をひっくり返すだけになっていた。営業表示をひっくり返して開店を示し、飛ばせる分の要望書の回答から空に飛ばしていく。といっても、ひと抱え分くらいは飛ばせないけど。
「すべて魔術で送らないのですか?」
「送ってもいいんだけど、名前しか書いてのに“その名前のヒトこの辺の地域3人いるよ”みたいな。誰だかわかんないんだよね」
「……そうですね、写しを付けてヒトに託した方がよさそうです」
魔物のスライム──魔人族と比べると水っぽくてべちゃっとしている──が這いまわった跡、と言いたくなるような要望書もある。お母さんは慣れたもので、そのヒトが要望しそうなものをまとめてあるからできてるってことにして連絡していたようだ。
ちなみに私、アルヴィの名はわりといた。私のお母さん世代のヒトに多い名前なんだけど、逆に私より若いヒトで同じ名前のヒトはほぼ見ない。殿下に言うと笑顔でごまかされるけど。
作業ながらで朝ごはん替わりのビスケットをかじり、帳簿を引っ張り出してローグに読んでもらう。1年分で紐とじ1冊と少し、数字と文字が好き放題並んでいるので、開いてすぐにローグに押し付けた。
「ローグ読んで」
「店長、まさか読めないのですか?」
「こういう数字が並んでるやつって、眠くなるのよね」
正直に言う。既に眠い。魔女魔術師とは文系の生き物なので、数字の羅列は苦手なヒトが多い傾向にあるのだ。
……お父さんは実家がお店だから基本的な計算や割引が分かるし、お母さんは慣れだって言ってたけど。
まあ、ローグに任せたことでアウロラ様からの依頼1もとい首を乗せるための台座ゴーレムについてはおよその設計ができた。私の判断は間違ってなかったなと思った。
台座ゴーレムの設計の端に必要そうな素材も書きつけて、素材の珍しさをもとに見積もりをするようローグに頼む。手元にない素材は先生が用意してくれるのか、私が用意するのかで金額が変わるから、全部私が用意する前提で、と。
「店長、アポイントメントが取れました。明日は終日第2城にいるため、いつ来てもいいそうです」
「ありがと。見積もりはできた?」
「できましたが、素材のいくつかが時価ですので本当に概算になりました」
「いいんじゃない? じゃそれここに書いて」
設計などを書きつけた紙に見積額を書いてもらい、『素材を渡してくれるなら値下げします』と追記して、通り名を含む形で署名をする。鳥の形に折ったら、いつも通り小物輸送と窓から飛ばした。




