37 先生のやっかいな依頼
※軽度の痛い表現があります。そういうのがちょっとも駄目なヒトは次回更新の前書きにあらすじを入れておくつもりなので、ブラウザバック等をお願いします。
※表現の参考:怪我、戦争または戦闘、欠損関連
朝日が窓から差し込む。学生時代に課題で作った振り子時計が、ピョロロと目覚ましの音を立てながら日時を伝えてくる。
『本日は八神暦 4519年 3月 昼の日です』
約半月振りの実家のベッドからずりおちた感触。反動をつけて起き上がり、時計の側面を叩いて設定を変更する。
『本日は八神暦 4519年 3月 10日 ただいまの 時刻は 10時 5分 です』
よし。ローグが時間を把握しているとはいえ、私も時間を気にする必要があるからね。
というのも、昨夜連絡を取ったら先生は今日の昼頃にこちらに来ると返事をした。大抵の場合先生は遅刻してくるので、昼頃って言われたら夕方位を見ておかないといけない。
「ローグ、おはよー」
「おはようございます、店長」
「おはようございます。ローグ、お代わりを」
「……ンぁ?!」
もう来てやがる。今日の先生は魔眼封じの効果が付与された丸眼鏡に、藍色ベースに刺繍がされた漢服と暗い色のパンツでキメている。普段は下ろしたままの髪はゆるくみつあみにされていて、寸足らずの黒い皮手袋で日刊おもてなしをめくっている姿はどこの裏稼業って感じ。
先生はずり落ちていた魔眼封じの位置を正すと、封印発動により黒く見える目で私の方をにらみつけてくる。
「アルヴィ。私室から出る以上、着替え位はしてきなさい」
「はーい」
言われるがままに、すごすごと部屋に戻る。
着替えをしてから、いやおかしいと思い返して戻る。リビングには困惑した様子のローグと、我が物顔で私の分だろうブランチを前にくつろぐ先生の姿が。
「いやどうやって入ったの?!」
「ローグに開けさせました」
「ローグ開けたの?!」
「ローグは私の子のようなものですから、扉の一つ二つ開けてしかるべきでしょう」
「ヒトの家に黙って居るのは基本不法侵入なのよ。そもそも、私が買ったもの勝手に食べないでよ。高いわよ」
「以前、私の視線を一時間独占する権利が2京トーカで売れましたが?」
「それよりかはたぶん安いけどさあ」
先生に不満をぶつけるも、軽く流されてしまった。
仕方なく、空いている椅子に座って私の分をローグに頼む。今日の分はミルク粥で、ふんわりと甘くておいしい。
「ってか先生早くない?」
「本来でしたら設計士と測量手を案内するついでに来るつもりでしたが、測量手からストーキングを受けていまして」
「うわあ」
だからそんなうさん臭い恰好をしてまで魔眼を封じているわけか。いや、魔眼封じに合わせてこの服装なのか。
「大変だねえ、魅了の魔眼だっけ」
先生は1メートルも歩けば不審者を製造するので、そういう魔眼を持っていると見込んでいる。いや、外見が、芳香が、声がすべて周囲のノーを焼くらしいので、魔眼だけではないんだろうけど。
「いいえ、洗脳ですね。父曰く、私とあと二人ほど“他者が傅く”が設計コンセプトの個体がいますので」
「それ私が聞いていいの?」
「いいんじゃないですかね、知りませんけど」
暴言と併せ、速やかに忘れておこう。
ミルク粥1杯ではちょっと物足りない空腹に新鮮味を感じながら、ちょっと投げやりな先生に改めて早めに来た理由を聞く。
「でもさあ、それだけだったら早く来ないでしょ。なんかあったの」
「ええ。希代の魔女“ポーラいち有名なアルヴィ”に、いくつかの依頼と取引を持ち込みに」
「それじゃあ、ローグが開けても仕方ないか」
あくまでも客(候補)が相手なら、丁重に扱うための場所提供ぐらいはまあ、大目に見てあげよう。
食器を片づけたテーブルに、依頼の内容を書きとるためのノートを置く。ローグにお茶を出してもらい、12時を過ぎたら声をかけてほしいと私の部屋で待機するよう指示をした。
「それで、依頼って? またあの、“冠を支えるもの”さんみたいなやつじゃないよね?」
その方の依頼内容は『新しい神話の創造及び神の鋳造』ってありました。秒で暖炉の焚きつけにしたわ。そもそも連絡先が書いてないのにどうせいっちゅうねん。
「あのクソしか名乗らないだろうペンネームですね、たぶん違うと思いますよ」
「知り合い? あの内容は無理だって伝えておいてもらえない?」
「あッ無理です、二度と口ききたくないので」
話がそれた。改めて依頼の内容を話すよう、先生をつつく。
「依頼というのは2つありまして。1つは私とほぼ同じゴーレムの製造です」
「何に使うの? 鏡の代わり?」
「あなたも信頼しているエイベルさんの占い。あれで私があと60年前後で“首を落とされる”と出ました」
「へえ」
エイベルと言えば、私の欲しいモノがあと100年以内に手に入るって占ってくれたあの。
あのヒトのやる占いって、どのやり方でも誤差2年くらいで事象そのものは確実に読み取るのよね。なら、先生は最大62年で死ぬ、と。
「アルヴィ、あなたの考えていることはわかります。首が落ちるというだけで、死ぬことは確定していませんよ」
「先生。普通ヒトは頭か心臓が取れたら死ぬんだよ」
極東の人種にはヒトゥバンとかいう首だけ飛ばせるヒトもいるらしいが、それは例外だ。
「残念ですが、私はヒトではなく魔神、それも色付きなので」
色なしの魔神もいるのか、と聞きたいのをぐっとこらえる。そこに逸れたら依頼の話が終わらなくなるだろう、と。
「それで、ゴーレムのつくり方が分かんなくって先生に泣きついちゃうような私に、どうやってゴーレムを作れって?」
「何も自立駆動をするものを作れとは言っていません。切り離した首を乗せる、台座としてのゴーレムを製造していただきたく」
「んー、義手とか義足の延長線上にあるものとして、首から下のゴーレムが欲しいってこと?」
「その通りです。どうしても私では、性癖上首の欠けたゴーレムを製造することはできず」
義手や義足なら、ずっと前におじいちゃんのところに遊びに行ったとき、どうしてもって頼まれていくつか作ったことがある。
あの地域では、おじいちゃんが若かった頃はあの辺りの領主様と隣の領主様が1人の女性を巡って紛争があったというから、現在も傷痍兵がごろごろしているのだ。
もちろん専門の技術屋さんもいるが、大多数を占める只人や体型バランスの近い洞人の分を対応するだけでも余裕がなくなる。そんな中でヒレを再現しないといけない鱗人や足先が欠けてしまった兎人などのものを作るなら、と私みたいな魔女にもお声がかかったってわけ。
思い出に意識が持っていかれそうなのをなんとか追い出して、走り書きで依頼されたモノの骨子と疑問をメモしていく。
「首を乗せたときに体は動いた方がいいよね?」
「日常生活を無理なく行える程度には」
「手先の器用さとか気になることある?」
「ドアノブを捻れるくらいに精密に動くと助かります」
「戦闘は?」
「ゴーレムの使用中は隠居します」
「飲食とか生命活動系は」
「使用中は生きながらえること以外は一切できない可能性も高いため、飲食の機能は最低限で」
「先生って大型のグリフォンに変身できるけど」
「そういったことはできなくていいです」
ふむふむ。
「じゃあシルエットは今と同じ感じ、重量バランスも今と同じ感じ、というか首をのっけただけで動く必要あり、結構精密に動く、飲食はほぼしない見込み、と言うのが希望ね」
「重量は軽くなってもかまいません。というか、重くしないでください」
「じゃ今度全身の採寸データ私にちょうだい。依頼を受けるかどうかの参考にするから」
「この場での判断は?」
「素材の見積もりもあるから無理。採寸データもらったらローグに試算してもらって、それから見積もりって感じよ」
細かい計算は苦手だから、こういう時は全部ローグに頼るに限る。
ノートに書きこんだものの最後に“ここまでで依頼1つめ!”と書いて、ページの残りを斜線で締める。
「じゃ、もう1つの依頼について聞いていい?」
「事前に首を切り離しておきたいので、切り離しても飲食等に齟齬が出ないような魔術はありますか?」
「……先生が知らないんだったら開発しないといけないでしょ」
「やはりそうですか。作ってください」
私は口から飛び出しそうになった罵詈雑言をぐっとこらえて、これはまだましな部類と唱えながら詳しい内容を聞くのだった。




