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29 伴侶

今回はアルヴィ視点→ローグ視点→おまけでちょっとだけ別視点です。

 つややかな黒髪に陶器のような白い肌、そして髪に近い黒色の布地で仕立てられた長袖のシュミーズドレス。ドレスは首回りや袖に同じ色のレースが取り入れられていて、所々きらきらしているのは何かしら宝石がついているらしい。

 そして足元は私なら小鹿みたいになるだろうヒールのパンプス。これも黒で足の甲を覆うようにレースが入っている。手袋もレースだから、ひと揃いのセットなんだろう。

 かろうじて、ものすごくかろうじてお金持ちの平民のお嬢様と言い張れなくもない姿だ。角を隠していないのと、全長概算2メートルあること以外は。


「あら」


 入店した私たちに気付いて、殿下が振り返る。扇で顔を隠しているけど、美人、いや美人だからこそごまかしきれない何かがある。


「なにしてるので「しっ」もごご」


 殿下に声をかけようと思ったが、昨日のロイリ良品店なんか比べ物にならない床面積の小さい店舗だけあって、2歩もしないで口をふさがれてしまった。


デボラお嬢様(・・・・・・)、お知り合いで?」

「ええまあ。待ち合わせの相手が来ましたから、わたくしはこれで失礼しますわ」


 殿下の陰に隠れていた、店のヒトと話をしていた従者に言われて殿下は私たちと共に店を出た。そして、店の裏手に止めてあるお忍び用の箱馬車まで連行された。

 お忍び用だけあって大きさは殿下の乗る中では小さめで2頭立て。しかし軽量化と防音の魔術が施されているなあと眺めつつ馬車に押し込まれ、ローグも困惑しながら私の右隣へ。私の正面に殿下が座り、「声をかけるまでこの街を走らせて頂戴」と扉が閉められた。


「殿下だよね?」


 デボラお嬢様、なんて言われていたので、他の魔人のどなたかと殿下を間違えちゃったかな~と思いながら顔色を伺う。扇を下ろした顔は化粧が施されているものの、見慣れた殿下の顔であることは間違いない。

 結果、殿下(仮)からは大きいため息だけ返答がもらえた。


「殿下女装趣味あったっけ?」

「馬鹿者」

「いたいです」


 ぶに、と頬がつままれる。よく見たらマニキュアもしっかり塗られている、女装にかける意気込みが違いそうだ。


「今は会議城で連邦の共同会議が開かれているのはわかっているな?」

「すごくいたいです」

「共同会議には当然各国の首長が出席し、私も出席しなければならないのはわかっているか?」

「とってもいたいです」

「わざわざ変装してまで駆け付けた私に言うことはほかにないのか?」

「保護者って殿下だったの?!」


 確かにお母さんおねーちゃんお父さんは難しいだろうけど、なぜ殿下なのか。この謎を解くべく私はマリアベルおばさまのもとに向かおう。

 馬車の扉に手を添えたところで、はーーーーーー……くらいの長い溜息を殿下が吐く。開いていた扇を手のひらに打ち付けてぺしゃと閉じ、ローグの方へ視線を投げかけた。


「ダブリュス、隣に」

「はい」

「アルヴィ、合図をするまで私とダブリュスの話を聞かないように」

「わかったわ」


 動く馬車の中、ローグは揺れに気を付けながら殿下の隣に移動する。2人が顔を寄せていると、(ローグ)は美形(殿下)は美人って感じでめちゃめちゃ視界が華やかだ。

 視線に気づいてか、殿下が扇を開きなおして口元を隠す。ローグはその気になれば口を動かさずに声を出せると聞いているから、なるたけ自然に殿下を見て……。



 店長の伴侶に呼ばれ、動く馬車の中を移動して隣に座る。

 扉の小窓はカーテンがかけられているが、振動感知が走っている状態だと判別しているため、時速10キロ強と判断。数度瞬きをして運動状態を騎乗状態/乗車状態に変更し、視覚センサが細かく無彩色(グレースケール)有彩色(カラー)に切り替わり続ける状態を終了させる。


「どういったご用件でしょうか?」


 そう隣の人物に問うと、店長の視線を遮るように扇を広げる。店長はそれに肩をすくめて風属性の遮音魔術を使ったが、扇は口元に寄せられるだけだった。


「アルヴィの保護者として様子を見にきたのだが、あれだけ色が異なると心配が増してきてな。出歩いても問題はないのだろうな?」

「店頭には立たないようにと言われていますが、店長のお知り合いであるマリアベル様より問題はないと言われました」

「グリワワの女主人が保証してくれたならよいか。……よかった」


 心底安心した様子で、扇も下ろし表情が緩む。……機会があれば出力できるよう画と映像を保存、店長を動かすのに使えそうだ。


「よければ、店長の髪色が大幅に変化した理由を教えてください」


 斜め向かいに座る店長は、冬の地で洞窟にいたときには黒の髪に緑と青のぶち(・・)が入っていた。しかし今や孔雀のような鮮やかな緑と青の髪色で、根本がいくらか暗い色をしている程度。この際だからと相貌認証用の顔を蒐集すれば、左右で違う赤茶の虹彩に緑色が星のように散っていた。


「そうだな。どうあがいても、私よりお前の方がアルヴィと共にいる時間が長くなるだろう。そういったことにも興味を示すか」

「ご両名の関係を壊したいわけではなく、今後の類似現象を納得するための理屈を理解したいのです」

「そ、そうか」


 『人格設定後のトラブルシューティング』作成ゴーレム基本権利保護主張部の皆様ありがとう。適度な言い訳と誤解を避けることができます。


「魔術についての基礎教養はどの程度ある?」

「使用者自身の魔力と、外の魔力を混合燃料として魔術を行使すること、音・記述・思念いずれにせよ魔術を描かなければ魔術は使えないこと、特に魔術と付随技術を得意とするものを魔女ないし魔術師と称すること、およそ12属性に分けて考えることができることです」

「よろしい。前提として、アルヴィは自身の魔力と外の魔力の混合比率が3対1だ」

「なんですそれ」


 いけない、御者台の兄弟機から干渉された。通信機能を遮断……失敗。


「通常であれば1対1か、自身の魔力が少なくなるように魔術を行使するでしょう。それに、であればあの規模の魔術は行使できない」


 洞窟で見た、大量の水を召喚ないし津波を起こす魔術。もし先の比率で魔力を使うのであれば、彼女の持つ魔力は無尽蔵といっていい量になる。

 ふと視線を上げる。何か気まずそうな顔をした相手の相貌を認識し、データベースおよび兄弟機より掠めた情報から結論を出力する。


「あなたは魔人族で間違いないか」

「ああ」

「であれば、」

「“伴侶への愛”は、アルヴィにむかっている」


 魔人族。八神の創世記により造られた種。彼らは強力な命であり、八神に星の運営を委託された種。あまりに強力ゆえに神々がいくつもの法により縛られなければならなくなった、信心深き種。

 その中のひとつ、魔人族は星にたったひとりの伴侶がなければ死ぬこと。それも幼年期である10年程度の期間で、ひと抱えのスライム(生まれたままの姿)であるうちに伴侶を発見しなければ細胞の再構成ができず崩壊して死にいたるという。

 目の前の魔人は、店長が伴侶であると言った。それも、おそろしくいとおしそうに。

 と、横顔でも眉間のしわが寄っていることに気付いた。彼の視線は店長に向かっている。

 

「……アルヴィ」


 店長は自慢げに、両手でハートの形を作っている。

 隣で扉をたたくような動作で合図すれば遮音魔術は解除され、店長は不思議そうに首をかしげる。


「アルヴィ、聞くなと言ったろう」

「言われたとーりにしてたわよ。ただほら、殿下の口元を見てたら“愛”っていうのが読めたから?」

「読唇術ですか」

「わかった、私とダブリュスの会話中は何もしないでくれ」

「息もするなってこと?!」

「違う、曲解するな! おとなしく座っていろ!」

「はあい」


 言葉だけなら怒ったように聞こえるが、どうやら心配と恥じらいが入り混じっているらしい。

 店長の気のない返答に、再度合図を待てと隣の彼は言い扇でしっかりと口元を隠す。店長は遮音魔術を使うそぶりが見られないので、口元だけでも隠そうということか。


「……そういうわけだ、アルヴィには、私が側にいることができない代わりに私の魔力が常時半分送られている」

「ええ、そのようで」


 魔人族の“伴侶への愛”。それは魔人族に比べて弱い伴侶を守るために、魔力の半分程度が常時伴侶へ送られているということ。

 伴侶の事故死を防ぐためであり、誘拐をはじめとした他者を理由とする離別に抵抗するための力を魔人族は送り続けている。常に魔力が半量である前提で生きる魔人族は、魔力の受け皿である伴侶が死ねば、行き場のなくなった魔力ゆえに結晶化して死ぬことが殆どだという。


「アルヴィの髪色が変化している理由のひとつは、この“伴侶への愛”に他ならない。ただ、緑色が強い理由はわからないがな」

「ありがとうございます」

「……アルヴィが店に立っている間はなるべく顔を出す。あの通りの性格だからな、接客業務はダブリュスが積極的に対応してくれると助かる」

「もしよければ、今後はなんとお呼びすれば?」

「ああ。女装しているときはデボラで頼む。もし抜け出していることが誰かの耳に入ると面倒なのでな」


 なんでも、会議を抜け出すために女装する必要があるのだとか。地位のある者は大変だな、と他人事のように私は思った。



 そのころ、会議城にて。

 ポーラ王国連邦が加盟国に対する予算配分について周知するため、予算議会という名目の決定事項周知が行われていた。

 会議の長として出席するのはこの国の王、フロー・ヴィング・バーレイグ・トルヴィル・レムリウス。その傍には近衛らしき者が立ち、こまめに紅茶を継ぎ足している。

 その、魔術により王のふりをして上座に座っているのは、近衛兼王の側近であるルヴィトだった。

 外見は自身の魔術で幻影を映し、声は誤認させる魔術でだましている。予算周知の書面ひとつひとつに王のサインがある故にごまかされてくれているが、出席者の中には気づいている者もいるだろう。

 ま、気付いている者からすれば「ああ、当代もやるんだこういうの」くらいである。

 会議は進む。すべての国の代表者が顔を合わせたうえで。

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