27 親戚の友達は私の友達
先生を見送ってすぐ。
アルマちゃんの古い友達、つまりは私の知り合いに宛てて手紙を飛ばす。すぐに返信が飛んできて、私はローグに今日中の出立を連絡する。
「えー、もっとゆっくりしませんか?」
「明日から使うって連絡しちゃったし今日行って下見したい!!」
「まったくもう」
口では嫌がりつつも、ローグは店に出そうとしていたものをまとめて――私の下げているマジックバッグに――収納し、じとっとした目でこちらをうかがう。
「で、どうやって、どちらまで?」
「そりゃもう、空間転移で、パラ何とかって国に?」
ローグの手を取って座標を指定、ここから南に少し、西にしばらく、地上から……山2つ分くらい上!
ばひゅんと飛んでちょっと浮いて、ローグの悲鳴。この辺りの地域はガルヴィニアに比べて山が多いので、ちょっと高すぎたようだ。
短距離に下方向で空間転移を繰り返し、いつも通りの空中制止で地面近くに止まる。がローグは私の腕には重かったので、そのまま地面に落ちた。
到着したのは山のふもとにある避暑地、リャポワスターン。パラ何とかって国でも大きい街で、クロスランドとの国境にある。
「……今日も蛇がのたうってるねえ」
この街の特徴のひとつが、道は私道も含めてすべて灰色のレンガ敷きってところ。ついでに言うと、クロスランドとの国境線に使われているのは赤いレンガ。
そして、この赤いレンガがまあ動く動く。夜中にクロスランド兵がやってきて子供をさらっていく、なんて逸話もあるくらいだから、クロスランドが動かしているのは間違いないだろう。
そんな赤いレンガから少し離れ、街の大通り。この街でも有数の大きなお店が今日の目的地だ。
「こんにちわー、マリアベルおばさまいらっしゃいますかー?」
ローグを引きずったまま、お店の扉を開く。吹き抜けの天井には大きいシャンデリアが下がっていて、シャンデリアに書き込まれた魔術が影のできにくい光を店中にもたらしている。
パッと見た感じ、お店には2,3組のお客さんが入っていて、案内の従業員さんが商品の案内や要望の聞き取りをしながら買い物をしている。このお店は地上階が飾り物の武器と魔石、真ん中の階が服飾や簡単なアクセサリー、上の階がカフェになっていて、上に行けば行くほど売り場面積が狭く、吹き抜けから全体が見える構造なのだ。
私のところには知らない従業員さんがすすっと寄ってきて、ローグを引きずっているせいかちょっと顔に青筋が浮いていた。
「ようこそ、ロイリ良品店へ。紹介状はお持ちですか?」
「初めまして。シンフィのおばさまと約束があるのだけど」
シャンデリアはおばさまに依頼されて私が設計したのだけど、その時の要望が「魔石の交換頻度が少なめで、影が落ちにくい光を2つ上の階から地上階まで届けることができて、しかし近くでもまぶしくない、遠隔で点灯と消灯ができる、そこまで重たくない」と結構はっきりしていたのが懐かしい。
「お客様。当店は紹介制となっております。申し訳ありませんが、外で詳しくお伺いしますので」
「シンフィのおばさまには直接上の階に行くように聞いているんですが」
この従業員さん力強いな、丁寧な物腰と表情のまま店の外に追い出されそうだ。
どうしようかなーと考えていたら、カフェの方から聞きなじみのある声。吹き抜けを生かした大階段を軽やかに降りてきたのは、マリアベルおばさまだ。
「まあ、アルヴィさん。お待ちしておりましたわ」
「マリアベルおばさまは元気そうで何よりです。急に連絡したから驚かせちゃったかな」
「そんなことはありませんわ。さ、上でゆっくり話しましょう?」
マリアベルおばさま――本名マリアベル・シンフィ・グリワワ――はアルマちゃんの古い友達で、かつてはアルマちゃんと同じところで仕事をしていたと聞いている。
見かけは物腰柔らかな白髪の老年女性だけど、その実ロイリ良品店の先代大旦那様の奥様! 現在は飲食系の目利きをしているとかで、上の階にあるカフェはマリアベルおばさまが責任者だと聞いている。
「大奥様、そちらの方は?」
「この子は、私のお客様です。他のお客様にお困りのことがないか聞いてくださいね」
さすがにローグをぶら下げて引いているのも彼に悪いので、私について歩いてくるように言ってマリアベルおばさまの隣へ。
「シャンデリアの調子どう? 昇降機能が壊れたらいつでも連絡してね」
「今日も明るくて助かっていますよ。天井にぶつかるまで上がっていくのは困ったところですけど」
「店長、ご紹介いただいても?」
「ごめんごめん、こっちは私が店員として雇ったローグ。彼女はマリアベルおばさま、アルマちゃん……私のおばあちゃんの友達だよ」
「私からすると、アルヴィさんは親友のお孫さん、です。店員と言うことは、アルヴィさん」
「そう! 私のアトリエも建築することになったの!」
きゃー、言っちゃった言っちゃった! おっといけない、ここはお上品な店だから声を落とさないと。
「でも、建築予算が足りないと困るから、しばらくの間お店に物を置かせてもらいたくて」
「そうすると、もっと隣町に近い店舗が適しているかもしれませんね。持ってきていただいた商品を確認する間、新しく仕入れたお紅茶を味見していただけると嬉しいのだけど、どうかしら?」
「マリアベルおばさまのお眼鏡にかかった茶葉なのだから、ぜひお願いするわ」
おしゃべりしているうちに、上の階――カフェテラスに到着する。天窓とシャンデリアの両方が光を与えてくれるから、天井が近いけどすごく開放的で素敵な場所だ。
でもまあ、マリアベルおばさまとお茶を楽しむということは、
「アルヴィさん、しばらくお会いしないうちに姿勢が悪くなりましたわね。それに、言葉遣いも。そのままでは未来の旦那様にあきれられてしまいますよ」
「はい」
マナーレッスンをしながら座るということなのだけど。
私がマナーを守って紅茶を飲むのに悪戦苦闘している間、ローグに頼んでマリアベルおばさまには売りたいものを見てもらう。
月光のささやきの小型缶、希釈用10回分が入っている。専用の小さい匙、小型缶にかけてある魔術と併せて1回分が簡単に取れるようになっている。ファーストポーション2分の1、瓶はいつも借りているアトリエのあたりで集めたやつだから形がまちまちで、容量も通常サイズの半分程度。
「こちらの紅茶、さっぱりした香りですね。なんだか甘酸っぱい感じ? の味」
「美容によいという話のお紅茶ですの。少量を日に数回分けて嗜んでいただきたくて」
「……私に? これを?」
「アルヴィさん、もっと丁寧に」
「私、まめにお茶をする習慣がありませんから、ローグさんにご協力いただかないと」
「あら、従業員の方と聞いておりましたが、もしかして親しい方でしたか?」
「従者の真似事もお願いしているものですから、その中に侍女のするようなこともありますの。私、作業に熱中するとつい寝食を忘れてしまいますから、ローグさんには助けてもらってばかりですわ」
他には通常量のファーストポーション。先日のあまりで多めに持ってきた魔術札。そして実家のアトリエの広告。
アトリエの広告は大きい皮をきれいな長方形に切り出して、できる限りきれいな字で実家のアトリエについて紹介する絵や文章を入れている。ついでに、裏面に翻訳の魔術を仕込んで文章は各言語に対応してみた。
マリアベルおばさまの「ローグは恋人か愛人ですか?」という意図の質問を華麗にかわし、お茶うけに出されたクッキーを手に取る。ふと妙な香りを感じ、食べるふりをして袖に隠した。
「お持ちいただいた商品についてですが、いくつか取り扱いのできない物もありますね。それ以外であれば、店頭に立っていただけるのであれば場所をお貸ししましょう」
「ありがとうございます。……取り扱いのできない物とは?」
「こちらの月光のささやきと、小さな匙です。理由は大きく分けて2点、ひとつは希釈前の月光の囁きは冒険者にとって使用しづらいこと。もうひとつは販売に専門の許認可が必要ということです」
マリアベルおばさま曰く、ポーラ王国連邦で希釈前の月光の囁きを販売することは従業員と店にそれぞれ許認可が必要なんだとか。製造者の私が知らないうちにそんなデンジャラス商品になってたなんて。
「というか使いづらいの? 1回分を取り分けて、水でよく希釈するだけなのに」
「1回分が分かりにくいことと、使う直前に希釈しなければ質が落ちること、末端価格が100万トーカ程度と言うことが問題ですわ」
そういうことか。私も1回分が分かりにくいのは困るから、専用の匙を作れないかと試行錯誤してみたのだけど。希釈後の薬液が傷みやすいから、と言うのはあまり考えてなかったな。
「ところでマリアベルおばさま」
「なんでしょう?」
「私これ殿下に60万トーカで売ってるんだけど」
残りの40万トーカは何で発生しているんだろうか。マリアベルおばさまからは特にコメントを頂けなかった。




