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22 どどんがどっどーん!

今回の話には津波・溺死を想起させる描写があります。苦手な方はまた来月。











 焚火のそばに簡易の作業台とイスを取り出して、糸車では作れない糸の素材をほぐしていく。

 具体的には鳥類の羽から糸を作る。1枚の羽でも私の顔の長さより大きいからできることだ。


「ふんふんふーん」


 我流で作っているので、ごわついて肌着や服といった直接身に着けるものの素材にはならない。けれどとてつもなく軽いし撥水性が高いので、カバンや雨具には向いているというわけ。さらに羽軸――羽全体の中心にある硬い部分――はその辺の木より強度があるので、数がある時は矢の代わりに使ったり、傘の骨に使ったりしている。

 実際、私がマジックバッグを作るときは縦糸を私が作った魔力の糸で、横糸にこのグリフォンの羽糸や森でもらった糸を使って布を仕立てている。

 そう、実は私のマジックバッグは糸から布から手作りなのである。しかし、横糸に使用している糸は在庫が少なくなっているから、この空いた時間にちまちまぷちぷち作業をしている。


「む?」


 作業台に乗せている工具類がカタカタと音を立てている。台は手で揺らしてみてもがたつく様子がないので、空気かダンジョンそのものががたついているのだろう。

 そう思って迷宮の奥に顔を向ければ、遠くから走ってくる音。

 ちょっと待ってみると、走りなれていないだばだばスタイルのローグがこちらに向かってくるのが見える。だばだば走っている割に早い。

 そして、ローグをの後ろを走る通路いっぱいの巨人(魔物)。通路の高さが3~4メートルくらいだから、ロット嬢の125分の1くらいの体積がローグをいたぶるように追いかけて、いわゆる魔物の誘導(キャリー)という行動になっている。


「にげてくださーい!」


 だばだば、だばだば、声が届くようになったから叫んで、まただばだば。フォームを何とかすればもういくらか早く走れそうだなとローグの叫びを聞き流しつつ、通路の確認をする。

 巨人と私の間に通路の分岐はない、よろしい。地形は岩ないし氷、よろしい。奥に向かって緩やかな下り坂、大変よろしい。


「ええと、あの速度なら」


 私を抱えて逃げようとするローグを避けて、巨人を迎え撃つ準備。巨人が通過した通路に足踏みひとつで天井までの土壁をどどん、そして


「どどんがどっどーん!」


 私のまあまあとくいな魔術。それは濁流を思いっきり(なんかわからないけど)ぶつける()である。内容は簡単、会都の生活を支える貯水槽を壊したこともあるこの大質量の水を、ちょっとの魔力でどどんがどっどーんと召喚して勢いよく敵を押し流す。詠唱? ないない。どどんがどっどーん、以上だ。

 私の足元から発生した岩をも砕く大波(・・)を巨体でどかんどかんと思い切り受けた巨人は、波にもまれにもまれ通路の奥に押し流されていく。もちろん、土壁をどどんとしているのでぶつかるし、揺り戻しが来る前に通路のこちら側をふさぐようにもひとつ土壁を作れば私たちがおぼれる危険性もない。

 土壁をガラス質に作り変えて、巨人が溺れるまでを観察しながらティータイムを決め込む。

 テーブル(ちゃん)ティーポット(ちゃん)人数分の椅子(ちゃんと音を立て)ソーサー、そして(いつでもどこでも)ティーカップ(ティーセット)をマジックバッグから取り出して、使いさしの茶葉をティーポットにさらさらり。ローグは私に避けられたのがショックだったみたいだけど、向かいに座るよう促したらしぶしぶ座ってくれた。

 観賞魚ならぬ鑑賞巨人ががぼごぼと暴れるのを横目に、雑茶(雑に淹れた紅茶)をズーと飲む。おいしい。

 ローグは飲食も可能なので、雑茶に少しばかり口をつけてくれた。なんでも、水冷機構があるとか可動部の潤滑に使うとかなんとか。その辺は作り手ではないのでよくわからない。


「じゃ、あの巨人が死ぬまで待とうか」

「であれば、その間に初期設定の完了をお願いします」


 初期設定を、と促された私はあららと首をかしげる。巨人の刻むビートはここちよいペースになってきたが、まだまだ絶命までに時間がかかりそう。


「終わらせなかったっけ?」

「顔認証は完了していますが、呼称登録がされていません。現在、所有者であるあなた様のことは便宜的に“マスター”という名称で登録されています」

「登録について、私個人の名前を登録すればいいの? それとも呼ばれたい名前を登録すればいいの?」

「どちらも、です。もし各言語により個人名が変更される場合は、それぞれ登録いただけると幸いです」


 言語により個人名が変更……ああ、おじいちゃんがそうだと聞いている。戸籍には出生地の言語での氏名と、レムリウス王国語での氏名があるとかなんとか昔言っていた。


「私は苗字もないし、個人名はアルヴィで登録して。通り名は登録できる?」

「対応しています」

「じゃ“ポーラいち有名なアルヴィ”で。呼ばれたい名前は……」


 そうだなあ、ローグにはアトリエを構えたら店員業務を任せるつもりだから。


「環境や場所を問わず、基本的には店長と呼んでちょうだい」

「わかりました、店長。早速なんですが、あちらで暴れている巨人以外の魔物から獲得した素材があります。確認を」

「わかったわ。フェイルノート君の使い勝手はどうだった?」


 ローグに持たせていたただの(マジックじゃない)バッグをテーブルに向けてひっくり返し、魔術札(スクロール)の束とごちゃまぜになっている素材をより分ける。

 魔術札はマジックじゃないバッグに戻し、素材はその辺に浮かせて入れ代わり立ち代わり鑑定をして、結果をメモしてくっつけていく。魔石は大体右手の方に、それ以外は左手の方に、だ。


「弓とは思えない挙動をしていました。武器そのものの性能もよいですが、制御に使用されている魔術が素晴らしいのかと」

「あらそう? じゃあ、今度論文出さないとね」


 椅子からずっこけるローグ。無認可と言うか、未登録の魔術を使ったことに脱力しているらしい。

 いや、自分で使うにはなんとなーくできるんだけど、論文にして魔術として発表するなら平文化とか査読依頼とかしないといけなくて面倒くさい。査読を頼めるような相手も知り合いにいないし、先生は新しい魔術をおもちゃにする性格(タイプ)なので下手な内容は渡すと危険。だからこう、制度としてやった方がいいのは知っているけど、億劫だからやりたくない。


「店長、よろしければ消費魔力・効果について文字起こしを実施します。査読については査読資格を持つ兄弟機に声をかけましょうか?」

「ほんとー? 頼んでいい?」

「兄弟機も興味を示すと思います」

「なら頼んじゃおうかな。よろしくー」


 より分けたものを種類別に布袋へ入れ、口を締めて私のマジックバッグへ入れる。ちょっと浮力を感じたので、重量上限が近いようだ。

 手元の作業が落ち着いたので、巨人の方を振り返る。ガラスの向こう、巨人は溺れて窒息死したようで、背中側からきらきらとした粒子……魔物を構成していた魔力に分解されてダンジョンに吸い込まれていく。

 奥にある土壁を氷の魔術で破壊する。水はざあっとダンジョンの中を流れて進んでいき、量が多かったのか何度か素材を乗せた波がこちら側の壁まで返ってきた。

 水鉄砲の魔術をできるだけ細く細く勢いよくと指定して発動し、ガラス質の壁に私が通れるくらいの枠を切る。壁際に落ちていた素材をひょいひょいと拾い上げ、端からローグに渡しながら検分する。さっきローグから受け取ったのと合わせて持って帰れるかどうかの量があるので、ロット嬢へのお土産も作ることができそうだ。


「ローグ、素材が結構たまったからあっちに作った小屋で作業するよ。探索は……ローグが頑張ってくれたからとりあえず終了で」

「それはよかったです。死ぬかと思ったんですよ」

「いざとなったら私が直接行って何とかするから」

「店長、もっと死にそうな提案はご遠慮ください」


 そんなことないわよ、ちょっと魔物を竜巻に放り込むだけだもん。

 素材をすべて拾ったかな、と私は周囲を見渡す。と、通路の奥から波が魔石を転がしながら返ってくるのが見えた。


「あー、こういうときってドンブラコでいいんだっけ?」

「桃でも流れてきたのですか?」

「そうじゃないんだけど、結構大きい魔石が流れてきた」


 流れてきた魔石はヒトの頭くらいの大きさがある、やや角ばった玉のような形の魔石。どうやらさっきの巨人から採れた素材らしい。

 自分で持ち上げようとして持ち上がらず、ローグも持ち上げられなかったので、道を転がっていく前にと土壁の魔術を小規模に連発してプレハブまで運ぶ。マジックバッグに入れるにも、ほかの荷物を片づけないと無理そうだからだ。

 これだけ大きいと売却価格もそれなりになると思うのだけど……先生に売るのがよさそうね。なんだかんだ大量の魔石を必要とするはずだし。


「ローグは楽にしてて。でも朝昼晩とご飯の時間に声はかけて!」

「わかりました」


 つい忘れがちなことを、他人(ローグ)を時報の代わりにして対応する。

 素材は集まった、どんどんモノを作っていこう。

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