21 幕間:その頃勇者パーティにて
アダムスはもう、勇者の称号を放り投げて家に帰りたかった。
パーティの軍資金は底をつき。雇われ傭兵のルーシーとは雇用契約が終了した。斥候・テイマーの従魔たちは、小型のものを数匹残して彼女の実家に頭を下げて預かってもらった。今は宿代にもならない魔物の素材を集め、3人分の食糧を何とか確保するだけで精いっぱいだ。
野営の知識があったのは救いだったのか、アダムス達はダンジョンにほど近い森の中に布を垂らしただけのテントで生活していた。
現在攻略を進めているダンジョンはそこそこにぎわっており、当然ながら奥に行くほど高額のアイテムが手に入る。宝箱はほとんど残っておらず、残っていたとしても宝箱に擬態した魔物ばかり。
自分で身の回りの費用を稼いでいるウーシャを入れても4人。勇者、従魔師、回復術師に、指示を無視する魔法使い。今だウーシャがパーティにいるのは彼女が獣人ながらアダムスに惚れているのだろう。……しばらく前に口説こうとしたときは、連れ込み宿ではなかったから彼女も照れただけだ。
「塩がないと、こんなにも体調を崩しやすくなるのですね」
「オイ殿下、とっとと手柄を立てて城に戻ろう。言い方は悪いが、とっくに探索されつくしたダンジョンなんて潜っても手柄にならない」
「ああ……」
アダムスだって、多少は悪いと思っている。オリヴィアは質素な食事に心ここにあらずといったところで、エヴァは失踪同然で捨てた家に頭を下げて従魔を預けることとなった。本当なら婚前旅行でいくらかつまみ食いができればと思っていたのに、実情は生きていくのすらやっとだ。
「このダンジョンを離れるとして、クロスランド国内に探索されていない、俺たちに入れるダンジョンはあるか?」
「ヘオース学院にあるという高難易度ダンジョンはどうだ。あそこもクロスランドだろ」
「あのダンジョンは、生徒でなければ入れないそうですわ。わたくし、いちどお招きいただいて……あの紅茶、給仕の方を我が家にとお伝えしたのですが、何度お声がけしても断られてしまって……」
「いっそ近隣の国にでも出るか? 出られればの話だけどな」
現在地は王都から見て東側。ここからであれば、最も近い国は冷戦中のガルヴィニア諸国になる。パーティメンバーはウーシャを除きクロスランドの貴族籍を持っているが、冒険者として出国する分には問題ない。
「……自分で言ってみてなんだが、それもいいな。オリヴィア、どう思う」
「ガルヴィニア諸国でも北の方はケーキがおいしいと聞きますわ。ぜひ、北側のダンジョンに行きましょう」
「おいおい、北ってことは寒いんじゃないか? 装備を改める余裕はないだろう」
「ウーシャがいるだろ、アイツで暖を取ればいい」
「兎肉もおいしいですし、賛成ですわ」
くう、とオリヴィアの腹が空腹を訴える。
アダムスはため息をついて、罠の様子を見てくるとその場を後にした。
アダムス達の不毛な会話を少し離れた場所で聞きながら、ウーシャは手慣れた様子で手紙をしたためる。
『お嬢様へ
私が不在の間、ダンジョンに挑んではいないでしょうか。アテンドがいない状態で、お嬢様がダンジョンに挑まれてはいないでしょうか。物々交換でファーストとは名ばかりのポーションを与えていたことも、ウーシャは心配でした。
お嬢様が去られてから、パーティは瓦解寸前です。ヘオース学院へ向かうというばかげた話もありましたが、あの場所はクロスランドではありませんから入れないでしょう。もしかしたらそちらにお邪魔できるかもしれません。どうかウーシャの働きぶりについて、よろしくお伝えいただければ幸いです。
ウーシャ・グランドフットより』
仕上げにサイン、そして家紋を簡易シールスタンプで入れて、手紙を魔術で鳥の形にして飛ばす。
できるだけ早く帰りたい、とウーシャは足を踏み鳴らした。




