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18 ブローチ「燃える深紅の雷撃石」

 生地を焼く。その間にかぼちゃのペーストを作る。ついでに小麦粉で麺を作る。

 生地はオーブンに入れて(ブン)、ローグに適当な時間を伝えて焼きあがったら声をかけてもらうことにした。


「あとは祝福をかけて、と」


 最初に焼き始めた分は冷やすだけになったので、あつあつのうちに祝福の魔術を使う。


「兎の足音、森の海老、氷の生え際、めしあがれ」


 教科書通りに祝福の魔術を唱え、ひとつひとつに祝福をかけていく。

 祝福って言ったって、これを食べたら完全無敵存在になるとかそういうものではない。ちょっとした幸運が訪れる……かも、というくらいの、いわゆる「おまじない」に毛が生えた程度のものだ。術者の力量もなにもなく、だれが唱えてもだいたい同じ効果しか出ないし、効果が出たとしても気のせいレベルだ。

 祝福の終わったタルトは冷蔵庫へ入れて、冷えたら完成だ。この冷蔵庫って箱は遺物で出土したものの名前なんだけど、今では「入っている物を冷やす箱」って意味で広く使われているし、魔道具で効果を再現したものも作られている。

 素材となる果物が全然ない――買ってきていないので、明日以降また買い物に出ないといけない。


「ローグ、部屋に案内するね」


 設定には明後日くらいまでかかるはずだ。明日の買い物にも連れ出そう。

 手を引っ張ればその方向に移動しようとはしてくれるので、階段は思い切ってローグを浮かせることで突破。そもそも私も歩きたくないときは浮くようにしているし。……足が痩せてきた原因ってもしかしてこれかな。

 おじいちゃんちの母屋は地上階が厨房、倉庫と店舗。店舗の隅っこに隠してある階段で行ける上の階が、個人の部屋だ。手前から順に、おじいちゃんの部屋、アルマさんの部屋、私が使わせてもらうことの多い部屋。そして、上の部屋の廊下突き当りにあるのが物置部屋。物置部屋には昔窓があったけど埋めちゃったとかなんとかで、風が強い日は扉がずっとがたがた言うのでうるさい。

 ちなみにお風呂とトイレは庭に小さい小屋があるので、そこだ。小屋が埋まるまで雪が降った日はおなかを痛くしながら寝るか、家の中に両方があるヒトに借りるしかない。

 私はローグを同じ部屋に案内し、さすがに同室で寝て(また)殿下に心配をかけるのは悪いな(面倒だ)と思案する。


「アーヴ、どこだー?」

「アルマちゃん! 上! 今行くねー!!」


 ちょうどよくアルマちゃんが来た。私は階段を降り……いや足が滑って転がり降りて、階段を隠す扉を蹴破りながらびたーんとしりもちをついた。


「アーヴ、相変わらず落ち着きがない」

「ちょっと踏み外しただけだし。お尻痛いけど」

「もうちょっと叩く? 頭がよくなるかも」

「どういう法則なの?!」


 こちらをちっとも気遣わない、だからこそ気安いこの人はアルマちゃん。おじいちゃんの奥さんで、もしかすると私より若いけれど、私のお父さんの方の祖母に当たる。

 洞人(エルフ)鱗人(マーメイド)に例えられる美貌は、もしかしなくともシュックローファ領(この)街で最も美人。雪国では目立つ茶色と言うか浅黒い色というか迷う肌はどこか夏の陽気をまとっていて、気位の高そうな鼻筋と、使う魔術とは反対に冷え切った切れ長の目元はお父さんにも受け継がれている。瞳と髪は燃え盛る炎か血潮のように赤く、そこはアルマちゃんの得意な魔術の色が溶け込んだようだ。


「にしても、なんで血のつながっているアルマちゃんはこう、美人なのに。私とお姉ちゃんは似なかったかな」

「何を言うのやら。今のアーヴの顔は好きだ、だからあの鼻たれもお前の尻を追っているのだろ」

「……アルマちゃん、相変わらず語彙が幼いよね」

「返したからな」


 幼いというか、丁寧さがないというか、山賊っぽいんだよね……。そこはおじさんたちもお父さんも似ていない。助かった。

 とにかく、アルマちゃんは外見100点、頭の回転100点、魔術の腕1000点、語彙-900点の300点存在だ。昔はこの辺りの領主様と丁々発止をしたと聞いているけど、絶対嘘だと思う。


「それよりアーヴ、冬の地に行くと聞いた。本当か?」

「うん。できればアルマちゃんに寒さ除けのおまじないをお願いできないかと思って」

「高いぞ、アーヴの花嫁姿より高い」

「それどういう金額なの」


 残念なことに、殿下が好きって言ってくれないからまだ結婚するつもりはない。……態度としては好きって言われているようなものだけど、明確にその2文字を言われたことはないし。セーフだセーフ。


「それとね、アルマちゃん。ゴーレムの初期設定をしているんだけど」

「いいぞ」

「まだ言ってないよ! さすがに男性型ゴーレムと同室だと殿下が怒りそうだし、アルマちゃんの部屋に泊めてくれない?」

「大歓迎だ。何なら同じベッドに寝るか?」

「熱いからヤダ」


 顎をすっと持ち上げられて、先生と似て非なる美の形に見つめられる。が、さすがに慣れているのでかわして、熱烈なお誘いもお断りさせてもらった。アルマちゃんは子供体温というかなんというかで、ずっと夏掛けしか使えないくらい熱々だし。


「なんだ。添い寝してくれたらおまじないくらい量産するのに」

「さすがに量産はしなくていいもん。3つは欲しいけど」


 私と殿下、そしてローグの分だ。

 それから数日。出国整理券を獲得し、果物を調達したりタルトを作ったりしながら平行でローグの初期設定を終わらせ、アルマちゃん特製・寒さ除けのおまじないがこもった真っ赤な石のブローチを3つもらい。


「いざ冬の地!」


 ポーラ王国連邦を出国する日がやってきた。そうしてやっと、私はダンジョンへ向けて進み始めたわけだ。

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