16 嵐を呼ぶ裸のゴーレム
『ポーラ王国連邦内に在住のヒトが、それ以外の地域に出国する際に必要なもの、こと。
・ 入出国証明旅券 →持ってる
・ 身分証明書 →いらないといわれたのでいらない
・ 出国許可書 →もらってきた
・ 出国整理券 →早めにもらう!
・ 今年版のてもけん ←カバンの数だけいる! 買ってくること
・ 日数分の着替え他旅行の荷物
・ 新しい武器
・ ダンジョンのアテンド役 ←ウーシャがいてくれたらよかったのに』
適当な紙に書きつけたリストを見つつ、持ち物とやることに過不足がないかを確かめる。残りの所持金はまあ、なくはないので何とか調達できるだろう。
なおてもけん、というのはそういう名前の魔道具――魔術を封じてある道具だ。
外見としてはそれなりの厚みがある本なのだが、実態は手荷物検査を事前にやって、問題なければ開封・変更できないように、問題があったらどれがどうダメなのか表示してくれる道具だ。
もちろん、てもけんがなくとも出国に問題ない。ただ、出国口の手荷物検査場はいつでも5日から待たされる長蛇の列だ。手荷物検査場に並んでいる間に旅行の日程が終わった、なんていう笑えない話もよくある。手荷物検査場の列に並ばなくてよくなるから、よほど時間を余らせているわけでもない限りてもけんはあった方がいい。
当然、出国手続きも3日とか待たされる。なので、1度出国手続き会場で整理券をもらい、近くのキャラバンで時間をつぶしたり、いったん家に帰ったりというのが普通だ。
「アテンド役が問題よね……」
今まではウーシャが同じパーティにいてくれたので、ダンジョン探索でも頼っていた。
でも今ここにはいないのだ。街中で考え事に集中してだんだん地面から離れてしまったときも、知らないおじさんに珍しい魔導書があると声をかけられたときも、ウーシャに助けてもらっていたのに。
「あ」
会都の大通り、真ん中で私は足を止める。
あるじゃん、アテンド役にしても問題がなさそうで、今は仕事をしていない相手。
私はマジックバッグに手を入れ、その相手を探す。中でゆすられてか棺桶の蓋が空いていたようなので、腕をつかんで引っ張り出した。
取り出されたるは先生からもらったゴーレム。上半身を引っ張り出したところで、そういえば服を着せていなかったと思いマジックバッグにないないした。
そうしたら、ゴーレムの説得をしないといけないし、どこかに宿をとろう。私は大通りから、宿屋が多い道に向かって移動することにした。
「……」
「今の、」
宿に1室、私とゴーレムの2人ですと伝えて部屋をとる。
「昼間とは言えあまり騒がないでくださいね」
「わかりました」
鍵を受け取り、2階の角部屋に入る。私が寝返り3回転できそうなベッドがひとつ。私は自分の寝袋を持っているから、ベッドはゴーレムに使ってもらおう。
マジックバッグから、今度は棺桶ごとゴーレムを取り出す。中をちらっと見て、頭髪が指定通り黒単色の背中半ばくらいの長さにされていることと、服が同梱ではないことを確認した。
「名前も付けてあげないとね」
その前に服だな、と脳裏に顔を焼き付ける。この顔に、体形に合うような服を見繕ってこないといけないので。
部屋を出て、近くにある古着屋さんで男性用の服を3着買う。大きさは成人男性サイズであれば問題ないだろう。紙袋に入れてもらって、落とさないように抱えていく。
ゴーレムの彼の名前は何がいいだろう。思考に肩までつかりながら、うっかり空に飛んでいかないように“来た道、戻れ”と自分の移動を魔術で制御する。
私の名前が古代文学を由来としているって聞いたから、そういう名前を付けられるといいのだけど、私って名付けのセンスがないのよね。月光のささやきも殿下に名前を付けてもらったし。
宿の部屋に戻り、ベッドに腰掛ける。棺桶をずらして服を当てて、大きさが足りそうなことを確認する。起動スイッチはおへその奥を長押し、加えて魔力認証が必要だから、ぎゅーーっとおへそを押し込む。大体人差し指の3分の2が押し込まれると、ゆっくりと瞼が持ち上がってきた。
「殿下のフルネームがフロー・ヴィング・バーレイグ・トルヴィル・レムリウス、だから……」
殿下は名前が長いので、いつも殿下と呼んでいる。忘れたわけではない。
個人というか、本人の名前はフローで、戸籍上の姓に当たるのはトルヴィル。さすがにトルヴィル姓を与えるというのはちょっと怒られそうだし、お父さんの昔の名前から苗字を決めるとして。
「よし、この子の名前は今日からローグ・ダブリュスにしよう」
実はお父さん、南ガルヴィニア国籍ではないのでレリルとアルマの子ヴォルス以外に戸籍名を持っている。ポーラ王国連邦内であれば、自分の国籍がない国に永住していても問題がないのでそういうこともある。よくある。
瞬きをしているゴーレムに、オーナー登録は済ませているからと話しかける。
「おはよう。君の名前は今日からローグ・ダブリュス、ね。オペレーションシステムのチェックを」
「個体名認証完了。オペレーションシステム、問題ありません。過去の人格を復旧しますか?」
うつろな目が中にあるものの発光に合わせて(取扱説明書曰く)約1677万色に輝く。まぶしい。
過去の人格を、というのはゴーレムを譲ってもらう前に先生が言っていた「すべてリセットは」というのが理由だろう。どこかで働いた後、扱いきれなかったり契約の終了だったりで返されたものだとそういうこともあるらしい。
「復旧しない」
「わかりました。標準装備の人格から成長基礎とするものを選択してください。標準装備の詳細については取扱説明書を参照するか、紙面等での連絡となります」
「紙面等を希望します。言語はガルヴィニア語で」
「出力まで少々お待ちください」
いやー、先生の作ったゴーレム便利だな。すごく便利。自分で作るとこのやり取りは省略できるけど、それ内部をいじっているからだし。
ローグから出力した紙を渡されたので、ベッドに横座りしてまじまじと見る。
『標準装備人格
◇元気
・ オーナーからの指示に対し、実力以上に達成する確率が上昇します。
・ 放置時間が4時間を超える場合、落ち込む確率が高いです。
・ オーナー以外とのコミュニケーションを得意とする傾向があります。
・ 推奨業務:店舗従業員
◇慇懃無礼
・ オーナーからの指示に対し、必要十分の実力で達成する確率が上昇します。
・ 放置時間の如何にかかわらず、自身の運用性能を維持または向上する挙動が発生します。
・ オーナーとのコミュニケーションは辛辣ですが、オーナー以外とのコミュニケーションは積極的に行います。
・ 推奨業務:秘書
……
(そんな感じでだいたい20パターン列挙されている)
……
このほか、性格の決定に使用される要素をもとに個別設定や、起動後の環境に応じ適切と思われる人格に成長が可能です。』
いや面倒くさいな。臨機を応変してほしい。
そうすると最後に出てきた起動後に~というやつが一番いいのかもしれない。ダンジョンへの同行は当初予定していた挙動ではないし。
「じゃあ起動後の環境に、というので」
「わかりました。設定開始から72時間の間周囲のデータ収集を行います。なお、データは人格設定後に削除されますが、開始してよろしいですか?」
了承を返答しようとする私。と、階下から走ってくる音が聞こえる。そして私のいるこの部屋の前で止まると、鍵を開けているのか一呼吸を置いたのちに力強く扉が開かれる。
「待ってくれアルヴィ! 私のどこが悪いんだ!」
「あら、殿下こんにちわ」
部屋にやってきたのは殿下。蝶番の壊れた扉がその辺にぶつかりそうだったので、私が魔術で回収する。
「ついに職場で何か言われたの? 殿下の悪いところなんていっぱいあるじゃない」
右手と左手で別の仕事をするとこ、部下に対して高圧的だったりするとこ、コスメボックスが重くて私が持ち上げられないとこ、テオと仲が良すぎること、あとは苦手な食べ物が多くて私が口に入れないと嫌がること。ちょっと思い返しただけで片手が埋まってしまった。
あとお姉ちゃん曰く、仕事中にお姉ちゃんを見つめて30秒くらいのなっがいため息つくところとかもそうね。
そう思って心配していると、だんだん殿下が縮んでいく。廊下で鍵を持って見ている宿のヒトが何事かと思って離れられないじゃないか。
「そ、そうか、でも私にはいいところも、あるぞ?」
「そうね。落ち込んだ時に昔の大きさになるところとか」
殿下は、魔人族だ。魔人族はほかの種族からすれば意味不明なくらいの約束事やルールや生態がある。
そのひとつが、落ち込んでいるときは服ごと縮んでぷにぷにの幼少期に戻るらしい、ということ。おかげで、殿下は今5歳くらいの外見になってしまった。
宿のヒトに知り合いだからと言って戻ってもらい、魔術で扉をもとの位置に戻し、殿下を抱き上げる。ちょっとどころでなくずしりと来る重さなので、筋力増強の魔術で補助をしてと。
「それでどうしたの」
「部下から、ルヴィトが街で半裸のヒトを空間魔術から出し入れしていたという報告が上がってきてな。受けたのがそのルヴィト本人だったのだが」
「それは部下のヒトも災難ね」
「報告のあった時間から、ルヴィト本人ではないというのはわかっていた。部下も“特徴として、髪にうっすらぶちが入っていた”というので、アルヴィのことだろうと思って探したんだ」
もちもちになってしまった殿下の、背中をそっと撫でる。柔らかくてよい。ほっぺたをつつく。柔らかくてよい。
「ズッッッッッッッッッッッ」
「アルヴィ、吸わないでくれ」
しまった、あまりにもぷにぷにでよいものだからほっぺたを吸ってしまった。もふもふとぷにぷにには目がないんだよね、私。
「で、悪いところもいいところもあるけどそれがどうしたの」
「いや、その、あの……浮気は、できれば、しないでほしいのだが」
「……浮気ィ?!?!?!?!!!!?!?!」
いつ浮気した。
「ア、アルヴィは、私のことこう、そこまで「浮気なんか誰としたっていうのよ相手連れてきなさいよ相手」そこにいる彼は違うのか?」
「なんでゴーレムと浮気しないといけないのよ」
こんなにもちもちの殿下が手元にいるのに。いや、もちもちぷにぷにでなくても私は好きなんだけど。殿下はどう思っているか知らない。
「ゴーレム??????」
「先生が作ったやつ譲ってもらったの。名前も付けたわよ、ローグ・ダブリュスて。ね、ローグ」
「はい。“人格設定前のトラブル対処法”より引用いたしますと、自分はそちらのアルヴィ様が所有するゴーレムであり、人格設定を行うため取り出されております」
「ほら!」
殿下はローグと私の顔を見比べて、小さい口でできる限りのため息を吐いた。
「アルヴィ、そろそろ下ろしてくれ」
「もっかい吸ってからじゃダメ?」
「大きさが戻ると思うのだが、「ズッ」いや問答無用か」
だんだんと元の美人画殿下に戻っているところを、胸いっぱいに吸っておく。もったいないからね!
殿下を床に下ろし、元通りになる前におでこにひとつキスをする。
「でも、来てくれてありがと」
「む」
「近く冬の地に行ってくるから、お土産期待しておいてね」
そのまま体よく殿下を追い出し、蝶番は魔術で修繕して鍵を閉める。
人格設定は実家でやった方がよさそうだ。ローグには悪いけど、マジックバッグに戻ってもらおう。




