11 この親×2にしてこの子あり
無事にゴーレムを手に入れてしまったので、アトリエの場所探しに本腰を入れることにした。
といっても、最初にやらないといけないのはお母さんの現状確認だ。なんてったって、お母さんがシレーネシアに転勤するなら実家の近くにアトリエが持てるし、うちの実家のあたりはほとんどヒトが来ない代わりに薬草の生育に適した立地だ。
問題点としては、ヒトが来ないから売上が上がらず、将来欲しいものに手が届かない可能性が高いこと。手間のわりに高く売れる『月光のささやき』を量産してもいいけど、値崩れを起こすと困るし……。
よし、アトリエは完全に作業場所として割り切って、ヒトが多いところにも商品を置かせてもらおう。例えば会都とか、学院の購買部とか。
「ただいまー」
「お帰り。本当に帰って来てたんだね、アルヴィ」
先日ぶりの実家はあの恥ずかしい看板がなくなっていて、何年ぶりかに見るお父さんにちょっとびっくりした。
お父さんは魔術師として前線にいるらしく、使える者が絶えたという炎系の魔術を得意としている。もちろん他属性の魔術も使えるそうだけど、ぜーんぜん見せてくれない。私だってだいたいの属性魔術使えるんだけどな。
「もしかしたらお父さんよりかまめに帰ってきてるよ。お母さんは?」
「面接って言ってたよ。それよりアルヴィ、また変な魔術を使ったね?」
「うげえ」
お父さんは魔術に関すること以外は、大窯で善良さとヒトの良さと素敵なことをたくさん煮詰めたようなヒトだ。
つまり魔術に関することはものすごい怒ることもあるってことだ。
「魔力の流れに乱れがある、食事は前よりかおろそかにしていないようだけど、それ以外は論外だね。何をしたんだい」
「やべー格上の化物を追い払うために適当に転移させました。ごめんなさい」
やったことの非常識さに自覚はあったので、正直に反省の意を述べる。お父さんは考え込むポーズその1をしばし取って、考え込むポーズその2をしばし取って、考え込むポーズその3をしばし取って、それから「それはしかたないよねえ」と片言で出力した。
「その、やべー格上の、ってどんなか聞いても?」
「あとはたっぷり寝だめしたから運動不足です」
「おばか!」「グァー!」
杖で脳天にごつんと食らってしまった。お父さん、その杖戦闘用だよね?!
とにかく、魔力の流れに関しては話題をそらすことが出来ので、私もお父さんと共にお母さんが面接から帰ってくるのを待つことにした。
「そいえばお父さん、お母さんがシレーネシアに就職したらどうするの?」
「うーん、娘たちも大きくなったし、今のパーティも忙しい。ついて行って主夫でもしようかな」
「そこいっそのこと離婚とかする流れじゃないの?!」
「そんなコトするわけないだろ! お母さんに結婚を許可してもらうまでに20年かかったんだからな! こっちは天国でも地獄でも粘着する予定なんだよ!?」
忘れていた。お父さんはわりと粘着質かつお母さん大好きな生命体だった。余計なことを言ってしまったようだ。
なお、お父さんの自称する結婚した年齢と、私(とお姉ちゃん)の年齢が合わないが合わないことについて。実はお父さんが成人してすぐくらいに書類上の結婚はしていたのだけど、書類は酔っぱらった若いもの同士で提出した故にお父さんの記憶には残っていなかった、というのが理由だ。
逆に、自分は殆ど帰らないとはいえ書類上同居している異性が、帰ったときにいきなり子供を連れていて疑問に思わなかったんだろうか。
「その時はまだ結婚してなかったから! もしかしたら拾っただけかもしれないだろ?!」
考えていることに回答しないでほしい。
……そもそも、私やお姉ちゃんがお母さん似の顔じゃなかったら認識されなかった恐れもある。神に感謝。
それからしばらく。お母さんが帰ってくるのを待ちながら、お父さんの顔を引っ張ったり勇者パーティについて話したりと暇をつぶす。お父さんは洞人の血が入っているのかただ単にそういう性質なのか、老年期に片足をひっかけている年のはずなのに40歳かそこらにしか見えない。いや、お母さんも大体そんな感じだからそんなものなのだろう。
勇者パーティに関する話が4周目に入ったところで、玄関扉からカラカラチーンとどこかで聞いたような音がする。何だったかな、たまに殿下がこういう音とともに来るのよね。
「たー、だいまー!」
「お帰りー」「お帰りなさいヒルダさん!」
いくらか疲れた様子のお母さんが玄関扉を開けて帰ってきた。お父さんは即座にチークキス。お母さんも同様。私は両親のラブラブっぷりに意識を遠くする。
チークキスからバードキスへ、バードキスから……とだんだん激しいいちゃつきになってきたところで、私は咳ばらいをして存在を思い出してもらう。
「それで、シレーネシアへの転勤はどうなりそう?」
これはとても大切な案件だ……!
「あら、ヴォルスから聞いてなかった? お母さん無事に転勤が決まったの。今日は住む場所とか帯同する家族についての面接だったの」
「じゃあうちはアトリエ廃業だよね?!」
「そうねえ。それがどうしたの?」
つまり? 私は(場所さえ確保できれば)この辺にアトリエを開けるということ?
勝どきを上げそうな口をみゅっと結んで、深呼吸してから開く。
「私、アトリエの魔女になりたい。もちろんこの家は残しておくつもりだし、仕送りとかいらないし、「いいわよー」軽いよ!」
結構緊張して言ったのに!
ちょっとばかり拗ねて頬を膨らませる私。それをお父さんとお母さんが両方からつついて空気が抜けて、仕方なく口をとがらせるだけになる。
「アルヴィがアトリエの魔女になりたいのはとっくに知ってたもの。ね、ヴォルス」
「アトリエ落成式の時は帰ってくるから、ちゃんと連絡をするんだぞ」
「それは……ガルヴィニアの子、ヒルダとヴォルスの育てたアルヴィとして約束するよ」
私は少しばかり恥ずかしくなりながら、お父さんとお母さんに宣誓した。
「ガルヴィニアの子、ヒルダとヴォルスの育てたアルヴィ」について
ポーラ王国連邦で姓を持っていないヒトは「《出身国》の子、《親1》と《親2》の育てた《本人の氏名》」という表し方をする。
基本的に、親1には本人が男の場合は父の名が、女の場合は母の名が入る。成長過程で性別が変わる場合はたいてい母の名を親1に入れる。




