01 追放され申した
「明日からはウーシャをメインの魔法使いとして戦う。お前はクビだ」
「あっはい」
前略、勇者パーティでの地位を弟子に奪われた。
私ことアルヴィは、自分で言うのもアレなのだが、世間知らずである。
例えば、幼なじみの父・通称フロおじさんが持っている別荘のひとつで勝手に遊び、壊し、その弁済額がよく分からず「クッキーで何枚分ですか」と聞いたことがある。
フロおじさんと、その奥さんで幼なじみの母・通称ネレお姉さんは優しく微笑んで、私が15才になるまで7日に1回は20枚のクッキーを焼いて、親子3人といっしょにお茶をすることで許してくれた。
それくらい、田舎育ちで世間知らず、フロおじさんの別の別荘を大変なことにしたお詫びに弟子を教育するよう言われウーシャを預かったのだが。
このたびめでたく、勇者パーティ追放となった。
勇者パーティは私が抜けると、勇者にして王子、少数民族兎人の姫ウーシャ、戦士のお姉さん、回復術師のお嬢さん、斥候兼従魔師の姐さん、あと従魔複数の男1人女4人になる。ウーシャは人族共用語での会話が得意でないので、これまでほとんど戦闘には出していないのだけど。
今日中に宿の部屋も引き払う様に言われ、私は荷物をマジックバッグにぽいぽいっと入れていく。幸い容量はまだ空きがあるので、さくさくっと。
と、物音がうるさかったのか、扉をノックする音が。誰かと思って入室を許可すると、やってきたのはウーシャだった。
「お師匠、どうしたのですか?」
「片付けだよ。ウーシャは眠れないの?」
ウーシャの母語、ヨツクサ語で話をする。はたから見るとぷいぶいぷいぶいと騒いでいるだけだが、これも立派な言語だ。
「いえ、勇者様が先程部屋にいらっしゃって、興奮した様子で……。わたくし、思わずびっくりして」
「びっくりして?」
勇者は自分が勇者なのと、パーティが自分美人可愛い系綺麗系獣人+私なので、宿は全員1人部屋を取っている。私は部屋に防御魔術を使っているから遭遇したことはないが、今夜はウーシャの部屋へ夜這いに行ったらしい。
どちらも王族なのだから、何かあれば責任問題、いや何もなくとも責任問題になると分かってないのだろうか。これだからクロスランド民は。
「びっくりして、練習していた氷魔法を勇者様に使ってしまいましたの」
「それ生きてる?」
王様が選んだとはいえ、今は話題の勇者様だ。死んだら困る、政治的に。
「ええ、もちろん」
よかった、事実隠蔽をしなくて済みそうだ。
さておき、ウーシャを部屋に戻らせるわけにはいかないので、ひとまずこの部屋に泊まるよう伝える。
部屋に防御魔術をかけて、私は荷物をまとめていく。こういう時に大規模な空間魔術があると範囲指定からの収納でスポンといくのだが、私のそれはいわゆる猫の額級なので期待できないのだ。
パーティとしての資産は置いて、眠るウーシャに書き置きを残す。
『残っているのはパーティとしての荷物です。私は契約に基づいて実家に帰ります。ウーシャはパーティに雇われているわけではないので、適当に帰ってきてください。アルヴィより』
ヨツクサ語は無文字言語なので、申し訳ないが私の母語クムドゥ語で。幸い、ウーシャもクムドゥ語は読み書きできるし、問題ないだろう。
「よーし」
片付けは終わった。私は埃っぽくなった手をワンピースの裾でぬぐい、勇者パーティに入ってから頻繁には唱えていなかった呪文を並べる。
魔術の光は部屋の外に漏れない。私は目的地を告げて、宿屋から去った。