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君が成す名を  作者: 岩木 久四郎
2/5

君の名

彼女はゆっくりと振り向いた。

「えっと···あなたは?」


俺は、少しの間返事ができなかった。柄にもなく、彼女に見惚れてしまっていたからだ。

しばらくして、


「あ、ああ、俺は···榊だ。君が困っているのかと思って声をかけたんだけど」


「榊くん···か。あ、そうそう、確かに少し困ってたんだ。お財布落としちゃって」


「財布を?なにか探してるようには見えなかったけど··」


「あはは、なんか恥ずかしくて普通にたってるフリしちゃってたんだ。君が通り過ぎたらまた探すつもりだったよ」


「そっか、とりあえず早く見つけないとな。どんな財布なの?」


「手伝ってくれるの?」


「まぁ、自分から聞いたからにはね···」


「ありがとう!助かるよ!えっと財布はね、ボタン式の二つ折り財布だよ。水色の」


「わかった。この辺りで落としたのか?」


「わかんない…。ないのに気づいたのもついさっきだし。いま学校まで戻ってたんだ」


「学校ってもしかして情名高校?」


「え?うんそうだよ?あ、その制服···」


見れば、彼女の制服は俺の学校と同じものだった。

「まぁ、とりあえず今は財布を探そう。俺は学校から探してみるよ。君は続きからお願い」

「いいの?ありがとう!よろしくね」

ーーーー30分後···

「おーい!」


「あ、榊くん!」


「ふぅ···、これじゃないのか?君の財布って」


彼女の前まで走り、水色の財布を差し出す。


「あ!これだよ!ありがとう!見つけてくれたんだね。ちなみにどのあたりにあったの?」


「どうやら校内で落としてたみたいで、誰か職員室に届けてくれてたよ」


「そっかぁ、いつ落としたんだろ…、ぜんぜんわかんないや」


「とりあえず見つかってよかったよ、それじゃあ」


一件落着したので、俺は振り向いて立ち去ろうとする。

「あ、待ってよ!」


「ん?」


「いや、その、、お礼したいし、そこの公園で話でもしない?お金ないけど飲み物くらいは奢れるし···もちろん時間があるならだけど」


「別にいいよ。結局明日には見つかってただろうし」


「ううん、違うよ。見つかる見つかんないは別として、探してくれたことに対して、お礼がしたいんだ」


「·········じゃあ、、お言葉に甘えて···」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

彼女はカフェオレ、俺はお茶を買ってもらった。自分で出すと言ったが、どうしても出したい!と彼女に押し切られてしまった。


なんとなく2人はベンチに座る。

「さて、改めまして。さっきはありがとう。助かりました」


「俺の方こそ、お礼なんて貰うつもりなかったのに」


「いいのいいの!こういう気持ちは受け取っとかないと!」


「ん〜、そういうもんかね···」


「そうだよ、現に私は榊くんのおかげで······。そういえば、榊くんの下の名前ってなんて言うの?」


「·········憂依··だよ···」


「憂依くん、か。···もしかして、自分の名前嫌い?」


「···まぁね、あまり名乗りたくはないかな」


「なんで?」


「さぉね、何となく嫌いなんだ」


「ふーん、そーなんだ。私は好きだけどなあ」


「···え?」


「なーんか優しい響きがして、好きだよ?そんな感じしない?憂依って。君が優しいからそう感じるのかもしれないけど」


彼女の話を聞き、母のあの言葉をなぜさっき思い出したのか、少しわかったような気がした。


「···そういえば、君の名前はなんていうの?」


「私?あ、そっかごめんごめん。まだ名前言ってなかったね!」


「私の名前は、流子(るこ)。桜井 流子だよ。流れるに子供の子。憂依くんと同じで、少し変わってるでしょ?」


いたずらっぽく笑う彼女。

「ルコウソウって花からとったらしいんだ。繊細な愛とか、元気、とかそんな感じの花言葉なんだって」


「へぇ、なんかそっちもそんな感じがするな」


「そうかな?」


「うん、なんとなくだけど元気って感じだ」


「ありがと、そう言われるとなんだか嬉しい」


それから2人で、たわいない話をしていた。

ーーー気づけばもう日が沈み始めていた。


「もうそろそろ帰ろうか」


「うん、そうだね。今日は本当にありがとう!また明日ね!」


手を振る桜井さんに軽く手を振り返し、俺は家に帰ることにした。


走って汗をかいたため、先に風呂に入ることにした。

体を洗い、ゆったりと湯船につかりながら、俺は桜井さんのことを思い浮かべた。

「桜井、桜井流子さん、か」


俺が嫌いな名前を褒めてくれた初めての人···


「あ、そういや何年何組か聞くの忘れてた···」

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