第9話
この異世界に来て一番会いたかった人物に会えたのは、私の体調が戻ってさらに三日たった後だった。
『オリエント国』稀代の魔術師、第三王子ライナード。
反魂の術によって、フローラ姫を甦らせた張本人なのだが、とにかく変わり者らしく自室を魔術の研究室に改造し日がな一日引き籠ってる状態だった。
面会を申し出て、ようやく許可が取れたのが三日後だった。妹が会いたいと言っているのに、研究で手が離せないというのがその理由だった。
私は、アーロンと共にライナード王子に会いに行ったのだがまずはその容姿に度肝を抜かれてしまった。この世界に来て美形度数の高さに毒されていたのだろうか、ライナード王子は容姿は異彩を放っていた。ぼさぼさの髪の毛に丸縁のメガネ。長い前髪が顔の半分は隠していて、口元しか見えない。猫背のため、さらに表情を覗いにくく、向こうの世界の白衣に似たものを着ていて全くもって王子には見えない。
少なくとも、カラン第一王子とは、容姿が違いすぎる。それでも、父母は同じらしいので神様のいたずらとしか思えない。
「いやぁ、これはあれだな。メガネを取って前髪をあげたら美形キャラが現れるっていう、乙女ゲーの定番だな。なあ、フローラ姫。」
「いやいや、アーロン。世の中そんなに甘くないよ。その中二的発想どっかに葬ったら。」
「こんな異世界に来ておいて、中二的発想に至らない高橋の感性を疑うね、俺は。」
ライナード王子の失礼すぎる第一印象をひそひそと話していると、ライナード王子はにっこり笑いながら部屋に招き入れお茶を入れてくれた。うーん、不気味だけどいい人だ。
そう思ったのもつかの間。お茶を口にした途端、液体を吐き出してしまった。
「うごっ。ナニ・・この味。」
「・・・・・。」
アーロンは声さえ出ず、無言で顔を歪めていた。なのに、ライナード王子は平然と、私たちに出したお茶と同じものを飲んでいる。いや、ありえないから。これは、魔術師としての苦行の一つですか?
「不味いですか?おかしいなぁ・・・アーロン君もフローラもこのお茶大好きだったはずなのになぁ?」
いや絶対違うって。だって、フローラ脳が、完全拒否しているもの。ねえ、アーロン脳っと、結城に同調してもらうと思ったのに、結城のバカはライナードの言葉に引っかかって、無理やり不味すぎるお茶を飲み干そうとしていた。うぉ、死ぬぞ、アーロン!!
「お、ライナードお兄様嘘はダメです。アーロンを苛めるのもなしです。王子に、飲めと言われたら、臣下なら飲まずにはいられないでしょ。アーロン、飲まなくてもいいですよ。お兄様のいたずらなんだから。」
「うぐっ・・・不味い。吐きそう。」
アーロンマジ顔色悪いです。そして、そのお茶を平然と飲んでいるライナードが不気味でたまりません。なに、この人???
「ふふふっ。このお茶、体には良いんですよ。まあ、それはさておき・・・本題といきましょうか?」
「本題?」
「君たちは何者ですか?フローラでも、アーロンでもない。そうでしょ?」
私と結城はぎくりとして、表情を強張らせた。その質問をぶつけた張本人の表情はうかがえなかったが、ライナードの声は真剣だった。私はごくりと唾をのみ込みながらも口を開いた。
「もう、お兄様は聞いていらっしゃると思いますが反魂の術のせいで記憶があいまいになってしまって、人が変わったようだと評する人もいますが・・・私は、紛れもなく妹のフローラです。そして、アローンもこの国一の騎士ですわ。」
私の答えにライナードがにやりと笑う。
「なるほど、あくまで白を切るわけですか。まあ、いいですけどね。では、こちらから一つ重要な情報を差し上げますよ。」
「重要な情報?」
「はい、私は反魂の術を君に施していません。だから、死んだはずのフローラが生き返るはずがないのですよ。偽の妹姫。」