第26話
靄のかかった頭で、アーロンとライナードの会話を聞いていた。
人の精気を奪って寿命に替える魔法。
『まるで・・・吸血鬼かサキュバス。』
それはおぞましくも甘美な響きがあった。アーロンと同様に私も相当に中二病に侵されているらしい。
ぼやける視界の先で、アーロンの顔が近づいてくる。そして、何の躊躇いもなく私の唇に自らの唇を重ねる。ぞくりと全身に甘美な刺激が走った。アーロンから注ぎこまれる、その『何か』こそが精気なのだろう。
胸の痛みも息苦しさも忘れて、その甘く心地よい精気をむさぼった。
「うっ・・・んっ・・・はぁ・・・もっと、ちょうだい。」
唇の端からあふれる唾液が頬を濡らすが、構わずにアーロンに甘い声でおねだりしていた。彼もまた、まるで何かに取りつかれたように唇を合わせてくる。互いの舌が絡まり水音を立てながらお互いを貪りつくす。アーロンの体は熱く火照っていた。
私は、いつの間にか彼の背中に手を回し抱き付いていた。唇を離しアーロンを見ると、彼は恍惚とした表情をしてこちらを見つめていた。私は、微笑を浮かべて彼の名を呼んだ。
「アーロン・・」
「フローラ」
すでに胸の痛みも息苦しさもない。それどころか、体中の血液が入れ替わり別の人間になったような気さえしていた。
もっと・・・もっと、欲しい。
この甘美な至福のひと時を。もっと長く感じていたい。
微笑みを浮かべたまま、さらにアーロンにおねだりしようとしたとき、その至福の時は唐突に終わりを告げた。嫌味っぽい兄の言葉によって。
「おーい、淫乱フローラ。お前、アーロンの精気を吸い尽くす気か?」
「!?」
声の方に視線を向ければ、ニヤニヤ顔のライナード王子が興味深そうに私とアーロンの顔を交互に見ては楽しそうな声で話しかけてきた。
「今発動している魔法には、相手を逃さないために強烈な媚薬効果のある魔法効果も付加されているんだよねー。お前が、コントロールしてあげないと獲物・・この場合はアーロン君だけど精気を吸われ尽くして死んじゃうよ。」
「ええええぇえーーーーー!!」
アーロンの方を改めてみれば、恍惚の表情を浮かべてはいるがいつもよりは明らかに顔色が悪い。ライナードが得意そうに、魔法の説明を続ける。
「古代魔法をただ解読して、再現するのでは面白くないだろ。以前の魔法に若干弄って、効果を強化したんだよね。お前に精気を吸われた人間は男女問わず快感に陥り、己の命の限界さえも失してしまうのだよ。それほど、お前に魅了されるってわけ。で、お前は相手を唇一つで殺してしまうことも可能ってわけ。癒しの魔法兼攻撃魔法ってところかな。」
「いやいや、そういう事は早くいってよ。アーロン、大丈夫??」
ぼんやりとしているアーロンの肩を揺すって、正気に戻す。
「んん、あ・・・フローラ!!胸の痛みは治まったか?今、お前心臓発作で死にかけてたんだぞ。」
アーロンが心配そうにそう話しかけてきたので、私は罰の悪そうな顔で返事をしていた。
「いやいや、今死にかけていたのはアーロンの方だから。」
「?」
アーロンの疑問に答えるために、今仕入れたばかりの情報を彼に伝えた。その上で、抱き合ったお互いの体を放すことにした。お互いにまだ快感の余韻が残っているようで、互いの体温は高い。触れ合う体を放すと、かすかに胸に痛みが生じた。その痛みはほんの少し、甘いような気がしていた。




