第25話
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昔、病持ちの娘がいた。今にも死んでしまいそうな娘に同情した大魔法使いが、彼女に魔法をかけた。それは、人の精気を吸い取り他人の寿命を自分の寿命に変換する魔法だった。魔法使いは言った。『お前が持つ病は業だ。その病を治すことはしない。病を持ったまま長く生き続けるがいい。それは不幸か、幸せか。それは、お前が判断しなさい。』そして、娘は、病を持ったまま200年生きたという。
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「古代魔法王国で見つかる石碑には様々な物語が刻まれている。そして、その文章自体に魔法術式が隠され秘密が散りばめられている。それを紐解き、解読し、術式を構築する。その素晴らしさは・・・もう快感でね。」
何時までも語りそうなライナードの態度に苛立ちを覚えつつも、アーロンは口を開いた。
「要約すると、こうか?病持ちの娘が、フローラ。病自体は彼女の業だから治せない。ただし、人から精気を奪うことで、寿命が延びる。んっ・・・・フローラは200年生きるって事か?」
アーロンの疑問をライナードが即座に否定する。
「いや、200という数字は魔法術式を構築するために必要な数字だということが、解読して分かった。まあ、つまりは一時しのぎを繰り返して、自然と寿命が延びるって仕組みかな。200年も生きられないが、今の痛みや苦しみを和らげることは可能だ。そのように、この稀代の魔術師ライナードが魔法を構築したんだからな。」
「で、どうやってフローラは精気を取り込むんだ?」
「簡単だよ。肌を触れ合わせるだけでも、精気を取り込める。ただし、それは症状の軽い場合だけだな。効率が悪すぎる。今みたいな緊急の場合は、直接フローラの体内に精気を注ぎ込むしかないだろうなぁ。ちなみに、精気が多く含まれているのは、人間の体液だ。」
「体液....吸血鬼というよりは、サキュバス系だな。血を飲ますのは、無理だろうし。輸血ができればいいが、それも無理。」
アーロンのひとりごとを黙って聞いていた魔術師は、うっすらと笑いを浮かべながら、口を開く。
「悩んでる時間はないよ。それとも、このまま死なせてあげる?それも、選択肢の一つだよね。どう、親友の生死与奪を握る感想は?快感?」
フローラの兄とは思えぬ言動に、顔をしかめながらも決意する。アーロンに取れる行動は一つだった。
胸を押さえて苦しむフローラを抱きしめて、顔を覗き込んだ。
「フローラ、今から俺の精気を送り込む。その・・受け取れ。」
アーロンは意識の朦朧としたフローラの唇に自らの唇を重ねていた。




