第23話
「ねえ、結城くん。君、人間が嫌いだろ?」
「ああ、嫌いだね。殺したいと思うほどに、苛め抜かれた時期があったからね。」
二人が平然と会話していることが、私には恐ろしくて堪らなかった。
フローラ脳の影響なのかライナードが体の周囲に張っている魔法防壁を見ることができたが、それにどんどんヒビが入りはじめている。それはアーロンが持つナタも同じだった。魔法で強化されているのかそのナタは、強力な魔法防壁にも耐えて、攻撃を加え続けている。それでも、ひび割れの音を立てながら、ナタが軋んでいる。
「アーロンって奴はまっすぐで気持ちいい奴だったんだろうね。ここでの周囲の人たちの反応をみれば分かるよ。誰もが慕ってきてくれる。でもそれが・・・俺をイライラさせる。」
「はははっ。本当に、君って人間が嫌いなんだね。そんな魂がアーロンに入り込むとは不思議な縁だね。おお、不味いね・・・魔法防壁が壊れたら、私は魔法攻撃を仕掛けるけど君はどうする?」
「こちらのナタもヒビだらけだ。砕けたら、剣を抜くよ。」
ライナードが、眼を細めてアーロンを睨み付ける。
「私に勝てると思っているのかい?思い上がりの甚だしいね、異世界人。」
「異世界人を舐めるなよ。俺はね、上から目線の奴が大っ嫌いなんだよ。俺の事を苛めていた集団もそんな奴らだった。優等生のくせに、何でつまんねーいじめをするのかな。まあ、暇なんだろうな。で、人を殺したいって本気で思っていた俺につまんねーこと考えるなって言ったのが、こいつ。」
私は壁を背にしたまま、二人の攻防を見ていた。このまま続ければ、本当に殺し合いをしかねない雰囲気を醸し出している。なんだか、胸が苦しい。心臓が痛い。
「で、何故かすんなりいじめまで止めさせちまったんだよな、フローラは・・・高橋は。普通さぁ、そういう奴ってむかつくだろ?ぜってこいつも上から目線で俺の事見下してんだろって思うだろ。弱いやつ助けて悦に入ってるやつ多いからな。でも、こいつは違ったんだよな。変な奴。まじ変な奴で・・借りがあるんだ。」
「やっぱり、嘘つきはお喋り上手だな。身の上話をしながら、攻撃の手順を考えているのでしょ?脳フル回転で。で、私に勝てそうな結論は出ましたか?」
もう、ナタも魔法防壁も砕け散るのは時間の問題だ。見ているだけしかできない自分が惨めだ。それどころか、呼吸さえ苦しくなってきている。
「だから、俺は高橋を、フローラを傷つける奴は絶対に許さない。お前は、フローラを傷つけた。その報いを受けろ、ライナード!!」
「君こそ、魔法でズタズタに切り裂いてあげるよ。愚かな、アーロン。」




