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第21話



「!!」


「!?」




ライナードの振るったナタの刃がフローラの腕に触れようとしたその時、アーロンの腕が魔法使いの腕を掴みとっていた。フローラは茫然として、一歩も動くことができなかい。アーロンはそんな彼女からライナードを引き離すために、ナタを持った魔法使いの右腕を強く握り込みながら床に引き倒そうとした。だが、体躯に恵まれたアーロンをしても魔法使いを容易には御せなかった。アーロンでは、腕を掴んだままその身を拘束することで精いっぱいの状態だった。




「おっと、アーロン君。私の邪魔はしないでもらいたいね。」


「それはこっちのセリフだ!!いったい、何を考えているんだ、ライナード!!」




アーロンの言葉には怒気が込められていた。それに対して、ライナードは飄々と答える。




「何って、フローラが指輪を私にくれないと言うからね、腕ごと切り落とすことにしたんだよ。」




その言葉に正気に戻ったのは、フローラだった。慌てて、兄とアーロンから離れると、後ずさりして背中を壁にぶつけた。あまりの驚きに立っているのがやっとの状態だった。




「それにしても、アーロン。君、その反射神経ちょっと人間離れしてるよ。魔法で『俊』を使ったのに・・・何で、私の腕を掴めちゃうのかなぁ?それって、異世界転生の影響かな?」




「そんな事、知るか。それより、妹の腕を切り落とすって・・・あんた正気を失ったのか?」




アーロンの言葉に魔法使いはにこりと微笑む。




「いやいや、至って正気だよ。それにね、このナタは特殊で古代魔法王国の拷問道具なんだよ。腕を切り落としても、あら不思議・・・また腕が生えてくるんだよね。まあ、斬られる痛みと生える痛みはかなり酷いらしいけど。でも、生えてきたらまた斬れるだろ?だから、拷問に最適なんだよ。」




「はぁああーーーー、あんた、妹の私に拷問道具を使おうとしたってわけ!?」




大声を上げたのは、フローラだった。壁に背を付けた彼女にライナード王子は冷たい微笑を浮かべて口を開く。




「だからぁ、聞いていただろ?一回斬ってもまた生えてくるんだってば、腕が。まあ、3、4回拷問行為を繰り返したら大体の人間が秘密を吐露して、後は発狂するみたいだけどね。でも、一回なら全然平気だって。」




「平気なわけないでしょ!!それにね、この指輪は亡きお母様がフローラ姫に託したものなのでしょ?カランお兄様から聞いたよ。ライナードは、一番母親想いだったって。そのあなたが・・・母親の最後の願いを潰してしまうの?」




フローラの言葉に苦笑いを浮かべたのは、稀代の魔法使い。




「全く、君は心の痛いところをついてくるね。それに・・・母様そっくりに育って・・・私を惑わせる。嫌になるよ、本当に。」


「もうやめてよ、ライナードお兄様。」


「妹は死んだ。母のようにな。お前は・・・ただの偽物だろ異世界人。」




フローラとしては誠実に兄に訴えかけたつもりだったが、その想いは届きそうになかった。フローラが傷ついた顔をしたのを見たアーロンから、表情が徐々に失われていく。

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