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第19話

夜になり、私とアーロンは第三王子ライナードの自室に向かっていた。


できれば、あの変態魔法おたく王子の元には行きたくはないのだが、昨夜掛けられた魔法術式の詳しい説明を聞いていないので仕方ない。


しかも、その説明を聞けなかった理由が開発中の魔法術式が暴走して爆発して城の壁を吹き飛ばしたというのだから、私としては気が気ではない。同じく、私と一緒にライナードの部屋に向かっているアーロンも同様の心配をしているようで、ちらちらと私の様子をうかがってくる。


その視線が少し目障りで、私はぎろりと睨んで口を開いていた。




「・・・さっきから視線が痛いんだけど。何か言いたいことがあるならいいなよアーロン。」


「うーん。いやぁ・・そのさあ、体調に変化とかないかなぁって思ってさぁ。」


「変化?特にないけど。」


「そう?ならよかった。」




心底安心した顔をしたアーロンを見て、ついつい意地悪を言ってしまった。




「どうせ、小心者の中二病君は爆弾抱えた私の横を歩きたくないんでしょう?ま、安心してよ。魔法術式が暴走しそうに感じた時には知らせるから、逃げるといいよ。」




「いやいやいや、俺は逃げないからね!!同じ異世界人として、もしお前が爆発して肉片となるときには俺も運命を共にするから安心しろ。肉片と肉片でくっ付いて肉塊となろうぜ。」


「・・・・肉塊って。」


やっぱり、結城は意味のわからんことを言う。萌えないからね、そんな言葉じゃ萌えないから。




「俺は真剣だぞ。そうだな、証拠として・・・手でも握って歩くか?」




「?」




あまりに真剣な顔でアーロンが手を差し出してそんな事を言うものだから、私は思わず顔を赤くしてしまった。なまじ顔がいいものだから、変な会話をしているのに妙にカッコよく思えてしまうから不思議だ。私が困った表情をしているのが分かっている癖に、アーロンは腕を引っ込めようとはしない。




「・・・はぁ。」




私は、ため息を付きながらアーロンの手に自分の手を重ねた。そして、その手の大きさの違いに内心愕然とする。ごつごつとした剣士の手をしたアーロンと、白く柔らかなフローラの手。男と女の違いを急に意識してしまって顔が熱くなる。それを隠すように私はそっぽを向きながら口を開く。




「さあ、行こうかアーロン。」


「ああ、そうだな。それにしても、お前の手って、『女』って感じだな。」




うわ。それ、言うか?


言うかな。もう。




「アーロンの手は・・・その、『熊』みたいだな。ごつごつして硬い。不味そうだ・・喰ったら。」


「なんだよ、熊って??つうか、食べる系?」




アーロンは、私の軽口を簡単に流すとふわりと笑って歩き出した。不意に胸がきゅっと締め付けられるような気がして、思わず顔を顰めた。


なんだろうなぁ・・・この感情。




「どうした、フローラ?」


「いや・・・何でもないよ。」




姿は変われど、男友達と手を繋いでキュンって・・・・。




「なかったことにしよう、うん。」


「何をなかったことにするんだ?」


「アーロンは、気にしなくていいから。さあ、早くライナード兄さんのところに向かいましょ。」




私たちは手を繋いだまま、稀代の魔法使いの部屋に向かった。

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