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第12話

「ああ、アーロンは、フローラ姫を心から愛していたよ。まあ、姫と騎士という身分では叶わぬ愛だっただろうけどね。だからこそ、自らあの台座に登ったのだろうよ。その死で、愛する人が生き返るのなら本望とでも思ったのだろうね。そして、術式の発動条件は満たされ作動してしまった。」




私はライナードの言葉を聞き終えると、独り言のように話し始めていた。話しながら、何が起こったのかちゃんと整理して理解したかったから。




「魂が異次元を超える、古代魔法『異次元転移』・・・・それが、たまたま私たちの教室の床で発動してしまったってこと?そんな偶然・・・でも、そうとしか考えられないか。そうして、私たちの魂は、異次元のゲートを超えてこの異世界に来てしまった。ん、まって。ライナードが、上がろうとしたのはアーロンが横たわっていた台座。なら、この古代魔法の中心部は、アーロンが横たわっていた台座の上って事になるよね。」




私の疑問に明るく答えたのはライナード。




「そう、大正解!!中々鋭いね、フローラ姫。アーロンの魂はゲートを超えて今アーロンの中に入っている人間の魂と入れ替わっていると思うよ。本物のアーロンが向こうでどんな生活を送っているか興味深いよ。全くもって・・・私が行きたかったよ、異世界に。」




その話を聞いて、結城が顔を顰めた。




「おいおい、じゃあ今アーロンの魂は本体の俺の中にいるっていうのかよ。ぜって、大混乱間違いなしだろ。・・・ん、となると、本体の高橋の中にはフローラ姫の魂が入っているのか?それも、大混乱だろうな。」




その疑問は、即座にライナードによって否定された。




「それは、不正解。残念ながら、死んだ人間に魂はないから、そのタカハシ君の中には何もないと思うよ。つまり抜け殻だね。フローラの中に入っている君は、発動した術式に巻き込まれる形で本体から魂が抜け出てこの異世界に来てしまったんだよ。そして、ラッキーにも我が妹の中に入り込んだ。怪しまれないように、フローラの台座にも術式を丹念に書き込んでおいたからね。それが呼び水になったのかな?まだまだ、古代魔法は奥が深いねぇ。分からないことも多い。研究のし甲斐があるよ。」




呑気なライナードのそんな言葉など、私は最後まで聞いてはいられなかった。私はいつの間にか青ざめて小刻みに震えていた。横に座っていた、アーロンが肩を抱き寄せてくれたが震えは止まらない。




魂が空っぽになった私の本体はどうなった?




「高橋・・・大丈夫か?」


「結城。ごめん、たぶん・・大丈夫じゃない。ライナード、教えて。私の、本体はどうなったの?」




ライナードは、ためらうことなくはっきりと宣言した。




「死んだね。間違いなく。」




次の瞬間、アーロンは立ち上がりライナードの頬を殴り飛ばしていた。ライナードは派手に吹き飛ばされ、背後に積み上げた書物の塊にぶつかったが、しばらくすると全然平気な様子で立ち上がった。衝撃でメガネが吹き飛んでいたが、その顔に傷はなかった。




「あー、びっくりした。急に殴りかかるなんて、異世界人は乱暴だな。魔法防壁を張るのが遅れちゃったじゃないか。眼鏡が吹っ飛んじゃったよ、もう。」




ライナードは、前髪をかき上げてアーロンを軽く睨み付けた。その顔は、長兄に似て端正なものだった。でも、その眼はどこまでも深い闇をたたえていた。


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