第11話
「カラン兄様を騙したのね。・・・で、隠れてあなたはどんな研究をしていたの?」
「君は相変わらずカラン兄さん派だなぁ。私には相変わらず厳しい。といっても、今は中身はフローラではないはずだから・・・どういう変遷でそうなったのかな。興味深いね。」
「話の続きを。」
「そう、最大のチャンスが巡ってきたんだよ。君が、フローラが死んだんだ。この時をおいて術を成功させる機会はなかった。カラン兄さんには君を生き返させるためには、千人の人間の死が必要だと伝えた。そうしたら、すぐに用意してくれたよ。まさしく、兄妹愛だよねぇ。」
「千人?」
私の疑問に結城も引っかかったのか、口を開いた。
「ちょっと待てよ、ライナード。確かに術のために人は死んだが、あの部屋に千人もいなかった。せいぜい、八十か九十人ってところだろう。」
奴隷たちの死。百人の死でも眩暈がしたのに・・・千人の死なんて実感も湧かない。
「あの部屋にはいなかったからね。でも、あの部屋のちょうど真下に地下牢があってね。奴隷の背中に術式を刻んだ焼きごてを当てて印を刻んだんだ。地下牢には酷い悲鳴とうめき声で溢れていたよ。皮膚の焼爛れる匂いが充満してまあ・・・最高に、興奮したよ。」
「変態が!!」
私がそう叫ぶと、ライナードは悪びれることなく微笑んで見せた。
「全ては、君たちの世界に行きたかったが為なんだよ。千人の奴隷たちの命を引き換えに術式は完成し、異次元へのゲートが開くはずだった。禁忌の古代魔法『異次元転移』。肉体は渡れなくても・・・精神は渡れたはずなんだ。だが、アーロンが全てを台無しにしたんだ。」
ライナードは急にぼさぼさの頭を掻きむしって、憎らしげにアーロンをにらんだ。
「俺?俺が、何を台無しにしたって?」
アーロンは不機嫌そうに聞き返す。ライナードは平静を取り戻すとぼそぼそと話し始めた。
「台座が二つあの部屋に用意されていたのは覚えているよね?あの台座には、フローラと私が横たわるはずだった。だがまあ、今から考えるとその理由付けが不味かったんだよね。私も興奮していて、冷静ではなかったらしい。私はこう周りに言ってしまったんだ。」
「・・なんて言ったの?」
「『奴隷の命だけでは、妹は蘇らない。蛮族の命では足りない。本当に妹フローラ姫を心から愛する気高き魂の人間がその命を捧げなければ、この術式は完成しない』とね。そうして、私がその犠牲となろうと名乗りを上げたのだよ。なかなか、泣かせる場面だろ?」
「・・でも、上手くはいかなかった?」
「そう、予想に反して止められてね。台座に登るのを無理やり引きずりおろされたのだよ。第二王子は障害で5歳程度の知恵しか持っていないから、第一王子に何かあれば、第三王子の私がこの国を継がねばならないからと言ってね。私はこんな小さな国には何の興味もないのにね。私が欲しかったのは異世界の触れたこともない知識だった。それが欲しかっただけなんだ。」
「でも、台座に登ったのはアーロンだった。」
「俺は・・・アーロンは、フローラ姫を愛していたのか?」
不意に、結城が言葉をはさんだ。その声があまりに真剣だったので、私の鼓動がすこし弾んだ気がした。ライナードは静かに頷く。




