わき道―その1
どうも、もんたです。
今回は本編ではありません。
気が向いたので他者視点で書いてみました。
いわゆる幕間、の話ですが本作では「わき道」と銘打ちます。
それでは、どうぞ。
≪フリオニール・シャンドラ視点≫
オルガさんの家を後にし、森の外で待たせていた馬車へ向かう。
マットが薬を運んでいるので、斥候役として連れているダリアが付かず離れずで護衛をしてくれている。
そもそもマットも護衛なのでわたしが荷物を持つと言ったのだけど…
主が荷物番など!と押し切られてしまった。
いや、…ニヤニヤしていたからさぼりたかっただけだろう。
まぁ、この辺りには強力な魔物は出ないので、特段問題があるかと言うとないのだが。
オルガさんの家で少々話し込んでしまったこともあり、待たせてしまったのだろう。
御者も席にねころんで眠っているところだった。
わたしは苦笑いを浮かべながらも起こさないよう静かにマットたちと荷物を積み、乗り込んだところで彼に声をかけた。
「待たせてすまないね。用事も済んだ、馬車を出してくれるかい。」
「…っと。すいません、シャンドラ様。ついつい…出発します。」
彼が馬の背をたたくと、待ちくたびれたと言わんばかりに動き出し、徐々にスピードを上げて走りだす。
小屋はフリオニール領の北西部に位置し、森の入り口から歩いて1時間といったところ。
ただし、これはマットやダリアのような日頃から訓練を積んでいるようなものたちの話であって、本来であればさらに時間がかかる。
フリオニール領において、【トバ大森林】は貴重な資源を生むエリアではあるものの、領地のおよそ3分の1を占める広大な森の多くはいまだ未開拓となっている。
未開拓部分が多い点は、フリオニール領以外でも共通事項としてあるのだが。
領主によって森林への対応はまちまちではあるが、わたしは比較的積極的に探索を行っている部類に入る領主だ。
護衛騎士団の訓練にも丁度よいとの理由から定期的に森へ入り、未踏破エリアへの進出及び危険な魔物の討伐を行わせており、そのおかげで領内では薬草や果実をはじめとして、魔物の素材など森林からの恵みを多く受け取っていた。
「シャンドラ様。彼をどうみますか。」
「ん?…あぁ、マルク君のことかな?どう、とは?」
「街には来ると思いますが、将来どうするだろうとお考えですか。俺としては、彼に狩人の素質を見たので、ぜひとも護衛騎士団もしくは兵団に入団してもらいたいなと考えてはいるんですがね。彼が居れば大森林の踏破も夢じゃないですよ。」
トーカの街には護衛騎士団と護衛兵団という二つの兵団が存在している。
護衛騎士団とは名前の通り、一応の領主であるわたしの護衛を中心としており、主な拠点をトーカの街と定めている。
約100名程度の規模ではあるものの、一人一人が対魔物対人でそれなりの経験を持っている精鋭である。
一方、護衛兵団の対象は領内全域であり、各地の町や村を巡回しながらはぐれの魔物や盗賊の討伐、小さいものなら町内のいさかいまで幅広く対応するいわば自警団のようなものであった。
各地をまとめるのは長年護衛兵団に所属しているものか、護衛騎士団を何らかの理由で脱退したようなベテランたちで、案外まとまりは強い。
そんな二つの兵団をまとめ上げるのが護衛騎士団団長の仕事であり、その任についているマットの実力は相当なものであったりもする。
豪快な性格のおかげか提出する書類が適当過ぎて、ほぼ毎日のように文官に怒られるか小言を言われているが…
誰にでも短所はあるものだ。うん。
「さて…僕に未来予知の力はないからなんとも言えないけど、兵団入りはないんじゃないかな。そんなに戦いが好きなタイプではないだろうし。僕個人としては、彼の腕前よりも薬師としての実力の方が気になるね。棚に置いてあった、マルク君作成の回復薬にいくつか《物質鑑定》をかけさせてもらったんだけどね、どれも品質は通常か高品質でそろえられていたよ。」
「もし、あれを彼が平均的に作れるんだとしたら、ぜひとも街でお店でも出してほしいところだ。街の薬師の中には5年やっても高品質な薬を1割作れれば上等、なんて人もいるんだから。」
「そうですにゃ。10歳であれだけの薬が作れるのにゃら、成人するころには国内有数の薬師になってると思うにゃ!」
屋根の上で周囲の警戒に当たっているダリアが小窓から頭だけ出して話にのってくる。
逆さになった赤い髪が耳と一緒にゆらゆらとゆれている。
両手を頭の後ろに回しているため、馬車が大きく揺れれば振り落とされてしまいそうだが。
「そうだね、僕もそう思う。このままオルガさんの指導を受ければ、彼はこの領地、いや、この国にとって重要な人物になるかもね。そうなった時のために、それなりに準備をしておかなくちゃいけないかなぁ…」
「いっそのこと、マルク君とソラリア様が結婚しちゃえばいいにゃ!」
「おいおい、父親の前でそれを言うかい?まぁ、考えてないのか、と言われれば考えている手ではあるけどね。でもそれは最終手段。そんな風にマルク君を縛り付けたいと思わないし、何よりそんな風にして無理にマルク君を捕まえると、保護者が黙ってないよ?」
「 あぁ…それはマズいにゃ…今のはにゃかったことにしてにゃ。」
そういってダリアは頭をふわりと浮かせて窓から消えていく。
その後もマットやダリアと世間話をしながら帰り道をのんびりと進んでいった。
森の入り口からトーカの街まではおおよそ2時間。
やっと街の外壁が見えてきた時には、小屋を出たころはうっすらと赤かっただけの空もうす暗くなってきており、外壁の上に取り付けられた松明に明かりがともされている頃だった。
わたしは検問所の兵に声をかけるため、一度馬車を下りた。
ふと横に目をやれば、街の門をくぐるための検問待ちの列がめにはいった。
「おつとめご苦労様。何か変わりはなかったかい?」
「はっ!おかえりなさいませ、シャンドラ様!平常通りでございます。…まぁ、いつも通り酒場で冒険者同士の軽い喧嘩が起きたくらいでしょうか。」
「はは、それはいつも通りだ。安心したよ。検問待ちがはけるのはもう少しか。薄暗くなってきているからできる限り急いであげてくれ。街目前と行っても野宿は大変だろうから。」
「承知いたしました。検問にあたる人員を増やしましょう。おい!下に降りて少し手伝ってくれ!」
外壁の上で見張りをしていた数名が呼び声を受けてあわただしく動き始める。
それに合わせるようにマットも手伝うとのことで検問の列へ向かっていった。
おい、護衛はどうした。
護衛は。
まぁ、街に着いたからいいだろうということなんだろうな。
「適当なんだから…そうだ、ダリアももう大丈夫だよ。」
「にゃ?そしたらわたしも帰らせてもらいますにゃ。シャンドラ様、お疲れ様にゃ。」
「うん、護衛ありがとう、ダリア。報酬はいつものようにギルドで受け取れるようにしておくから明日にでも受け取ってくれ。」
報酬とのキーワードを受けて嬉しそうに尻尾を揺らしたダリアは、家路を急ぐ人波へさっそうと消えていった。
「さて…わたしたちも屋敷へ帰ろう。あと少し、頼むよ。」
「かしこまりました、シャンドラ様。」
流石に街中で走らせるわけにはいかないので、駆け足程度の速さで屋敷へと向かっていく。
馬車に彫られた家紋からフリオニール家だと分かるため、あちこちから声が聞こえてくる。
そんな声に笑顔で手を振りながら、わたしは今日の出来事を振り返っていた。
「ソラリアにいい土産話が出来たな。マルク君にはぜひとも学園に来てもらってソラリアと仲良くしてほしいものなんだけど…。ソラリアにも貴族云々の関係ない友だちが一人はいた方がいいと思うんだよなぁ。」
シャンドラは娘の将来に思いをはせることで、明日以降手に入れた例の薬がもたらす酷く億劫な対応を頭の片隅においやって現実逃避を決め込んだ。
ひとまずは、家に帰り、愛する妻と娘との楽しいひと時を満喫するのだ―――
ここまで読んでいただきありがとうございました。
先週から一気にブックマーク数が増えていました!
びっくりです。笑
少しでも評価していただけているんだなと嬉しい気持ちでいっぱいです。
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