第4節『調合』
こんにちは、もんたです。
やっと更新できました。
更新ペースに関しては活動報告にて改めて。
それでは、どうぞ。
「はい。それでは後ほど。マルク、よろしくね。」
そういって母さんはテーブルのカップやらお茶請けやらを片付け始めた。
しまった。母さんのクッキー食べ損ねた…おいしいのに。
ちょっとしょんぼりしながらシャンドラさんたちを地下の調合室に案内する。
調合室は、きっちり正方形に作られていて、壁はダマスカス鋼とかいう特殊な金属でコーティングされているので、大抵の衝撃では壊れないようになっている。
母さんはドラゴンが暴れるくらいしないと壊れない、なんて言ってたかな。
ドアがある以外の壁には天井まで届く棚がびっしりと置かれていてドアから見て左は母さんの棚、右手が僕の棚で奥は素材管理用の棚と区別されている。
右隅の扉の先には似たような部屋があるんだけど、そのまま置いておくと危険な素材をいれておくような倉庫なので今回は説明にとどめておく。
…何も知らずに入ると本当に危ない。
小さい時に母さんに黙って入った後、バレた時は本当に怖かった。
このままだと何も見えないので、壁に取り付けてあるスイッチを回す。
すると天井にぶら下がっているランタンが一斉に光りだす。
このランタンも《魔道具》の一つだけど、ありふれた照明器具なので結構安く手に入るとのこと。
部屋の中央に置いてある調合甕に火にかけ机に薬品たちを並べている間に、シャンドラさんたちは各々物珍しそうに棚に置かれているものを眺め、あれこれと盛り上がっていた。
「こちらが調合室です。基本的には好きに見てもらって構いませんが、その棚の下2つの段に置かれている物にはぜっっったい触らないようにお願いします。一歩間違えると危ないのがありますので。
…あ、ダリアさんが見てるのは爆薬ですので、落とさないでくださいね。」
「「「!!??」」」
「!?ににゃ!こ、これ爆発するのにゃ?」
「はい、色々試してたら完成したものです。その試験管を地面に投げつけるとボン!っといきます。地属性初級魔法のちょい強いくらいの爆発ですかね。」
「試してたら、って…結構危にゃいレベルのやつだにゃ?マルク君、なんでこんにゃ物騒なものを…」
ダリアさんが恐る恐る薬品を棚に戻したあと、三人が爆薬(魔法薬)入り試験管をまじまじと眺めている。
本当にたまたま、なんだよね。
その爆薬が出来たの。
本当は地属性魔法である《アースランス》が込められた《魔道具》もどきを作りたかったんだけど、魔法としての形を取るのが難しくて、結局属性魔力が込められただけの薬、もとい爆弾になっちゃった。
これを外で試したときは母さん、本当に呆れたって顔してたなぁ。
でも、これはこれであらかじめ魔法が込められているから、《魔道具》的な感じで魔力不足の時でも使えるし便利だと思うんだけど…
森へ行くときは、母さんお手製の回復薬と一緒にポシェットにも必ずいれてる。
「マルク君、これは回復薬だよね。隣にあるのは強壮薬。」
「そうです。その壁にある棚のものは全部僕が作ったものです。まだまだ修行中の身なので母さんのように質のいいものを安定して作ることはできないんですけど。シャンドラさん、こちらが母さん作の薬です。とりあえず、回復薬と強壮薬は20本ずつ。解毒薬、解麻痺薬、解眠薬、解石化薬は10本ずつ入れてありますが、まだ必要ですか?」
「いや、十分だよ、ありがとう。そうそう、マルク君はまだまだ修行中といっていたけど、みたところ街のギルドで扱っている回復薬と遜色ないように思うよ。それと、マルク君が一番よく知っているとは思うけれど、オルガさんの薬は本当に質がいいんだ。街で売ろうとすると結構な額になるからまず初心者冒険者には手が付けられないし、そんな額でも効果が保証されているから中級冒険者は勿論、貴族や商人が欲しがるような品物なのさ。」
え、そんなに?
「でもそうやって薬が高額になっていくのを防ぐためにあえて大多数を名前を出さずに街に卸してくれているんだ。いつも『私はお金があっても使いどころがありませんので。』って言ってね。オルガさんは本当にすごい人なんだ。領主として頭が上がらないよ。
…少し話がそれてしまったね。何が言いたいかと言うと、回復薬は街になくてはならないものなんだ。だから、もしマルク君がオルガさんと遜色ない薬を作れるようになるのなら、薬師として食べていけるよ。まぁ、僕は冒険者じゃないから使用感とかはわからないんだけどね。ダリア、どうかな?」
「う~ん。わたしも使ってみにゃいことには分からにゃいにゃ。いっそのこと、ここでマルク君の薬を買い取って実際に使ってみてもいいにゃ。問題にゃければ、今からでもお小遣い稼ぎにはにゃると思うにゃ。」
「いや、回復薬使う時って怪我した時ですよね。そんな危ない時に実験するわけにはいきませんよ。それに効果ならそれなりってのはわかってるんです。母さんから習って《物質鑑定》の魔法は使えるので。」
なんて雑談をしてると母さんが調合室に入ってきた。
シャンドラさんたちに簡単な断りを入れると、僕が採ってきたケコの実に《物質鑑定》をかけ始める。
状態の良いものを選別して少しでも薬の品質を高めるための母さんのいつもの準備。
今回作る滋養剤のレシピは見たことあるから作り方は知っているけど、実際に作ったことはない。
素材であるケコの実が結構レア素材だから。
ケコの実とは、ケコという植物が花をつけたあとに出来る果実で、この植物がなかなかに特殊。
というのも、他の植物に寄生して育つ寄生化植物であり、実が熟したのちに実を割って種を露出させ、その種が独特な匂いを出して鳥を引き寄せることで、食べさせて糞として運ばれた先でまた育つ、っていう特定の生息範囲を持たない植物。
こういった固定の生息地を持たないような動植物を見つけ、入手するのは個々人の運次第である。
「マルク、今から滋養剤を調合します。レシピは頭に入っていますね?
…よろしい。本来なら調合後、日数が必要ですが、シャンドラ様方は本日お帰りにならないといけません。夜森を出歩くのは危険ですから、《精製》を使用して、一気に完成させます。こちらに関してはまず、みて覚えなさい。一度で覚えろとは言いません。調合の流れを理解しているマルクならば、《精製》で何をしているか分かるでしょうから、練習次第で使えるようになるでしょう。それでは始めます。シャンドラ様方、念のため少々お下がりください。」
シャンドラ様たちがしっかり甕から距離を取ったのを確認して、母さんは調合を始めた。
甕が温まっているのを確認して、いつも通り蒸留水と中和剤――調合に基本必須な薬で、複数の素材を混ぜ合わせる時の仲立ちに使うもの。「基本」といったのはぶっちゃけなくても調合が出来るからだけど、これなしで作ると品質が安定しない――を加え、レシピに従って回復薬と強壮薬をいれていく。
母さんの使う素材はすべて自身で用意したもので《物質鑑定》ではだいたい最高級品とか、高品質とかってでる。
僕が作る薬の品質はだいたい普通で、最近やっと高品質な品質のものが出来るようになってきたレベル。
下地となる材料を入れ終えて、軽くかき混ぜたあと沸騰を待つ間にケコの実の下処理に入った。
ケコの実の種から出るエキスを取り入れることで滋養剤になる。
部屋の中にほんのりのケコの実の匂いが広がっていく。
地下とはいってもきちんと喚起口はあるのですぐににおいはなくなるとはいえ、なかなか強烈なにおいだ…
母さんはそんなことを気にすることなく素早く種を取り出すと他のいくつかの薬草と一緒に薬研――薬をすりつぶす道具で円盤を転がして粉末にする道具――で粉末に変える。
それらを沸騰してきた甕に遠慮なくぶち込んで、さらにひと煮立ちさせて、やっと一息。
机の上に残っているゴミ類をどこからか現れたアドラーが吸収していく。
「いいですか、マルク。ケコの種は実から取り出すとにおい成分が空気と反応してどんどん効果が薄くなってしまいます。滋養剤を作る際は直前まで種を取り出さないこと。そして種を取り出したらすぐに粉末にして効果が薄まらないうちに調合甕に入れることです。薬効成分全般に言えることですので、他の薬草も処理は手早く、正確にです。」
「うん、わかってるよ。何度も言われてるしね。それで、ふと思ったんだけど、他の薬草も採取してから時間が経つと効果が薄くなるってことだよね?本当は採取直後からなんかした方がいいってこと?」
「その通りです。エルフの里では薬草採取の時は空間魔法のかかった背負子や袋を使用しています。採取したらすぐにそれらに入れるのです。一部の空間魔法には時間停止の特性があるので、その中に入れておけば腐らず、劣化せずの状態で保管が出来るんですよ。だからと言って薬草の採りすぎは環境を壊しますし、薬の値段を暴落させるだけなので必要な分だけ、というのは変わりません。」
「便利な道具があるんだね。母さんはその道具は持ってないの?」
「えぇ。それらは《魔道具》ですから、持ち出しは厳禁です。勿論、街中にある道具屋や魔道具やに行けば簡単に手に入るのですが、高価で手が出ません。買えないこともないですが、そこまでして薬草をストックしても使いどころもありませんので、不要です。
…さて、頃合いですね。ここから《精製》を使用します。」
現状、調合甕の中身は混ぜただけの状態。
薬の調合には、
「調合、調律、抽出、最適化」
の基本の4ステップがあって、母さん曰く《精製》は後半の「調律」と「抽出」の2ステップをまとめてやってくれるものらしい。
言葉だけだとなんだそんなもん?と思うかもしれないけど、それは大きな間違い。
「調律」とは素材と素材の結び付きを強くする工程なので、これを省くと薬の効果が弱くなってしまう。この工程を進める際に手助けをしてくれるのが中和剤なんだけど、素材が増えれば増えるほど、「調律」には時間がかかる。
「抽出」の工程は文字通り、薬の成分を引き出すための工程で、高品質な薬はすべてここにかかる時間が一番長い。「調律」を終えた段階で薬としては出来上がってるんだけど、そのまま瓶詰めしてしまうと余計なもの(大体は水分)が多く含まれ過ぎていて効能は最低レベルで、ひどいものだと効果0なんてことになってしまう。そこで、短くても1時間、長くて2~3日位かけて甕が自然に冷え、薬効成分が沈殿するのを待つ、というのがこの工程。
ちなみに、「最適化」の工程なんだけど、ぶっちゃけこれはなくてもいい。というのも作成した薬を丸薬にしたり、粉末にしたりと液体以外の形にしたいときに行う工程だから。例えば、瓶詰するような回復薬や解毒薬なんかにはこの工程は必要ないってこと。今回は滋養’剤’として丸薬に固める作業があるのでこの工程が必要になる。
「調律」と「抽出」はどちらの工程も地味なんだけど、良い薬を作る上で妥協できないし、ここに関しては母さんと意見が一致してる。
せっかくなら良い薬を作りたいじゃん。
レシピによれば、滋養剤の調律と抽出には3日かかるって書いてあるけど、そんなの待てないよね、ということで魔法の出番です。魔法、便利。
「よく見ておきなさい。…いきます。」
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
なんとか明日も更新したい…
一日24時間では足りないのだよ…ッ!