第2節『薬師、であう』
こんばんは、もんたです。
遅い時間の更新ですいません。
今週末時間がとれるか不明だったので、本日投稿となりました。
それでは、どうぞ。
水がめを抱えながら帰り道を歩いていると、ちょうど半分くらいのところでアドラーに合流できた。
水がめが重くて遅いのもあるけれど、いつも文字通り道草食いながら帰ってるからだよね。
アドラーは、ちょこちょこ道に生えてる草花を吸収しながら帰るのが癖になっている。
この辺りには母さん特製の肥料が撒かれていて、成分の濃い薬草が生えてることが多い。
アドラーはそういった薬草を適度に間引きながら、家に帰り、専用の樽に精製した薬を吐き出して僕や母さんの手伝いをしてくれる。
そんなこんなでやっと家に到着。
裏口を開けると直接台所なので、水がめを釜の横に並べておく。
アドラーにご飯代わりの残飯をあげて、一息ついているとリビングの方から笑い声が聞こえてきた。
今日は来客があるって言っていたかな?
水がめを覗き込みながら軽く身だしなみを整えて部屋の方へ向かうとはっきりと話声が聞こえてきた。
「そうですか、ドラコニア様は不在でしたか。」
「ええ、せっかく訪ねてもらったのに申し訳ありません、シャンドラ様。山道も大変だったでしょう?」
「いやぁ、来る日も来る日も書類整理ばかりですからね。いい気晴らしになりましたよ。そもそもこの辺りは強い魔物も出ませんし、万が一のための護衛つきですから。それに、オルガさんが謝ることはありませんよ。事前に手紙を送るか何かしておけば確実だったとは思いますが、あのお方も忙しいでしょうしね。」
「そうだ、代わりと言っては何ですが、よろしければ薬を売ってもらえませんか?」
「構いませんよ。わざわざ来ていただいていて収穫も何もなしというのは申し訳ありませんし。街に卸す手間賃がかかりませんから、その分、街の値段より少しだけお安くしておきますね。」
「おおっ!それはありがたい!」
あ、これは知ってる人の声だ。
「ただいま、母さん。水汲んできたから台所に置いておいたよ。」
「あら、マルク、おかえりなさい。どうして裏口から?」
「水がめもって玄関から入りたくないよ。シャンドラ様、こんにちは。」
「やぁ、久しぶりだね、マルク君。ずいぶん大きくなったね。」
「シャンドラ様がマルクと会うのは二年ぶりくらいでしたかね?この二年ですっかりやんちゃものになってしまって…」
「あははは、そう言わないでくださいオルガさん。マルク君ももう10歳でしょう?多少元気な方がいいですよ。僕がマルク君くらいの頃は部屋にこもって本ばかり読んでましたから。うちのソラリアにもその元気っぷりを見習ってほしいものです。」
そうだそうだ。シャンドラ様、もっと言ってあげてくださいよ。
この人は、フリオニール・シャンドラ侯爵。
サドニア王国の南西部に位置するフリオニール領をまとめる領主様で、僕と母さんの住む山小屋もフリオニール領内にあることになっている。
「なっている」というのは、【トバ大森林】は広いうえに未踏破エリアもあるため、森林内で細かい境界線をひくことができないからだ。
一応、森と平地の境目あたりは各領主が指示する兵団や冒険者たちによって軽く間引きがされるので、ここは○○様の領内、ここは△△様の、というようなそれなりの区分けはある。
シャンドラ様はまだ20代後半くらいの年齢。
領主としては非常に若手になる。
というのも、シャンドラ様の父であり先代の領主様が以前から患っていた病により倒れてしまったから。
まだ存命とはいえ、政はもちろん、軍事云々と口を出せる状態ではないため急遽シャンドラ様が領主となったらしい。
「あ、そうそう。両脇の二人を紹介しよう。右にいるのがマット。剣の腕は領内一かな。領地の護衛団長を務めてくれている。左の女性はダリア。僕が居るトーカって街を拠点にしている冒険者さんだ。確か斥候だったかな?見てわかる通り、猫人族。とっても優しい人なんだよ。」
「マットだ。よろしくな。マルク君、見たところそれなりに腕が立ちそうだね。どうだい、軽く手合わせしないか?獲物は弓矢かな?それとも腰の短剣?どっちでも問題ないぞ!」
「マットさん、そうやって強そうにゃ人見つけるたびに声かけるのやめるにゃ。彼、困ってるにゃ。はじめまして。わたし、ダリアって言うにゃ。シャンドラ様が言うように冒険者をしてるにゃ。よろしくにゃ。」
マットさんは、鉄製のフルプレートを身に付けた、30代前半くらいの偉丈夫。
細身のシャンドラ様との対比で一層大きく見える。
濠が深くはっきりした顔立ちで、よく日に焼けた顔にオールバックにかきあげた金髪が良く似合っている。
身につけているフルプレートにはところどころ戦いでできたであろう傷があるけれど、よく手入れされていて立ち振る舞いも油断ならない人だ。
背中に背負ってるのは盾かな?
腰に差してるロングソードは、鞘に納められているけど、かすかに魔力を放っているように見える。
こういうときは…
《物質鑑定》
――発動。
破邪の鋼鉄剣(切れ味上昇)(耐久上昇)…
刃の部分に少量のミスリルを混ぜ込んである片手剣。
ミスリルを配合してあるため、アンデット系の魔物に効果的。付与魔法済。
おお…
これはきっと、いや間違いなくお高い武器だ。
配合はれているミスリルは非常に貴重な金属で、魔力との親和性が高いことで有名。
その特性から魔法や魔法陣の発動用の媒介になったりするけれど、とにかく流通する量が少ないのでほんの少しでの量でも大金になる。
それだけ需要があるのになかなか流通量が増えないのには勿論理由がある。
どこで掘れるのかわからないのだ。
もっとも有力視されているのは、
「特定の金属が一定期間魔力を浴び続けることでミスリルに変化する」
というもの。
特定の金属とは何か、一定期間とはどれくらいかなどなどつまるところ何もわかっていないのだ。
一方、ダリアさんは、20代くらいの若い女性。
肩くらいで切りそろえられた赤髪。
そんな派手な髪色よりも注目を集めるのは、頭の上にぴょこっとはえた茶色の耳。
ダリアさんが僕の方を見てにこっと笑うのと同時に耳がペコっと動いた。
同じ色の尻尾が腰のあたりから伸びてふよふよしてる。
おお、耳に尻尾だ。
家にある本で、そういった人間以外の種族の存在は知っていたけど、実際に見るのは初めて。
黄色い瞳は夜中に見つけたらちょっと怖そうだ。
白いタンクトップと褐色の肌のコントラストが綺麗で、ホットパンツからのびる健康的な脚はどうしても視線を惹きつける。
マットさんもダリアさんも外に出ていることが多いから日焼けしやすいのかな?
それともダリアさんの場合は種族的なものあるのだろうか。
「マットさん、ダリアさん、はじめまして。マルクと言います。今年で10歳になりました。母さんに習って薬師の勉強をしています。」
「マルク君、ちゃんと飯食っているか?もっと食って訓練をしてでかくならないと剣士にはなれないぞ!ガハハハハ!!」
「あはは…今のところ剣士になる予定はないですね。でも森で暮らすからにはもう少し狩りの腕くらいは磨かないといけないとは思ってます。」
「それにゃら、冒険者はいかが?冒険者は基本的には魔物狩りか採取をして暮らしているわけだし、薬師としての力のあるマルク君にはオススメだと思うにゃ!それに領主様の兵団に入ると自由には動けにゃいけど、冒険者ならどこに行こうが何をしようがマルク君の自由にゃ。美味しいものや綺麗な景色や、世の中には楽しいこといっぱいにゃ!」
う~ん、確かにな。
将来のことなんて全く考えていなかった。
このまま森の中でのんびりと母さんと暮らせればいいやくらいに思ってたし。
剣士として生きる気は全くない。
そもそも、僕が鎧をつけているイメージがわかない。
でもダリアさんの言うように冒険者はいいかもって思えるな。
今の生活と大きく変わらないし。それどころか色んな所に行けて面白そうだもん。
「そうだね、ダリアの言うことは正しい。それは冒険者の醍醐味と言ってもいいだろう。でもね、マルク君。何事もいい面ばかり見てはいけないんだ。何か一つの事柄に対してこれは良いと思えることがあったら、同時に自分にとって悪いことがないかも考えておく必要があるんだよ。そうしないと何か拍子に手痛いしっぺ返しを食らうことになるからね。」
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