プロローグ-2
どうも、もんたです。
プロローグ続編です。
「ぐっ、、、いったい…何が……」
意識が飛んでいたのか。
身体中がズキズキと痛む。
おそらくなんらかの攻撃を受けて馬車から投げ出されてしまったのだろう。
重い瞼をあけると周りには私たちが乗っていた馬車の欠片や積荷が散乱しているのが見えた。
私は身体に覆いかぶさるものをわきへどかし、差していた剣を支えに何とか立ち上がった。
よく見れば身体のあちこちに小さな木片が刺さっている。
あの大爆発の中よくこの程度で済んだものだ、、、と、その時、足元で何かがうごいた。
「なっ…リ、リリー!!おい!返事をしろ!」
覆いかぶさっていたのはリリーだった。
彼女の背中にはおびただしい数の木片が突き刺さっていた。
腕には大事に抱えられた赤ん坊。
運がいいことに私とリリーに挟まれ無傷で済んだようだ。
あれだけの衝撃にも関わらず声も上げず眠っているのだから将来大物になるかもしれないなと余計なことを考えるくらいに、その寝顔は清らかだった。
「うっ…」
「リリー!大丈夫か!いや…大丈夫ではないな、この傷では。少し待て、確かポーチに回復薬が――」
ごちゃついたポーチを探る私をなだめるようにリリーは声を上げた。
「いら、ないわ……もう、長くないもの…」
「馬鹿言うな!エリクシールこそないが、上級回復薬ならそれなりに入っている!木片を抜いて回復薬をかけよう。体力や血は戻らないが傷を防ぐことはできる。」
「自分の、身体よ?じぶんでわかります、とも。血が、たりないわ。回復薬が勿体ない……それより、ジルドは…わたしたちの、子は…?」
「あ、ああ、無事だ。リリーのおかげさ。怪我もないよ。ほら、静かに眠っているだろう。」
私は息子の顔がリリーに見えるように抱き上げた。
リリーは息子を見つめると安心したように穏やかにほほ笑み、雨でぬれた彼の髪を整えながら、再び私に目を向けた。
「リオ、逃げて…この子を…ごめん、ね…母、としての、つとめもはたせず…」
「ダ、ダメだ!リリーも一緒に!!もう喋るな。今治療するから。」
「あぁ…ジルド。ごめんなさいね、あなたを育ててあげられないなんて…ひどいわよね…でも、どうか、どうか…しあわせ、に――」
「お、おい、リリー…?リリー!!目を開けろ!!この子を一緒に育てるって、立派に育てるって約束したじゃないか!!約束を守れない人間は嫌いなんだろ!?リリー!!」
息子を撫でていた彼女の手がゆっくりと地面に落ちていく。
閉じた瞼の隙間から一筋の涙が流れていく。
母が撫でるのを辞めたことに気付いたのだろうか。
息子がぐずりだす。
そんな時、後方から何かが近づいてくる音がした。
「貴様が……貴様が、やったのか…」
「グルルウゥ?」
ジェノタイガーはさてね、といわんばかりに首をかしげた。
口元にはびっしりと血がこびりついている。
馬車を引いていた馬だろうか。
それとも姿が見えないセルジオだろうか。
どちらにしても、次の獲物はわたしだろう。
剣を支えにして立ち上がり、取り出していた回復薬を飲み干した。
リリーに飲ませようとしたものは頭からぶっかけた。
傷が治り、視界がクリアになっていく。
ほんの少しだけ、ヤツがニヤリと口をゆがめたように見えた。
ヤツは……ヤツだけは…!!
「なめるなよ、魔物風情が……《強化魔法、ハイパワーアップ、ハイガード、クイックネス》――妻の仇だ!!くたばれええぇぇぇぇぇ!!!」
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一体どれだけの時間戦っただろうか。
《強化魔法》を使い、持てる回復薬や罠アイテムをフルに使った。
はじめは拮抗、いや、押していた。
冒険者時代、自分より大きな魔物とやりあうことなど数え切れないほどあったし、勝ちもひろってきた。
…とはいえ、やはり一対一では難しい。
アイテムが切れ、サポートの魔法も魔力が減るにしたがって、戦況の維持が出来なくなっていく。
無茶した身体がきしみを上げ、動くたびに古傷が痛み出した。
今はまだ上手く距離を取りながら戦えてはいるものの、それも限界に近い。
右足の薙ぎ払いを紙一重でかわす。
お返しとばかりに間近に迫ったヤツの右目を切りつけ、距離を取る。
その時ヤツの角先がかすかに光った。
「グルオオォォォォォォオオ!!!!」
「なっ!!がっ…!」
光ったと思ったときには既に視界は白く染まっていた。
馬車を襲った攻撃だろう。
衝撃に耐えきれなかった私は、後方へ吹き飛ばされ、地面にたたきつけられた。
「グッ…カハッ…!!」
…どうやら限界らしい。
立たなくては、戦わなくてはと思うのに身体が言うことを聞かない。
仇をとらなくてはいけないのに…
奥の方からヤツのうめき声が聞こえる。
全身をきりつけ、おまけに両目も潰してやったんだがな…雨のおかげでおそらくやつはまだ子どもに気付いてない。
私はなんとか魔力をひねり出し、ジルドへ《ハイド》の魔法をかけた。
気配を遮断する隠蔽の力を持つこの魔法をかけていればなんとかなるはずだ。
「リ、リリー、すまない。俺も息子を…ジルドを、育てられないようだ……。」
「最後の約束だったんだけどな…あの世でも、君に怒られるのか。ふっ、でも許してくれよ?先に、約束を破ったのは…きみ、だ……」
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目の前の獲物から生気が消えたのを感じたジェノタイガーは興味を失ったように顔をそむけた。
死んだ餌は放っておいても平気だが、生きているものは逃げる前に捕まえないといけない。
とはいえ目はつぶれていて見えないので、ほのかに感じる魔力とにおい感じるべく感覚へ意識を向ける。
何も感じなかったジェノタイガーは、先ほど殺したばかりの人間の死体へ向かって歩き出した。
そこに、一陣の風が吹きつける。
彼は振り向くことが出来なかった。
すでに首が切り落とされていたのである。
ジェノタイガーの巨体はゆっくりと倒れ、切り口からは大量の血と魔力が抜けていく。
上空にはその様子を忌々しそうに見つめる二つの紅い光がぎらついていた。
『やかましい猫め。わが領域を荒らすとは……まぁ良い。これで静かに眠れるというものだ。行くぞ。』
『お待ちください、ドラコニア様。高度を下げていただけますでしょうか。微弱ではありますが、生体反応と魔力反応がございます。』
『ふむ…人間の赤子のようじゃが…?』
『はい。もしよろしければ、拾っても?』
『ほう?お主が研究以外で興味を示すとはな。どういった風の吹き回しじゃ?』
『特には。《魔力探知》を行った際、赤子の魔力に引っかかりを覚えまして。調べれば何かわかるのでは、と。』
『はぁ…なんじゃ。結局研究に行きつくのか。聞いて損したわい。まぁ、良いじゃろう。その代わりお主がきちんと世話をせい。親代わりにはなるじゃろうて。』
『わたくしが母、ですか。なんにせよ、ありがとうございます。』
彼女たちは赤子を抱き上げると、空の彼方へと消えていった。
降り続いていた雨もやみ、雲の切れ間から淡い光が大地を照らしていた―――
お読みいただき、ありがとうございました。
戦闘シーン、もっと細かくかっこよく書いても良かったのですが、そこは本編でのお楽しみ、とさせてください。(さっさと主人公をだしたいだけ)
次回から、早速本編となります!
よろしくお願いいたします。