「ハジマリが始まる」。
「ハジマリが始まる」。
「あっつ…」
季節は夏、真っ盛りの日だった。
僕は無性に西瓜アイスが食べたくなり、歩いて10分のコンビニへ足を延ばすことにした。
コンビニに到着したころには溜め込んでいた水分が蒸発して肌を覆う。汗が気持ち悪い。
目当てのアイスは買えたが、天から降り注ぐ熱い眼差しは確実に帰路に就く足取りを早める。
アスファルトからも熱気が伝わってくる。帰ったら遣り水をしないと。
都心から離れた田舎のため、村の人口はせいぜい100人だ。
後は上京していったり、転居していったり、偶に出戻りしてくる人はいるけれど、殆どは外界で生活してそこで終わる。
蝉とひぐらしの鳴き声が合唱している道を歩いていると何処かの家からニュースが聞こえる。
「本日は、最高気温35度を超える猛暑となるでしょう。水分補給などこまめに取り、熱中症対策を心がけましょう」
淡々と、延々と、事務的な声で、気象情報が耳に入って記憶へ刷り込まれていく。
歩いても歩いても舗装された道。茹だるような暑さは、至ってそれなりに正常な僕の思考を奪っていた。
だから、少し楽をしたくなってしまったのだ。日影が恋しくて、清涼さが恋しくて、ふ、と視界に映ったその場所を見てしまった。
「神社、か」
竹藪に覆われ、何処か薄暗く、ひんやりとした空気を纏いながらひっそりとそこにある、階段。四十段にも及ぶ石の階段を登り切れば、年月を変色した黒い鳥居が現れる。まるでそこだけが現世から隔絶されたような異様さが漂っていた。
今は参拝者があまりいないまつろわぬ神の神域。
幼稚園の頃に遠足で赴いたときには、少し廃れてはいたけれど、管理者が掃除しているので、汚い印象はあまり感じられなかった。
(行ってみようかな…)
好奇心は猫を殺す、なんて言葉もあるけれどこんな真昼間の炎天下で何が起こるわけでもないだろうと思い、軽い気持ちで神社へ向かう。
蝉の鳴き声が響く猛暑の中で、いつもなら行かないであろう竹藪の群生している階段を進んでいく。