連携
またデータが吹っ飛んだ
劉邦は滎陽を出てから成皋に至り、更に函谷関に入った。
彼は兵を集めて再び東進しようとしたが、轅生がそれを止めた。
「漢と楚は滎陽で対峙して数年が過ぎ、常に漢が困窮していました。王は武関から出るべきです。そうすれば項羽は必ずや兵を率いて南に追いかけに来ることでしょう。王は濠を深くして壁を高くするだけで戦ってはなりません。その間に滎陽と成皋一帯は休息を得ることができます。同時に韓信らを送って河北の趙地を安輯(安定)させ、燕・斉と連合してから、王が再び滎陽に向かったとしても晩くはありません。こうすることで楚は備えるものが多くなり、力が分散することになります。逆に漢は休息を得られますので、再び戦う時には必ず楚を破ることができましょう」
劉邦は轅生の計に従って軍を宛・葉の間に出した。道中、英布と共に兵を集めながら行軍を行う。
項羽は漢王が宛にいると聞くと、兵を率いて南に向かうことにした。
「王よ。ここは滎陽と成皋を陥落させ、慰撫なさってからでよろしいのではないか?」
項伯がそう進言した。
「それはなりません。叔父上」
「なぜですか?」
項羽は劉邦が逃げた先を見る。
「天下という鹿を追い、我ら二人は戦っているのです」
項羽は歩き出す。
「あやつが呼んでいるのです」
その歩みはなんと力強い歩みであろうか。
「やつが天下の果てに行こうとも、天下を求めて我らは殺し合う」
項羽は劉邦を追った。
「おめぇら戦うんじゃねぇぞ」
劉邦は営壁を固めてやって来た項羽と戦おうとはしなかった。
漢軍が彭城で敗戦した時、軍が崩壊して西に撤退した。
彭越もそれまでに攻略した城を全て失ったが、一人で兵を率いて北の河上(黄河沿岸)に留まっていた。
そこでしばしば漢の游兵として楚軍を攻撃し、後方で食糧を絶つ行動をした。
「項羽よりは劉邦のがマシだ」
彭越にはそのような感覚があったようである。
この月、漢王と項羽が南方で対峙すると、彭越は睢水を渡って項声、薛公と下邳で戦った。そこで彭越が大勝し、薛公を戦死させた。
項羽は終公に成皋を守らせると自ら東に向かって彭越を撃った。しかしながら彭越という男は逃げ足が早くしかもどこからか兵を集めると挙兵するというしぶとさを持っており、そのしぶとさに項羽は苦しめられることになる。
その間に劉邦が兵を率いて北に向かい、終公を撃破してから再び成皋に駐軍した。
六月、項羽は再び、彭越を破った。
項羽は漢軍が再び成皋に駐軍したと聞くと、兵を率いて西に向かった。
「先ずは滎陽城を落とす」
そう言って彼は滎陽を陥落させ、周苛を生け捕りにした。
項羽は周苛を一目見て気に入ったようで、
「私のために働くならば、汝を上将軍に任命し、三万戸に封じよう」
と言った。しかし周苛は罵った。
「汝が速く漢に降らなければ今すぐ虜(捕虜)になることだろう。汝は漢王の敵ではない」
「ふん、まあ良い死にたければ死ねば良い」
項羽は周苛を烹(釜茹で)に処した。一方、共に守っていた韓王・信は項羽に降伏した。
「周苛……」
(韓王・信とはこういうやつか)
周苛を悲しみつつ韓王・信への評価を下すところが劉邦という男の怖さでもある。
項羽は更に兵を進めて成皋を包囲した。
「拙いな。兵が必要だ」
劉邦は夏侯嬰だけを連れて車で成皋の玉門(北門)から逃走。北に向かって黄河を渡り、小脩武の伝舍に泊まった。
翌早朝、劉邦は漢の使者と称して趙軍(張耳と韓信)の営塁に入った。張耳も韓信もまだ起きる前である。
劉邦は臥室に入って印符を奪い、麾(指揮する旗)で諸将を集めて配置を換えた。韓信と張耳は目がさめてから漢王が来たと知って大いに驚く。
二人の軍権を奪った劉邦は張耳に北方を巡行させて趙の地を守るように命じ、韓信を相国に任命し、まだ徴発していない趙兵を率いて斉を撃たせることにした。
やがて、諸将も少しずつ成皋から脱出して劉邦に従った。
楚が成皋を攻略して西進しようとしたが、そこに劉邦が兵を送ることにした。漢軍は鞏で抵抗し、楚軍の西進を阻止した。
その後、劉邦は兵を率いて黄河に望み、南に向かって小脩武に駐軍した。そこで楚軍との再戦を行おうとしたが郎中・鄭忠が諫めた。
「王は営塁を高くして塹(濠)を深くして守りを固めるべきです。直接、項羽と戦うべきではありません」
劉邦は鄭忠の計に従って直接の交戦を避け、従兄弟の劉賈と盧綰に士卒二万人と騎兵数百を率いて白馬津を渡らせた。
二人は楚地に入り、彭越と合流すると彼を助けて楚軍を燕郭西(燕県の城西。かつての南燕国)で破ってから積聚(食糧輜重)を焼いた。これにより楚軍は後方物資の基盤を失い、項羽の軍に食糧を供給できなくなった。
楚兵が劉賈を攻めたが、劉賈はいつも営壁を堅くして戦おうとせず、彭越と助け合って楚に対抗した。守りの戦は決行上手い人である。
強大な楚軍に対し、劉邦ら漢軍は様々な連携によって楚軍の力を少しずつ削ぎ始めていた。




